第八章 待ち合わせ 1

「遅いっ・・・!」

ようやく姿を見せた夫に向けて、私は頬を膨らませた。


「ゴメン、ゴメン・・・」

流れる汗をハンカチで拭いながら近づいてくる。


「中々、会議が終わらなくて・・・」

背の高い夫は190㎝の身体を窮屈そうに折り曲げて、私を見つめている。


ヤツとは正反対の身長だ。

私は去年、結婚した。


幸せな新婚生活だが、時折、脳裏に浮かぶ切ない記憶に胸がキュンとなる。

小さな男の子の西島の太い眉毛のサル顔が、何度も思い出されるからだ。


それでも気を取り直して、夫の腕をとり甘えた声を出した。


「今日は、どこへ連れてってくれるの・・・?」

「言ったろ、プールさ・・・水着、持ってきた・・・・?」

「さっき、買ったばかり・・・見たい・・・・?」


私はさっきのカップル以上に、何だかなぁ的に甘えていた。

これじゃあ、人のことは言えんわ。


幸せの温もりに包まれ、私達は夫のすすめるプールに向かっていった。


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