夜の色

 翌日、昼過ぎに秋人から電話が来た。


「旅行いつ行く?」


 気が早い秋人に僕は


「昨日みんなの予定確認してからって言ったじゃん」


と冷静な返しをした。


「ああそうだったな。なるべく早く行きたいなって思ってたからつい……」


「そんな楽しみなの?」


「そりゃあ、あの有名旅館に泊まれるんだぜ。すっげぇ楽しみに決まってるじゃん」


「そうなのか。じゃあ二人にも今空いてる日聞いてみるよ」


「おう頼んだぜ。俺はいつでも大丈夫だから」


 そう言って電話が切れた。


秋人のやつ楽しみすぎて小学生みたいになってたなと懐かしかった。


 昔から秋人は楽しみなことがあると早くやりたくて落ち着きが無くなる。


 大人ぶってても根っこの部分は変わらないなと少し笑った。


 僕は二人に


[この間の海で会った人の旅館に行こうと思うんだけど、夏休み空いてる日ある?一応泊りになると思うんだけど]


と聞いた。


[私は来週ならいつでもいいよ。ていうか一人ずつやり取りするのめんどくさいからグループ作ろうよ]


と小桜さんから来た。


 確かにグループを作ればこういう連絡は一回で済む。


 なんで今まで気づかなかったんだろう。


[確かにそうだね。でもグループってどうやって作るの?]


[私の方でやっとくから水篠君は招待されたら入ってきて]


[うん。分かった、ありがとう]


 少し待ってから小桜さんからグループの招待を受けたので入った。


 彼女に送ったメッセージはどうしようか迷ったが、考えてるうちに返信が来てしまった。


[私は来週の水曜日以降なら空いてるよ。グループ作ってたからどっちに返信しようか迷っちゃった]


[僕も今星月さんに送ったメッセージをどうしようか考えてたよ。水曜日以降ね分かったとりあえずこっちで予定立ててまた後で連絡するね]


[うん!またね]


 僕たちの中での話は終わったが旅館の方の予定が分からない。


 とりあえず電話をしてみようと思った。


 僕は海でもらった紙に書いてある電話番号にかけた。


「はい、もしもしこちら翡翠館でございます」


「あっどうも、私水篠というのですが、支配人の矢井田さんという方はいらっしゃいますか?」


「はい、少々お待ちください」


 保留音が鳴る。


 僕は電話するのが苦手だから、秋人にでも頼めばよかったと後悔した。


「お電話変わりました。矢井田です。水篠様お電話お待ちしておりました。」


「ああ、遅くなってすみませんでした。みんなと相談して夏休みの間にそちらの旅館に行きたいなと思い、来週の水曜日以降って空きはありますか?」


「来週の水曜日以降ですね。ご用意できますよ。ただあいにく一部屋しか空きがないのですがそれでも良ければ」


「一部屋ですか?」


 さすがに一部屋というのはどうかと思ったので


「あのたびたび申し訳ないのですが僕だけでは決められないので、また折り返しご連絡させていただいてもよろしいですか?」


「ええ、もちろん。お待ちしております」


「すみません。ではまた」


 電話を切った。


 さすがに一部屋なのはまずい気がするが、とりあえずみんなに連絡した。秋人は


「タダで泊めてもらえるんだからわがまま言えないし」


と送ってきた。


 まあ確かにその通りだが星月さんたちはそうもいかない。


 と思っていたが小桜さんが


「確かに泊めてもらえるんだからこっちのわがままで迷惑なんてかけられないよ」


と送ってきた。星月さんも


「うん、一部屋でも仕切りとかあれば全然平気だよ」


と送ってきた。


 みんながいいならとまた翡翠館に電話をかけた。


「もしもしこちら翡翠館です」


「あっ、たびたびすみません水篠と言います。支配人の矢井田さんは」


「先ほどのお電話の方ですね。少々お待ちください」


 ピーっと保留音が鳴る。


「お待たせしました水篠様」


「こちらこそ忙しいところすみません。先ほどの話ですが僕たちは一部屋でも大丈夫ですのでぜひお願いしたいなと思います」


「はい、ありがとうございます。十分な対応が出来なくてほんとに申し訳ないです」


「いえいえ僕たちは泊まらせていただけるだけで十分ですので」


「では来週の水曜日にこちらに来ていただくということでよろしいですか?」


「はいよろしくお願いします」


「こちらこそお待ちしております」


 電話を切った。


 みんなに報告しなきゃと携帯を手に取ってメッセージを送った。


[来週の水曜日に行けることになったよ]


[よかった!楽しみだな]

 

 秋人の反応は相変わらずだった。


[そういえば旅館の名前ってなんていうの?]


[ああ確かに!私たちまだ教えてもらってない]


 星月さんと小桜さんが聞いてきたので答えようとしたら秋人が僕に


[二人には内緒にしとこうぜ]


と送ってきたので内緒にしておくのも面白そうだなと思い


[ついてからのお楽しみ]


とグループの方には送った。星月さんは


[内緒なの?そっか、じゃあ着くまでの楽しみが一つ増えたってことにしとくね]


 小桜さんは少し不満そうに


[ええ?秘密にするのずるいなー]


 と返してきた。


 こういうサプライズみたいなことはやったことが無かったから、ワクワクしていた。


 また眠れない日が続きそうだ。


 ここのところイベントが多くて夏休みの宿題のことをすっかり忘れていた。


 また来週には出かけるから今のうちにやっちゃおうと思い、カバンの中から教科書とワークを取り出した。


 幸い宿題の量はそこまで多くないから、来週までには余裕で終わる。


 僕は眠れない日を使って宿題を終わらせた。

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