交流会…後


 カルムとロント村のメンバーとの交流会が行われている頃、とある変わり者が集まる村に、一人の旅人が訪れた。

 黒猫を連れた旅人は、成り行きで預かったのだと言って一通の手紙をロントに渡した。依頼内容は近々行われるオークション会場の警護。


  * * *


「貴方達はそのまま、今から指定する場所へ向かいなさい」


 カルム滞在も残り一日を切って、「もうすぐ帰るよ」と報告したら舞い込んだ仕事。内容はオークション会場の警護。


「警護……なら、メンバーは」

『全員で』

「誰がまとめるんですか」

『あら、決まってるじゃない。貴方よ、エトランゼ』


 電話越しにも「何当然のことを」という表情が易々と想像できる言い方だ。

 シュクはまだしも、イルタは戦闘スイッチ入ると止めるのが大変なのはロントさんも知っているはずなのに……と、内心溜め息をつく。

 大まかな場所の説明を受け、後は自分で探しなさいと電話は切れた。残り時間は街の探索に費やされそうだ。


「まぁ、観光がてらってことで良いか」


 チーゼ達にも知らせなくてはと廊下を進むと、ご機嫌なルルと遭遇した。


「満足するだけ暴れられた?」

「いやいや、これから。今夜辺り仕事があるらしいんで」

「奇遇だね。僕らのところも依頼が入ったんだ。

 仕事、頑張ってね」

「お互い様にねー」


 ひらり手を振ってルルは外へ出掛けて行った。

 エトランゼは交流会に参加している仲間――シュク、チーゼ、イルタ――に声をかけ、オークション会場となる場所を探す為に街へ繰り出した。





 夜、石畳の街を抜ける風はまだ肌寒い。

 イルタは借り物の制服に身を包んで、与えられた担当エリアを見回っていた。


「こういうのはさー、侵入者とかなかったらつまんないよねー?」


 胸元の小さな機械に大きな独り言。

 すぐに短いノイズの後にチーゼの叱咤が返ってきた。

 イルタは自身の耳を塞ぐ代わりに小さな機械のスピーカー部分を手で押さえ、音を遮った。


「はいはいはいっと。言っただけじゃーん」


 何事もなければ、それに越した事は無いのだと分かっているものの、やはり刺激を求めてしまうようだ。


「エトランゼー、異変あったらすぐ呼んで。飛んでくからー」

『…余計な被害出しそうだから呼ばない』


 機械越しでも表情が見えそうな声だと笑った視界の隅に、白いものが過ぎった。


「?」


 見覚えのある感じだった。しかし曲がり角の先には誰もいない。


「……」


 にやり。思わずにやけてくる表情は抑えられない。

 無線を片手に、他のエリアを見張る仲間に知らせる。


「あー…侵入許したっぽい」


 途端、二人から非難の反応が返ってきたが、イルタがそんなものを聞く訳もなく――。


「楽しくなりそうだ」


 ――チシャネコのような笑いが殺気を隠すように広がった。








 イルタが外部からの侵入を許してしまったと報告した頃、慣れない無線をいじっていてうっかり電源を落としてしまったシュクには情報が届いていなかった。

 諦めて制服のポケットにしまい、顔を上げると見覚えのある姿が目に入った。


「……ヤエ、さん?」

「あ……」


 声をかけると立ち止まってバツの悪そうな表情。


「ヤエさんも、招待されたの?」

「違うよっ! お仕事で来てるんだから。

 ……シュク君、ここの警備もしてたの?」

「依頼。今夜の集まりを無事に終わらせるのが仕事」

「ダメだよ!」


 急に声を上げたかと思えば、ヤエはシュクの腕を掴んで建物の外へ向かおうとした。


「……放して」

「君達を巻き込む訳にはいかないんだから!」

「持ち場を離れるなって言われてる」

「いいの!」

「よくない!」


 ぶつかり合う目線。お互いに譲ろうとはしない。


「そっちに誰かいるのか!?」

「やばっ」


 曲がり角の向こう側を見張っていた警備員が近付いてくる。

 ヤエは慌てて物陰に身を隠した。


「……いない、なぁ。んー? ここも俺が担当だったか?」


 警備員はざっと見回した後、戻っていった。

 足音が聞こえなくなり、ようやく力が緩む。


「あのさ、ぼくまで隠れなくても良かったと思うんだけど」

「あ。

 いや、ほら、知らされると困るからだよっ」


 もっともらしい事を言われても下手な言い訳にしか聞こえないが、そういうことにしておく。

 そういえばまだ聞いていない事があった。


「ヤエさんの今夜の仕事って何?」


 聞かれてヤエはくるくると視線を泳がせてからシュクの質問に答えた。

 いわく、今夜開かれるオークションの中止。戦闘メインではないヤエは仲間が侵入する為の経路等を調べる役割だったのだとか。


「あっさり見つかったけどね」


 普段ならこんなにゆっくりはしてないし、万が一捕まっても話さない。

 気を許してしまっているのかも知れない。交流会のせいだ。


「――内容を知ったからには協力してもらうんだからね!」

「えー」


 びしっと指差して宣言したヤエに、シュクは嫌な顔ひとつして返事した。

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