第二章 背の低い男の子は嫌いですか?

教室を喧噪が渦巻いている。


「また、アイツらか・・・」

私は頬杖をつきながら、ボンヤリ黒板の方を眺めていた。


「シャアッー・・・」

右手で大げさに拳を握る、中学三年生の男子。


黒板前の教師の机を卓球台にして、下敷きでピンポン玉をはじいている。

いつもの光景、おバカな男子のパフォーマンスだ。


その筆頭格。

山田が吠えている。


アイツとは一年生からの腐れ縁だ。

今でも、アイツのバカぶりが思い出される。


「処女って、知ってるぅー・・・?」

その大きな声に、教室中の女子が凍りついた。


「セックスしてない女のこと、なんだぜぇ」

本人は廻りにいる男子生徒だけに話しているつもりらしいが、みんなには筒抜けだ。


今から思えば無理もないが、遂、数か月前は小学生だったガキだ。

性教育実習を受けた女子とは知識が違う。


それにしても。

処女って・・・。


「俺もこの間、エロ本で読んだよぉ・・・」

これもバカな準代表の藤田が続く。


おいおい、誰か止めろよ!

でも、クラス中の女子は遠巻きで顔を赤く染めて、聞かないふりをしているだけ。


私も、わざわざ突っ込む勇気が無くて。


こいつ、バカだ・・・。

それが、山田の第一印象だった。


「それがねぇ・・・」

中三になった今も、同じクレスメートのバカを見ながら呟いた。


アイツ、成績は学年で10番以内なんだ。

それもバスケ部のキャプテン。


結構、モテるみたい。

でも、意外とオクテで彼女はいない。


好きな女子は知っている。

私ではない。


背の低い、可愛い子だ。

別にヤツは、好みではない。


足、短いし・・・。

それよりも。


一緒に下敷き卓球している西島に、私の目はくぎ付けだ。

小さくて、可愛い。


ずっと、私の胸はキュンキュンしてる。

そう、私はヤツが好きだ。


西島 清志。

眉毛が濃くて、サル顔。


でも、両目のまつ毛は長い。

切れ長の瞳がクッキリして、女の子みたいだ。


時代劇に出てくる、イケメンスターに似ている。

西島に恋してから、毎週、見るようになった。


可愛い、私のアイドル。


好きになったキッカケは。

ある日の体育館。


背の高い私は、当然、バレー部で。

あっ・・・言い忘れたけど、私の名前は吉川由美。


その頃から身長は170㎝近くあった。

だから、普通の男子には恋愛対象外。


いつも吉川さんと、敬語で呼ばれる始末。

今でこそモデルみたいだと言われる時もあるけど。


中学生の男子は、やはり。

小さな女の子が好みなのだ。


私だって、自分よりも背の高い男子には憧れた。

「お姫様抱っこ」なんて夢見たりして。


でも、所詮は無理。

中学生で180㎝以上の男子なんて。


青木ぐらい。

同じバレー部のキャプテン。


イケメンでモテモテだ。

でも、タイプではない。


私は西島が好き。

だって、可愛いんだ、アイツ。


身長152㎝。

それも身体測定で背伸びしていたらしい。


それと。

前置きが長くなったけど。


あの日の体育館で。

練習していたら。


弾んだボールが二階の卓球部のエリアに。

とりに行った私が目にしたものは。


壮絶なラリー。

緑の台の上を白いピンポン玉が高速で往復していた。


間近で見る、初めての卓球シーンだった。

ネットすれすれの打球が台の端を通ったかと思うと、赤いラバーが弾き返す。


見た目に決まったと思った瞬間、逆方向に打ち返している。

何回も続いた後、大きい方の男の脇をボールがすり抜けた。


「チックショー・・・」

悔しそうに顔をのけぞらしているのは、同じクラスの赤石だった。


「サッー・・・」

右手の握りこぶしで声をだしていたのが、西島だ。


短いスポーツカットの黒髪の付け根から大量の汗が流れ、キラキラ光っていた。

濃い眉毛とサル顔が、いつも見ている印象とまるで違って。


「か、かっこいい・・・・」

私は思わず呟いていた。


それ以来。

私は小さな男の子が好きになった。


それが、私の理由1。

理由2は次のお話で。


じゃあね。


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