旅館の色

「じゃあ早速温泉行こうぜ。汗だくだから早く流しに行きたい」


「私も体洗いたいな」


「うん、いいよ行こう」


 僕たちは旅館にある浴衣とタオルを持って温泉に向かった。


「じゃあ終わったら部屋に戻ってていいからね」


 僕は彼女たちに言った。


「うん、じゃあ葵君たちまたね。ゆっくりしてきてね」


「そっちもね」


 男女で分かれて浴場に入った。


 僕と秋人は少し熱めの温泉に入った


「ふぅ、気持ちいいな」


「そうだね、温泉なんて久しぶりだから落ち着くよね」


 歴史がある旅館で温泉の種類が豊富だから、子ども連れでも楽しめそうだった。


「じゃあ俺温泉全制覇行ってくるからまた後でな」


「ほどほどにしてのぼせないようにしろよ」


「わかってるよ。ガキ扱いするな」


 秋人は無邪気に笑って露天風呂の方へ向かっていった。


 小桜さんも秋人と同じようなこと言って彼女を困らせているんだろう。


 そういえば秋人は小桜さんのことをどう思っているのだろう。


 この前の海ではなかなかいい感じになっていたような気がするが、まだ友達どまりのような気がする。


 秋人も女性慣れしてきたし、そろそろ告白してもいい気もする。


 あの二人なら今までと変わらずに彼氏彼女の関係になれると思うんだけど……。


 うまくいくかどうかはその時になってみないと分からないだろう。


 僕は秋人に先に上がると伝え脱衣所に行き、旅館の浴衣に着替えた。


 自販機で水を買おうと外に出ると、浴衣姿の彼女が椅子に腰かけていた。


「ほし…渚さんどうしたの?」


「あ、葵君。ちょっとのぼせちゃったから休憩してから部屋に戻ろうと思ったんだ。名前呼びはまだ慣れないかな」


ふふっと微笑みながら言った。


「うん、まだ今日変えたばっかしだからちょっとね」


「そうだよね、無理しなくていいからね」


「無理なんかしてないよ。ちゃんと呼べるように練習しとくよ」


 僕が笑ってそういうと彼女もつられて笑った。


「そろそろ部屋に戻ろうかな、だいぶ良くなってきたし」


 彼女は椅子から立ち上ろうとしたがバランスを崩してよろけた。


 僕はとっさに手を出し彼女を受け止めた。


「渚さん、大丈夫!?」


「うん、大丈夫ちょっとめまいがしただけ。お風呂上りはこうなりやすいから」


「気を付けてね。部屋まで一緒に行こう」


「ありがとう、葵君」


 僕は彼女に肩を貸して部屋まで連れて行った。


 彼女は少し横になるといつも通りに戻ってきた。


「もう平気?」


「うんもう全然大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。それにしても桃と秋人君は遅いね」


 確かに帰ってくるのは遅かった。


 僕が上がってからだいぶ時間がが立っている。


「ああ、秋人は温泉全部制覇するって言ってたから時間かかってるのかも。でもそろそろ帰ってくる頃じゃないかな」


「桃もここの温泉全部入るって意気込んでたよ。ほんとあの二人って似た者同士だよね」


「ふふ、そうだね。秋人が全部制覇するって言ったとき、小桜さんも同じようなこと言ってるんだろうなって思ってた」


 僕と彼女は笑いながら二人の帰りを待っていた。

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