第2話 肝試し
最初、肝試しをしようと言いだしたのは、同じクラスの吉田だった。深夜の音楽室のピアノの上にあるお札を取り行こうと言い出した。それに乗っかったのは、クラスの五人組で、杉本、田中、小山、村上、そして僕を入れた六人だった。普通、こういう場合、神社の賽銭箱の上とかお寺のお墓の墓石の上なのだが、深夜の小学校の校舎と言う昼間とは違う空間を楽しみたかった。
小学生の考える事はいつもながら幼稚で矮小なのものだったが、夜の校舎に冒険と言うのは魅力的な行為だった。問題は深夜の見回りをする用務員のおじさんだったが、事前におじさんが見回る時間を情報通の杉本が仕入れていた。
肝試しの開始は夜中の✛時、昼間開けておいたトイレの隅の窓から、校舎に忍び込み、お札を取って来る。最初は、吉田で、杉本、田中、小山、村上、そして、僕の順番だった。それをトイレから、10分おきに出発、帰ってきたら、次の奴が行くという塩梅だった。
五番目の村上が帰って来たので、しんがりの僕は張り切って、夜中の校舎の冒険に出た。音楽室に行くと最後の六枚目のお札があったので、みんなの待つトイレに帰って行った。
興奮する僕たちは口々にお互いを讃えあった。だが、その興奮も翌朝、醒めて、愕然とした。
音楽室のピアノはあの日の夕方、古くなったので業者が引き取り、肝試しの夜には机と椅子以外は何もなかったというのだ。
新しく音楽室へ運び込まれるピアノを眺めながら、肝試しをした六人は黙ってうつむいた。
あの晩、見たピアノは何だっただろう。同窓会で会う度に、話題にするが答えは出ない。
短編小説集。 まる・みく @marumixi
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