第6話 王都でのお祭り

 そして一週間後の舞踏会が行われる日、私達観光課のメンバーはルノーアさん企画立案で協力はギルド「フォルニア」で催された王都でのお祭りに来ていた。

 折角のお祭りなのに行かないのは勿体無いじゃろう、とのルノーアさんの言葉で連日ギルドハウスに行って疲れているはずのレイさんも無理矢理に連れ出した。私もお祭りに行くのは賛成だけどレイさんはどうなのかな…… 大丈夫だと良いけれど。

「レイ、何処から回るのじゃ?妾はどう見て回っても良いぞ」

「おいルノーア…… 俺は毎日あっちと打ち合わせをして疲れているんだが…… 」

 レイさんは力無さげに言うも、お祭りの雰囲気をルンルンと楽しんでいるルノーアさんには届かない。

『いらっしゃーい、こちらのポーションは如何ですかー?』

『今日は貴族方の舞踏会が開催されるってことでいつもより多く仕入れてます!奮ってご購入くださいませー!』

『今朝取れた新鮮な野菜、魚は如何ですかー?行商人から買い付けた一級品でございまーす!』

 至る所から割れんばかりの声、声。

 通りには沢山の露店が立ち並び人の往来もいつもの何倍も行き交っている。

 歩いているのは人だけではなく耳の尖ったエルフや犬や猫のような特徴を持つ獣人族、黒い羽や捻れた角などを持つ魔族なども見られた。

「あらゆる種族がこうして見られるのは多分ここだけだろうな。他だと人間と魔族の争いの影響で魔族か人間のどちらかが迫害されているのが普通だ」

 レイさんが二日酔いの後みたいな顔をしながらも私に教えてくれる。その言葉を聞いてレイさんはかつて魔王城に着くまでに世界中の沢山の国や地域を巡っていた事を思い出した。私が知らないだけで世界って凄く広いのだと再確認する。

「ルノーアの言う通り、屋台でも回っていきますかね」

 レイさんがぐいっと伸びをした。

 

「祭りといえば外せない射的!」

 私達が最初に訪れたのは、弓を使って景品を射落とす射的な露店。

 景品は三段の段の上にただ置かれていているだけの人形やら置き物やら。

 しかし小さいものもあるので当てるのは決して簡単では無い。魔法を使用する事はルールで禁じられているので、単純に弓を操る腕を試される。

 景品はどれもパッと見て良いものは私にとっては無かったけれどルノーアさんの琴線に響くものがあったらしく、

「レイ、あれを取って欲しいのじゃ!」

 歪なコップみたいな形をした木の彫刻を指差しながらねだっている。私には何一つ響かない物に何かを感じ取るルノーアさんは常人と違う感性を持つに違いない。

 実際ルノーアさんは元魔王とは言え、私と歳はあまり変わらないし捻れた耳を除いては普通の少女と大差無い。性格もレイさんを想い続けているし(レイさんから聞いた話だから本人がどう言うのかは分からないけど…… )純粋だ。ただ元魔王だからなのか感性がちょっとズレてるだけで。

 レイさんは弓を構えて木の彫刻に焦点を合わせると、ヒュッと弓を引く。

 カツッコトン。

 その弓矢は真っ直ぐ飛び見事に木彫りの彫刻を射落とした。レイさんは弓を持ちながらグッドポーズ。

「いやー、あんたさん凄いね。これ取られないと思ったんだがね?」

「弓”も”得意なんすよ俺って」

 この言葉から、勇者として旅をしている時に剣以外にも修行の一環として扱えるようにしていたのだろうと推測できる。

 レイさんは店主さんから木の彫刻を受け取った後、それを何の躊躇いもなくルノーアさんの方に流す。

「え、妾にくれるのじゃ?」

「…… お前が欲しいって言ったんだろ。ギルドハウスの応接間にでも飾れ」

 ぶっきらぼうに言い放ったレイさんは照れていたのだろうか、顔が少し赤い。


「お祭りと言えば屋台の食べ物は外せないのじゃ!レイは何を食べたいのじゃ?」

「俺は何でもオッケー」

「…… その答えが一番困るのじゃ…… 。ならばトワ、何が食べたい?」

 いきなり振られた私は、辺りにある露店に何が売っているのか見回す。

 近くにある食べ物の屋台はクレープの屋台やレイさん達が出していたような串焼きの屋台(売っているのはモンスターでは無い)が見られた。この中なら……。

「私はレモネードが飲みたいです。ちょっと喉乾いちゃって」

 事実この人混みの中にずっといれば体力だって奪われるし疲れる。仮に二人が尋常じゃない体力を持っていたとしても、私は結構疲れている。そこでレモン。レモンには疲労回復の効果があるって何かの本で読んだことがあるからそれに蜂蜜を加えたレモネードを飲んで一息しましょう。

 その旨を伝えると、

「分かったのじゃ。近くの店で買ってくるでの。二人は待っていると良い」

 程無くして冷たそうなレモネードの瓶を三つ抱えて戻ってきて、私とレイさんにそれを渡す。レモネードの瓶に付いた水滴が

太陽の光をキラリ、と反射させる。

「お、レモネードか。確かに今日は人通りも多いし良いかもな。中々に良い判断してるかもなトワ」

 レイさんが「グッジョブ!」と親指を上に突き立てるのに合わせて私も同じ仕草で返事をした。

 じゃあ肝心の味を確認しよう…… 。

 レモネードを口に含んだ瞬間、広がるのはレモンの鋭い酸味。キリッとレモン本来の酸味を活かした次に感じる味は、蜂蜜の甘さ。それはここでの主役であるレモンを引き立たせる為に甘く控えめにしてあるのがポイント高い。

 酸味多めで甘さ控えめ、疲労回復にはうってつけの味付けに仕上がっている。

「トワの感想は言えてるな。ポーションとかにも疲労回復成分としてレモンとか入れるんだもんな、ルノーア?」

「時と場合によるがの。それにポーション配合なんて魔王の時少しやってた位であまり詳しくはないのじゃ」

 へー、ポーションとかもこんな感じで作ったり出来るんだ。魔法だけで無く薬も作れるなんて元魔王様、流石です。

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