殻の椅子

羊毛フェルト

第1話 いつもの朝

 目の前には二人の女性

 一人は泣き叫びもう一人はその泣き叫ぶ女性をかばうように

 いや守るように椅子を棒で叩いている

 それはなんとも言えない異様な光景だった


「あれから3年か・・・」

 ボクは階段を降りタバコに火をつけ思い出していた

 ここは心の病を専門とするカウンセリングルーム

 一口で心の病といっても多岐にわたっている

 日々のストレスやぼやっとした不安感

 イジメからの対人恐怖症

 摂食障害や自殺願望者etcまで

 上手く生きていけないそんな人の現代版駆け込み寺みたいなもの

 そんな場所でボクは働いている心理カウンセラーとして


 午前11時クライアントの待ち合わせまで少し時間がある

「先生!おはようございます!」

 今日も心地良い声が聞こえてきた

 アシスタントの根木だ

 薄手のベージュコートに長い髪を揺らしながら小走りに近づいてくる

「おはよう」

 ボクも挨拶を返す

「いい加減辞めたらどうですかタバコ」

 とタバコの煙をよけるように言ってきた

「そうだね」

 円柱状の灰皿にタバコを捨てながらボクは言った

 これは毎朝のルーティンだ

 空は快晴だが少し肌寒いゴールデンウイーク前

 今日も一日が始まる


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