第3話 エクスブラスター

 ドズンッ、と巨大な四本脚とっとい尻尾を地に打ち据えて、赤いドラゴンが低く身を沈ませる。

 こちらに飛び掛かってくるのではなく、怒りを滾らせて待ち受ける身構えだ。


 狙ってやっているのではないだろうが……

 これが、海斗にとっては一番嫌な展開だった。


「畜生が……このまま戦ったら、町が下敷きになっちまうぞ」

『あなたが投げ飛ばしたんですけどね』

「仕方ないだろ、こっちだっていきなり見知らぬ別世界に放り出されて、地形も事情もわけ分かんねえのに!」


「ギィアアアアアッ!」


 竜が砲声めいた怒号をほとばしらせ、天と地とをかき混ぜ揺るがした。

 それだけで町並みの屋根が風圧で吹き飛び、威嚇するように踏み鳴らした左前脚が、土台の基礎ごと家ひとつを踏み潰す。


 海斗は強く舌打ちした。


「野郎、マジでわざとやってるんじゃねえか?」

『あり得ないとは言えません。竜とは地域と信仰によって神の化身とも、悪魔の別名とも呼ばれます。知性を持っている可能性はいくらかありますね』

「うんちく垂れてる場合かよ! どうにか被害を抑える手立ては!?」

『町から引き離すしかないでしょう』


 結局、それ以外に海斗も思いつかず、ハラを固めた。

 エックスの巨体を駆って、町に陣取るドラゴンに向けて轟然と突撃する。


 作戦と呼べるようなものはない。

 あのドラゴンを一撃で倒しきれそうな兵装、現状の切り札エクスブラスターのチャージ完了まで、無手の格闘で時間を稼ぐ。

 町になるべく被害を出させない。

 そのために、できれば、ドラゴンをもう一度町の外まで叩き出す――


 それでも、町への被害が出ないわけはないが。

 やるしかない。


 方針の要点を頭の中でまとめて、海斗は雄叫びを上げた。


「うおおおおおっ!」


 戦意高揚バトルクライ

 戦闘態勢ゲットセット

 ――交戦開始オープン・コンバット


 こちらも、エックスのつま先で物置らしき小屋の壁を崩しながら、ドラゴンの頭部と肩に掴みかかった。


 ドラゴンがいるのは町の中心というわけではなかったが、片隅というほど外れでもない。

 さっきのような大立ち回りするわけにいかず、堅実な組み打ちに持ち込んだ。


 しかし。


「う、お……っ!?」


 肩を怒らせ、首と頭を振るようにして暴れるドラゴンに、機体の重心が大きく崩される。

 しがみついて、どうにか振りほどかれるのは防いだが、抵抗を抑えきれずエックスの足がたたらを踏んで押し返された。


 無理もないだろう。

 ドラゴンの体長はエックスの全高25メートルを上回り、体重はさらに数割増しになる。

 重量差はすなわちパワーの差であり、向かい合ってのぶん殴り合いならともかく、単純な力比べとなるといささか以上に分が悪い。


 闘牛士だか金太郎だかの気分を味わいながら、叫んだ。


「クオ! エネルギーのチャージ、今どれぐらいだ!?」

『30%程度。あと2分は必要です』

「すっとろいなあ! こっちは長くは保たねえぞ、これ!」

『お得意の喧嘩の華トラッシュ・トークで挑発してみるというのはいかがでしょうか?』

「これ以上キレさせてなんの得があるんだよ――ど、おわぁ!?」


 言う間に、ドラゴンがひときわ大きく身震いして、エックスの両腕の拘束を振り払った。

 自由になったドラゴンは、その場でゴウッと風を撒いて大きく身を翻す。

 そのまま、ほとんど密着するようなこの間合いから、太い尻尾の一撃がエックスの腹をしたたかに打ち据えた。


「ぐお――っ!」


 至近距離での予想外の動きに、海斗は反応しきれなかった。


 機体に衝撃。

 鋼鉄の巨人が町の大通りを転がり、数件の家屋を巻き込んでぶっ倒れる。

 近くにあった屋台らしきものが壊れ、荷台の食材が無為に地面にぶち撒けられた。


 広場に出ていた木のテーブルや椅子も、バラバラになって宙を舞う。

 幸い、避難が済んでいたのか、人の姿はなかったが。


「くそっ、こんな町のど真ん中だと、やりにくい……!」


 せめて、なにか武器があれば――

 胸中で叫ぶが、ないものねだりなのは分かっていた。


 当たり前の理屈として、そうそう海斗にだけ都合の良い展開など起こり得ない。

 そもそもが悪の天才科学者の拠点と自爆した直後、いきなり異世界の遥か上空に飛ばされて、あげく、今は凶暴なドラゴンと取っ組み合いである。

 それでも為すべきことを成すしかないから、歯を食いしばって抗い続けるのだ。


 ドラゴンは、当たり前だがそんなこちらの都合など知る由もなかった。

 倒れ込んだエックスを追いかけて、大通りの石畳を踏み砕きながら、地鳴りを上げて猛然と突進してくる。


 左右の脇に建っていた家屋が片っ端から激震に見舞われ、漆喰塗りの壁が、斜めに張った瓦屋根が割れ、砕け、瓦礫となって路上に崩れ落ちた。

 はめ込まれた窓ガラスに至っては、振動だけで次々と弾け飛んでいく有り様だ。


「グァアアアア――ッ!」


 それらすべてを無視して、踏み越え、赤く禍々しい巨体がエックスに迫る!


「ちぃ……っ!」


 機体を起こしきれていない中途半端な体勢で、巨竜のぶちかましをまともに喰らった。


 町並みをガリガリ削りながら、黒鉄のロボットが豪風とともに吹き飛ぶ。

 受け身も取れずに、また機体の背中が硬いものに激突し、地震めいた激動と衝撃にさらされる――


 しかし、今度は地面に向けて倒れたのではなかった。

 途中でなにかにぶつかって転倒を免れたらしい。

 片膝をついた格好のエックスの背後で、なにか巨大な物体が代わりのように、ドォーンと間延びして響く音とともに倒れ込んだ。


 首だけ動かして振り返り、見下ろして――

 思わずうめいた。


「なんだ、これ? 巨像……?」

『黄金の騎士像ですね。メッキですが』


 クオが言い足してきた、それそのものだ。


 ざっと見ると、重装の鎧剣士のようだった。

 全長は、エックスと同じくらいか。倒れていて分かりにくいが。

 町中に置くにしては妙なオブジェだが、それは単に、これがこの異世界の文化の標準なのかもしれない――


「キシャァァアアアッ!」


「っ!」


 怪鳥めいた金切り声を上げて、またドラゴンが襲い掛かってくる。

 建物を残骸の山に変えながら、町を轢き潰し、破壊の嵐の化身のように。


 その絶叫、おぞましい咆哮に、身がすくみそうになって――


 それでも海斗は逃げなかった。

 断ち切るように裂帛の気合いで叫ぶ。


「意地と……道理で! 推して参るっ! こなくそォッ!」

『海斗!』


 クオの警告。

 巨竜との激突まで幾許いくばくの猶予もない。


 反射的に海斗は腕を――エックスの腕を伸ばしていた。

 そこに落ちていた“もの”を、掴んで拾い上げる。


 それがなんなのかをはっきり意識する前に、身体が動いた。

 鋼鉄の両腕で長く巨大なそれを掴み直し、突っ込んでくるドラゴンに対して突きつける!


 ――騎士像が手にしていた、巨像サイズの儀杖剣クォーテージ・ソード


 竜の巨体が目前に迫りくる。

 それを見据えて、海斗はかっと目を見開いた。


 エックスを起き上がらせた直後、また逆に黒鉄の巨躯を傾けさせる。

 一歩だけ身を引き、紙一重でドラゴンの突撃をかわす。

 一か八かの見切りだったが……この土壇場で、回避に成功した。


 そして最小の体捌きでいなしたことで、反撃の余裕もまたここに生まれる。


「うぉらあああああ!」


 叫び、握り込んだ騎士の巨剣を、ドラゴンの背中の翼へと力ずくで突き立てた。


「ギ、ガァァアー!?」


 まだしも皮膚と鱗の薄い飛翼とはいえ、こちらの剣もただの立像の飾り物だ。

 あまり綺麗に貫けたわけではないが。


 それでいい。十分だ。

 翼を貫通した巨剣の重量のせいでバランスを崩し、ズシンと地に倒れ込んだドラゴンを、海斗は思いっきり指差してやった。


「そんなもんぶら下げてりゃあ、もうドコドコ鬱陶しく走り回れねえし、飛べもしねえだろ! ざまぁ! トカゲざまーみろッ!」

『海斗……ここはもう少し品のある、格好いいセリフを言う場面では?』


 言ってくるクオに、やけくそで叫んだ。


「野蛮で結構、喧嘩上等ッ! それよりチャージはどうなってる!?」

『70――いえ、60%です。想定以上に消耗が激しい。戦闘行動を取りながらのジェネレーター供給では、どうしても時間が――』

「急いでくれよ! もういい加減、こっちの操縦系統にも無理が来てる!」


 度重なる激突と衝撃で、コックピットの機器類もモニターもガタガタだ。

 ブラスターにパワーを回しているせいもあって余裕はほとんどない。

 『動力枯渇EMPTY』の警報アラートもけたたましく、否が応の危機感を煽られる。


 とはいえダメージはお互い様だ。

 身を起こしたドラゴンの、眼に宿った鬼気はそのままだが、身体の動きは明らかに重く鈍くなっている。

 単純に、片翼を抉ったままの剣の重みのせいでもあるだろうが。


 畳み掛けるなら今だ。

 確信とともにレバーを駆り、エックスの巨体を走らせる。


 巨人と巨竜、二体でひとしきり暴れ回って、町の一角は半ば更地になっている。

 悪いとは思うが――海斗にとっては、かえって遠慮なく動けてやりやすくなった。


 そう開き直れば、この状況で打てる手というのも見えてくる。

 どうせやるなら荒っぽく、派手に大胆に。

 豪快無双かつ、ダイナミックにだ。


「どらっしゃあっ!」


 飛び出した勢いそのままに、風を切り唸りを上げるエックスの右足で、ドラゴンを蹴りつけた。

 強烈な跳び廻し蹴りが、ダメージに揺れるドラゴンの胴をしたたかに打ち据え、弾き飛ばす。

 さしもの豪脚にも限界近い負荷がかかって、膝関節のシステムとサーボモーターが悲鳴と軋み声を上げるが。


 まだ動く。まだやれる!


 よろめいて後退したドラゴン――着地し、そこへ再び駆け寄るまでの途上に、背の高い教会の尖塔が建っていた。

 エックスの右腕で、海斗はそれを掴んで土台ごともぎ取った。

 鉄塊をぶら下げた尖塔を掴んで、両腕で握り直し、振りかぶると。


 ホームランバットのように勢いをつけて、思い切り、振り抜く!


「――――――!?」


 ゴォー…………ンッ、と、遅れて鐘の音が重く響き渡る。

 どうやら鐘楼だったらしい。

 ドラゴンの頭をぶっ叩いた衝撃で、粉々に砕け散ってしまったが。


 大きく吹き飛ばされ、宙で溺れるような格好で後退する赤竜の巨体。

 ドォッ、と落ちた先の地面は、もう町の石畳ではなかった。

 平野の草原地帯に巨体が叩きつけられ、猛風と土砂を巻き上げて大地が震撼する。


 町の外へ追い出した。

 これで今度こそ、気兼ねなく戦える舞台が整ったわけだ。


「はっはー! どうだオラ、見たかコラ、K点越えの特大ヒットチャート120点満点の作戦通りだぜ!」

『種目とジャンルぐらい統一してはどうかと――海斗。対象内部に高熱源反応』

「なに!?」


 クオの声に、海斗はぶっ飛ばした先のドラゴンを再度見据えた。


 モニターの向こう、町の外で身を起こしたドラゴンが、大きく身体を震わせてエックスを睨んでいる。

 その巨体、鱗に覆われた皮膚が下から盛り上がるように隆起し、膨れ上がりながら発光している――


 唸るような巨大な風音。

 ドラゴンが大きく息を吸い続けているのだ。

 赤い巨体がさらに膨張し、赤熱して、鱗の隙間から不吉で剣呑な輝きを赫々かくかくと漏らし始めた。


 不吉な予感に海斗が背筋を強張らせていると、クオが続けて言ってきた。


『あれは――熱反応波形と敵生体の形態から、口腔内から高熱のガス噴流を放射するものと思われます』

「見れば分かるってのっ! わざわざ言うな!」

『回避を進言します』

「駄目だ。ここで避けたら――町が火の海になる!」


 位置が悪い。間が悪い。

 海斗とエックスの後ろには名も知らぬ町が、意図せず戦場になってしまった町並みが広がっているのだ。


 どこまで避難が完了しているかも分からない。

 仮にそれが万全だとしても、あのドラゴンの体内に膨れ上がる熱と息吹の圧力は、今でさえ町全体を呑み込みかねないほどの破滅的な気配を漂わせている。

 これが解き放たれれば、間違いなく町は壊滅するだろう。


 海斗はエックスを、町を背後に庇うように立ち塞がらせた。

 鋭く声を上げる。


「クオ! チャージは?」

『どうにか75%まで』

「くそっ。フルチャージは間に合わねえな……ええい、ままよ!」


 頭を振って切り替えて、決断する。

 クオに命じた。


「ギガプラズマエンジンをオーバードライブさせろ! 焼き付いても構わねえ、全力全開でぶっ放すぞ!」

『正気ですか? 最悪、機体が反動で自壊しますよ』

「知らん! 全部まるっとうまくやれ! やってみせろよ、なあ相棒ポンコツ!」

『――――』


 しばしの沈黙。

 いや、返答はなかった。


 ただ無言で、クオは実行に移した。

 エックスの両足のすねから、数本のスパイク状の突起が生え出し、深々と草原の大地に突き刺さる。


『アンカーボルトセット。ギガプラズマ、オーバーロード――ブラスター準備』


 その声を聞いて、海斗はどっかりとシートに背をもたせかけた。

 引き絞ったレバーを握り締めて、待つ。


 町外れで、ドラゴンがピタリと巨体の膨張と吸気の動きを止めた。


『仮想誘導砲門展開――射出角、水平正面。エネルギーチャージ完了。現在出力、仕様限界想定の150%』


 ドラゴンが首を仰け反らせる。

 傲然と首をうねらせ、天を睨む。

 あかい危険な輝きが最大を超え、限界にまで高まり――


 頭を振り下ろすと同時、その大口を開けて、轟哮とともに地獄のような炎の息吹を解き放つ!


「ゴァ――――――ッ!」


 巨大な咆声と閃熱が弾け、赤く大気を焼き焦がす。

 凶猛な大顎の奥から渦巻くような爆炎の吐息が放たれ、エックスと、背後の町へと押し寄せる。


『臨界係数値突破――全力全開、オーダーの通りです。海斗マスター!』

上出来ドンピシャだ! 喰らえや赤トカゲっ、紅蓮の爆光! エクスブラスタァァァー――ッ!」


 叫び、音声入力で武装を起動しながら、両腕のレバーを交差させるように前へ滑らせた。


 極大と呼んで差し支えない熱と衝撃、真紅の輝きが膨れ上がる。

 機体そのものが反動で押されて倒れかねないほどの、ただ凄まじいばかりの威力が撃ち放たれた。


 天地焼き焦がす凄絶な超熱線砲ブラスターが、ドラゴンの放った猛火のブレスと激突する。

 刹那、互いに絡み合った光熱と衝撃が、世界を震わせ揺るがしてから――


 ――十字に収束して切り裂く熱線の輝きが、ドラゴンのブレスを消し飛ばして、突き抜けた。


 グオッ、と空気が膨れ上がって、次いで爆発して弾け飛ぶ。

 幾度目かになる激震が、その中でも最大の衝撃波が、大地を強く激しく揺さぶって鳴動させた。


「――――――!」


 辛深紅からくれないの熱線がドラゴンに突き刺さった。

 否、その身体を悲鳴ごと呑み込んで、巨大すぎる火柱を吹き上げた。


 巨体が飴のように溶け、崩れ、そして灰燼の炎に呑まれて消し飛ばされる。


 極炎が爆発へと姿を変えて、吹き荒れる熱風の嵐が草原を駆け抜けた。

 それが吹き抜け、通り過ぎれば――


 後には、十字架状に抉れた地面の大穴クレーターと、黒焦げになったドラゴンの脚と尻尾の残骸が転がるだけだった。


『対象の反応、消滅――』


 クオの電子の音声が、静かにコックピットに響いた。


『――勝ちましたかね?』

「だから見れば分かるだろ」


 肩をすくめて、海斗はあっさり告げた。




 ――そして。


『海斗。機体各部、くまなくオーバーヒートです。戦闘続行不能』

「その必要もないだろう。とりあえず」

『あと、私も電算機器類が半分ショート、そのまた半分が修復と再起動待ち状態。休暇が欲しいですバケーションプリーズ

「分かった分かった、寝てろポンコツ。ただその前に降ろしてくれ」


 ぶしゅううう、と白煙を吹き上げながら、エックスがその場にくずおれて膝をついた。

 が、コックピットの搭乗口ハッチが開かない。


「クオ?」

『海斗。大丈夫ですか? 外には――』

「分かってるよ。俺のことはいい。どうとでもするから、さっさと開けろ」

『……お気をつけて』


 言い残して、クオはスリープ状態に入った。

 ばしゅん、と機体頭部のハッチが展開し、少し冷えた外の風が混ざり込んでくる。


 シートベルトを外して外を見ると、夕陽の輝きが目に眩しかった。

 あれだけ閃光や爆発にさらされておいて、今さらそれを感じるのも奇妙な感覚だったが。


 ともかくコックピットから立ち上がって、頭部から右肩へと飛び移るのだが。


っちゃあ!? 熱い熱い、やべえ、ブーツが溶けるーっ!」


 手をついていたら危なかったかもしれない。

 慌てて垂らされたエックスの右腕を滑り降りて、手のひらから地面に飛び出す。


 ボロボロの黒い装甲を駆け下りて――

 そして、振り返った海斗の背後に待っていたのは、町の向こう側から押し寄せてきた何十人もの兵士たちだった。

 当たり前だが武装していて、海斗を遠巻きに囲んで剣を向けてくる者たちもいる。


 鎧を身にまとった姿は、あるいは騎士と呼ぶべきなのかもしれないが。

 正確になんなのかはよく分からない。

 というのも、その鎧というのが甲冑のような装甲のような、どうにも見たことがない形状をしていたからだ。


 歴史の類に詳しいわけではないが、中世ヨーロッパ風の甲冑鎧というか、近未来SFのアーマーというか、それらが混ざったようななにかだ。

 手にした剣や槍も妙にけったいな機械機構(らしきもの?)を組み込まれたゴテゴテの代物ばかりで、そこから察するに、文明レベルは相当以上に高いのではないかと値踏みする。

 そのわりには、さっきの町並みは中世期を思わせる造りだったし、どうにもちぐはぐな感じではあった。


 騎士らは兜も被っているが、各々の顔は見えていた――どれもまあ、ちょっと彫りは深い感じだが、普通の顔だった。

 目と耳が2つに、口が1つ。

 色白が多いが、肌もなんてことない肌色である。

 バリバリ原色の赤とか緑とかではない。


 人間だ。

 間違いない。


「――あなたが、その黒いゴーレムを操っていた方ですか?」


 とはいえ、さすがに普通に分かる言語で語りかけてきたのには驚いたが。


 口を開いたのは、身構える前列の騎士たちではなかった。

 その後ろから、凛冽とした声が鈴のように響いて、騎士たちが驚いた顔で振り返る――


 その列を割って進み出てきたのは、ひとりの少女だった。

 18歳の海斗とそう変わらないか、少し下くらいの。


 やはり鎧姿ではあるが、他の騎士たちのそれよりさらに洗練された細身の装飾鎧は、はっきりと高貴な雰囲気を漂わせている。

 見ようによっては白金色の礼服や、薄手のドレスのようにも見えるかもしれない。


 少し考えてから、海斗は正直に答えた。


「ああ、そうだ。ゴーレムってもんじゃないんだけどな」

「町を守り戦ってくれたこと、感謝します」

「成り行きだよ。喧嘩に巻き込んじまったようなもんだしな。ええと」


 と、言葉に迷って周囲を見回し、騎士たちの不審と警戒の眼差しを眺めるだけに終わってから。


「……歓迎してはくれない、よな?」

「そうしたいけど、規律があるので。町を、民を、国を守るための不抜の誓いが」


 いくらか大仰にそう言って、少女は――

 後に知ることになるのだが、この国の第一王女・・・・、アトラという名の姫騎士は。

 ガシャンと、その細い身体に不釣り合いなほど巨大な機構剣の切っ先を海斗に突きつけて、告げた。


「さしあたっては、特大規模の器物損壊罪で逮捕します。この人数を相手に、まさか抵抗はしませんよね?」

「……はい」


 海斗は観念して両手を上げた。

 言われるまでもなくへとへとで、抵抗の余地もない。


 前に出てきた騎士のひとりに大きな手錠をかけられた。




 ――こうして。

 鉄海斗の異世界来訪1日目は、騎士団に身柄を拘束され、放り込まれた牢屋で寝落ちして終わった。

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