第2話 出会い

 いつものやりとりの後カウンセリングルームに入る

 居酒屋などが立ち並ぶ少しレトロな街並み

 夜は割とにぎやかなのだが昼は

 ほとんど人通りはなく

 静かな所にある3階建ての小さなビルだ

 他のテナント等はなく1階から3階までを丸々借りており

 3階建てなのにエレベーターが完備されている

 外観は周りの店からは少し浮いているような異質な感じも受ける

 まぶしいぐらい真っ白だ

 1階は事務所兼受付2階はカウンセリングルーム3階は待合室になっている


 受付カウンターの中では根木が手際よく朝の準備を行っている

 ボクがここに今いるのはこの根木のおかげである


 あの日・・・・

 別れを切りだした途端の出来事だった

「ふざけるなぁー」の大声と同時にガラス製のグラスが飛んでくる

 壁にぶつかり粉々に割れたグラス破片を見つめながらボクは立っていた

 声とグラスは当時同棲していた彼女から飛んできたものだった

 彼女は夜の仕事いわゆるキャバ嬢だった

 最初の半年ほどはうまくいっていたのだが徐々に関係は壊れだした

 帰ってこない日が増え見知らぬ車がマンションの下にいたかと思えば

 50代ぐらいの男性と彼女が

 後で聞いたらどうやら不倫関係だったらしい

 その男性以外にも貢いでいた

 これはボクの車を貸した後車内に残った数十万円の領収書から発覚した

 この時点でボクはもう壊れかかっていた

 肉体的にも精神的にも限界だった


 それから2週間後彼女に

「今日友達がくるから昼まで帰ってこないで」と休みの日に言われ

 朝からネットカフェで時間をつぶしに出掛けた

 ちょうど13時を過ぎた頃そろそろいいかなとマンションへ戻り

 玄関の扉を開け言葉を失ったと同時に笑いが込み上げてきた

 そこには床一面ボクの物が散乱していた

 まさに足の踏み場ないを体現した部屋が広がっていた

 空き巣でももう少しましな荒らし方するだろう

 そう彼女は出て行ったのだ


 この日ボクは完全に壊れた

 睡眠薬代わりに市販の風邪薬毎晩眠くなるまで飲み

 ごみ溜めのようになった部屋で怪しげなハーブにまで手をだした

 しかしそんな事で改善するわけもなく身体も心もどんどんおかしくなっていった

 今すぐ楽になれるかもしれない自殺までも考えるようになっていた

 自殺と検索をする中で心理カウンセリングの文字に目が止まった

 今考えてみれば心療内科を受診すれば良かったのにと少し苦笑いするけど

 その時は視野が狭く思考もうまくいってなかったんだと今はわかる

「心理カウンセリングか」

 悩むこともなく予約フォームに入力してその当日を迎えた


 幸いカウンセリングルームは車で30分もかからない

 だがいざ当日になると逃げ出した自分がいた

 本当に大丈夫なとこなんだろうか?

 カウンセリングって一体何をするんだろうか?

 騙されたり何か高額な物を売りつけられたりしないだろうか?

 疑心暗鬼と焦燥感が暴走してこのまま交通事故にでもあえばなど

 訳のわからない考えまで浮かんでくる

 でもこのままだと・・・

 思いとどまり近くのコインパーキング車を止め

 カウンセリングルームへ向かって歩き出す

 今日は日曜日時間はまだ10時前街はまだ寝ているように静かだった

 そして見えてきた小さな三階建ての真っ白なビル

 入口のガラス越しにグレーのパンツスーツに身を包んだ

 割と背の高いショートカットの華奢な女性

 歳は20代前半ぐらいだろうか遠目でもわかるくらい色白で

 子猫の様なつぶらな瞳こちらを見てボクに気づいたのか

 ガラス製のドアを開けこちらに向かってくる

「おはようございます」と心地の良い声で

 これが根木このカウンセリングルームとの出会いだった







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る