第七章 別れ

「うえっ・・・うぎぃえーん・・・・」

ヤツの鳴き声が公園に響いていた。


何人かの小学生が何ごとかと、遠巻きに見つめている。

太い眉毛のサル顔が、人目もはばからずに号泣していたからだった。


私は何も言えず、ヤツの泣き顔を見つめていた。

すると、居ても立っても居られない気持ちになって、ヤツの身体を抱きしめていた。


身長150㎝のヤツは子供のようで、私の胸にスッポリ頭がおさまる。

まるで母親の如く、私は愛情をこめて抱きしめていた。


だって、これで二人は別れるのだから。


私の父は外交官で。

中学卒業のあと、ヨーロッパに旅立つ。


永遠の別れではないけれど。

再会できる日は遠い。


大好きな小さな男の子は。

私から告げられた残酷な話を疑いもせず、泣きだしたのだ。


こんな可愛いヤツ。

ギュッとしない筈はない。


春間近の公園で。

薄い西日が差すジャングルジムの前で、私達は別れのハグをした。


10年前。

切ない日の思い出が今、私の脳裏に蘇っていた。


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