ポストの森

 ふわふわ白い地平線。ポストの森に文喰獣の雪布団。

 めえめえ文字を喰わせろと、ポストを衝いて手紙を落とす。ポストを突いて手紙に群がる。

 波のように、動いたり鎮まったり──ふと、鳴き声以外の音が聞こえた。

 小さな郵便屋は周囲を見回した。

 この辺りから聞こえた気がすると、もふもふの下を覗き込む。

「……ぁ、ども~」

 人がいた。

 さっき会った旅人とはまた違う。白いコートを纏い、帽子を目深に被った中性的な少年だ。緩い笑顔で手を振って体を起こす。

「君、この世界の郵便屋さん?」

 小さな郵便屋が頷く。

「そっか。僕も郵便屋なんだ」

 白いコートの郵便屋は鞄から一枚の封筒を取り出した。宛先も切手もない。さらに言えば、光に透かした封筒の中には便箋が入っていなかった。

「言葉のない世界で書かれた手紙なんだけど、さすがの僕も届け先が分からなくて……助けてくれる?」

 小さな郵便屋は袖で隠れた両手を差し出し封筒を受け取った。肩からかけた鞄の中へ大事に仕舞い、ポストの上を跳ねて行く。

 しかし言葉のない世界で書かれた手紙とは不思議な物があったものだ。この空っぽの封筒で何を伝えるつもりだったのか。

 ポストの上を進む郵便屋に、文喰獣の食べた文字の残骸が吸い寄せられるように集まってくる。跳んでいく小さな郵便屋とそれを追う黒い靄は、遠目に見ると流星のようだった。



「想いを吸い綴るレターセット……か。うん、届くといいね」









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 とん、ことり。

 薄暗い静かな部屋に響いた音。配達のバイクの音は聞こえなかった。

 長く、周囲との接触を絶っていた。

 のそり。布団から這い出て郵便受けを覗きに行く。

 督促状か最終警告か、はたまた──。

「……悪戯か」

 宛先も切手もない、茶封筒が出てきた。指先で触ってみた感じでは便箋もない。しかし封はしっかり閉じてある。

 光に透かしてみると、何やら書いてある。

 不思議に思って封を開けた。

 躍るように文字が飛び込んでくる。封筒の中に綴られた想いが溢れ出した。

「っ……!」

 驚いて投げ出した。

 そんなはずはない。そんな優しい言葉をくれる人は、あの人はもう居ないのに。なんだこの手紙は!

 夢なら早く覚めろと震える手で視界を覆う。


 希望を失った男の小さな世界。





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