第8話 高校生になりました

 小鳥の声と目覚まし時計の響く部屋で俺はガッツリ目を覚ましていた、つまり徹夜明けだった。

 徹夜とはちょっと違うけど…ほとんど寝れなかった…新学期って思うとちょっとワクワクしない?

 とりあえず起きてから水を1杯飲んで顔を洗って、口を軽く濯いでから隣の琴美ちゃんの家へ朝ごはんを作りに行く。

 歯磨きせんのかいっ!って思った人いるでしょ?俺は朝ごはん食べてから歯磨きする派なので。


「制服汚したくないから着替えんでいっか」


 とりあえず俺はハルとハルのミルクを持って隣の家にお邪魔した。


「おはぁよ〜」


「眠そうで何よりですねお嬢様…」


「家のチャイムで起きたばっかだったから…」


「なら僕が是非そのお胸を揉んで差し上げましょうか?」


 パジャマ姿に寝癖の美少女を前にして手を出さないのは男の恥、手を出せば人の恥になるがそんな事はどうだっていい。


「そんな悪い子には目にコンパス刺しちゃうぞ?」


「さて、朝ごはんを作ろうか!」


 一体どこから取り出したのか分からないが手にコンパスを持っていたので俺は伸ばしかけた手を即座に引っ込めた。

 ちょっと片目は勘弁して欲しいです…もしかして両目か?


「とりあえずハルにミルクお願い」


「はーい、ってか本当に連れてくの?」


「あたぼーよ」


 キッチンに移動して、せっせとミルクを作る琴美ちゃんの隣で俺は朝ごはんを作り始める。


「まあ確かにそれ以外無いしねぇ…おっ、ハルちゃんいっぱい飲むねぇ」


「昨日ちょっと調べてみたけどペット持ち込みは教師と相談次第でOKだって…あ、味噌汁は赤味噌でいい?」


「ほんとに!?時代も進んだもんだねぇ…あ、赤でいいよ」


 新婚夫婦のやり取りだよなぁ、この状況。

 赤ちゃん(猫)にミルクをやる美少女とキッチンで味噌汁と卵焼きと魚の塩焼きを作るゴリラかぁ…全然新婚夫婦じゃなかったわ。


「「頂きまーす」」


 とりあえず朝ごはんを食べ終わると、家に戻って制服に着替え、歯磨きをして学校に向かう。

 もちろんハル様のミルクとティッシュ、それからゴミ袋とぬるま湯の入った水筒、そして暖かい保温ゲージの中にハルと毛布を入れて。

 最近のゲージって便利ね、温度調節とか出来るものね。


「龍ちゃん!一緒に行こ!」


 家から出ると琴美ちゃんがスーツを着て既に待っていた。

 紺色のレディーススーツの中にピンクのポロシャツを着ている。

 俺は普通に高校の制服のブレザーですけど…ネクタイって難しいよね。


「琴美ちゃんも今日入学式でしょ?大丈夫なの?」


「時間は一緒だよ?」


「初日で琴美ちゃんと登校したら目立ちそうだなぁ」


「まあいいじゃん、ほら遅れちゃうよ」


 ため息を吐きながら、頭を少しポリポリと搔いて琴美ちゃんの元へ少し寄った。

 大人しく一緒に登校しよう…そして俺は高校でぼっち確定かもしれん。


「通勤ラッシュと時間ズレてるから空いてるねぇ」


 電車の中に入り、空いてる席に腰を掛け、ハルを膝の上に乗せた。


「まあそうだね…通勤ラッシュだったらそれこそ学校まで歩いて行かねばならんな」


「親バカだねぇ…既に」


 代々木駅に行くに連れて人が多くなってきた、制服や礼服を着てる人を見ると同じ学校の人が結構いた。そして多分大学生もいる。


「混んできたね…」


「ハルは…大丈夫そうだな…」


「寝てる?」


「うん、ぐっすり」


 ハルは毛布の上で丸まって寝ていた。あと心配なのは入学式の途中でミルク欲しさに鳴き出さないか心配…。

 あと、琴美ちゃんと肩が触れてるから俺の心臓の音が琴美ちゃんに聞こえないか凄い心配!

 なんぞ?めっちゃいい匂いするのだが?柔らかいんだが?あと周りの目も痛いんだが?


「龍ちゃん」


『!!!!?』


 琴美ちゃんがそう言葉を発した瞬間周りの目が一気にこちらへ向けられた…ヤメテッ!陰キャにはその目はキツい!


「ちょっ、琴美ちゃん…有名人なんだからもうちょっとボリューム抑えて…あと電車だから」


「おっと、ごめん」


 と、言ったものの時すでに遅しですしお寿司。

 周りから「あいつ何者?」って目を向けられてるよぉ。

 はい、能力値は最弱のただの高校生です。


 しかし周りの目から見た彼らはこうだ。

 第2位のSランク精霊術師が異常な肩幅の奴と仲良さそうに話してる!?

 そう…彼女こと南琴美は、世間体ではクールビューティーだったのだ。

 それが恋する乙女の目で隣のゴリラに話しかけているのがある意味不気味だったのだ。


「はあ、なんか電車乗っただけで疲れた…」


「んー、なんでだろうね?」


「何故か電車より開放的な空間のおかげか、さっきより多いはずの視線をあまり気にしなくなった…」


「あはは、龍ちゃん1日目から人気者だね」


 誰のせいだ、と言いたいところだがおそらく世間のせいだろうな。

 憎むべきは世界か…。

 そして何故俺は高校の入学式初日からこんな事を考えねばならんのじゃ…。


「それじゃまた後でね〜」


「うん」


 手を振りながらお互いの学校の校門へ入って行く。

 ああ、なんかより視線が集まってる…やめて、僕何もしてない。


「えーっと俺のクラスが…1年6組かぁ」


 もしかしたらこのクラス表見てる中に同じクラスの人もいるんかな?

 周りから「同じクラスだね〜!」とはしゃいでる人もいれば、「残念だなぁ…」と落ち込んでる人もいる。

 そんな中俺は一人で教室まで歩いて行った。

 なんかちょっと寂しいわ…琴美ちゃんしか今のところ知り合いいないし。

 だが収拾はあった…神谷虎太郎、そうクラス表に書いてあった。

 これは間違いなくあの虎太郎だろうな…確か奴は…2組だったか?

 とにかく俺は自分のクラスに急いで向かうことにした。

 何せちょっと押してるみたいなのです。

 なんか心配になって来たわ…。

 そして教室に入ると…。


「あっ、お前確か」


「お前!あの時の!」


 そう、スクランブル交差点で喧嘩を売ってきたDQNがいたのだ…お前タメかよ…。めっちゃ老けて見えるから髭を剃れ?


「あのビリ男か」


「ビリ男言うな!」


 ビリ男が椅子から勢いよく立ち上がりそう言った。

 お?なかなか鋭いツッコミ…貴様やるな?


「あん時はなんかのまぐれだ!もう1回勝負しろ!」


 ビリ男は俺の前に立ち指を刺してそう言った。

 え?メンド!こいつ根に持つタイプかぁ…。


「おい、根に持つタイプの男はモテないぞ?1回落ち着けよ」


「あ!?余裕ぶってんじゃねえよ!さっさと表出ろ!」


 大声で叫ばないでもらっていいですか?こちとら朝から視線集めてるってのに余計集めたら疲れんだろうが。


「はぁ、とりあえず入学初日から校内で色々あるとマズイだろ?そう言うのは別の場所でやってやるから今は落ち着け…」


 疲れたのでとりあえずテキトーにビリ男を促す。

 なのにこいつ…。


「あ?ビビってんのか!?」


「はぁ、ったく…」


 確かにアホにはそう捉えられても仕方ないか…これだからアホは困るんだよ…アホと言うかその場で感情的になってる奴?


「別にそうじゃねえけど…それともここでイキリ散らかしてるのを見られて、俺を倒そうが倒せまいがお前…この先それで高校生活楽しめんのか?」


「それは…」


 ビリ男の表情が曇った。

 こいつもやっぱり青春したいんだな…その気持ちが分かるからこそ言ってやる、落ち着けと。


「だからとりあえず落ち着いて話は学校が終わってからな?」


「お、おう…今はそれに乗ってやる」


「ほれ、とっとと席座んな…俺も時間が無いんでね」


 ビリ男は舌打ちをして大人しく席に座った。

 ほーら言わんこっちゃない…お前の周りの人、ちょっと引いてんじゃねえか。

 とりあえずハルにミルクをやらねば!

 俺はすぐさまバックからミルク缶と白湯を取り出し、ミルクを作ってシェイクをした。


「お前時間が無いってミルクかよ!」


「あ?てめぇ…猫の育児舐めてんのか!?あぁ?」


「!?」


 俺がちょっかいをかけてきたビリ男を本気で睨むと少し退いた。

 俺を邪魔すると言う事は、ハルの寿命を短くすると言うことだ覚えておけカスが!


「え?子猫連れて来てるの?」


「え?あ、うんそうだよ」


 クラスメイトの黒髪ロングの子に話しかけられた…あら美人さんね。食べちゃいたい。


「名前は?」


「ハルって言うだ、最近拾ってきた」


「へぇ、ちょっと見して」


 美少女がそう言うとクラスの人が俺も僕も私もとぞろぞろ寄ってきた。


「お、ぬわっ!」


 その場に立ったままのビリ男は押し退けられて行った。


「可愛い…」


「お?ミルク飲み終わったな…ビリ男ちょっと哺乳瓶洗ってくれる?」


「はぁ?なんで俺が…って哺乳瓶投げんな!」


 答えを聞く前に俺は哺乳瓶をビリ男へ投げた。

 スマンのぅ、今人に囲まれてて洗いに行けんのじゃ…。


「頼む、雑菌湧くの怖いから!早く!」


「ったく、貸しにしといてやる」


「サンキュ!」


 あいつ意外と良い奴?

 教室の左前の角に初日で人溜まりが出来るって俺人気者?

 違うな、ハルか…。


「おい、何事だ?」


 何やら先生らしき人が話しかけてきた。

 もしかして…この甲高い声は!?


「あら猫ちゃん…ってそんな事言ってる場合じゃなくて、皆さんとりあえず席に着いてください」


 何故だろう、この先生可愛い声過ぎてみんな言う事聞いちゃう。

 俺も大人しく席に座っちゃう。


「さて、とりあえず皆さん体育館シューズに履き替えて入学式に行きましょう」


『はーい』


 とりあえず入学式に行った。

 そして俺は半分寝ていたことは誰にもバレていない。

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