哀しみの色

 僕たちはその後布団を敷いてごろごろしながら、トランプでババ抜きや七並べをして遊んだ。


「そろそろ眠くなってきたな」


 秋人が目をうつろにしながら口を開くと、小桜さんもそうだねと同意した。


 もともと布団は敷いてあるし寝る準備はみんなできていたので二人はすぐに寝た。


 僕は彼女に


「ちょっと夜風に当たってくるね」


と言うと彼女は


「私も行きたい」


と言ったので二人を起こさないように部屋の外に出た。


 外に行くと夏とは思えないほど涼しい風が通りすぎて行った。


「葵君、どこ向かってるの?」


 彼女は僕の後ろを歩きながらそう言った。


 僕は言おうか迷ったが彼女なら大丈夫だろうと思い


「えっと実は、お昼の女の子がいるって言ったでしょ?その子による十二時にさっきの場所に来てくれって言われたんだ」


とさっきあったことを彼女に話した。


 彼女は驚きながらも真面目に話を聞いてくれた。


「そうだったんだ」


「うん。こんな時間に来てなんて言われるからどうにも気になってね」


と僕が話し終えたところでさっきの場所に来た。


「あ!おにいちゃん来てくれたんだ。そっちのおねえちゃんはだぁれ?」


 女の子が駆け寄ってきた。


「このお姉ちゃんは僕のお友達だよ。一緒に遊んでもいいかな」


 僕は女の子に聞くと


「うん!みんなで遊んだほうが楽しいもん!あそぼあそぼ」


 女の子は元気いっぱいに答えた。


「何して遊ぶの?」


 彼女が聞くと


「う~んとね。じゃあおままごとしよう。おにいちゃんがおとうさんでおねえちゃんがおかあさんね」


 女の子は笑顔で言った。


 僕たちは早速女の子と遊び始めた。


 少し遊んだら女の子が口を開いた。


「私ねこうやって遊ぶお友達がずっとほしかったの、だからねさっきおにいちゃんが見つけてくれたときはすっごく嬉しかったんだ」


 僕はとっさにこの子の話を聞かなきゃいけないそう思った。


「周りはみんな大人の人ばっかりだし、私が遊ぼって言っても大人はみんな嫌な顔して全然相手にしてくれない。なんかよく分からないけど大人からはいみご?って呼ばれてたの」


 いみご?何のことだろうと考えていると女の子はさらに続けた。


「それでね五歳になった時におとうさんとおかあさんが私をこの山に連れてきたの。それでねおとうさんとおかあさんは私に『ここで待っててね。迎えに来るから』って言ったんだ。だからね私はおとうさんとおかあさんのことをずっと待ってたんだ。ずっと一人で」


 女の子はうつむいた。


 彼女はその話を聞いて辛そうな顔をしていた。


 でもすぐに笑顔に変えて


「そっかじゃあ今日はお姉ちゃんたちがいっぱい遊んであげるね。そういえばお名前聞いてなかったね。教えてくれる?」


 彼女は女の子に聞いた。


「えっとね、みはるだよ」


 女の子は言った。


「みはるちゃんかぁ。いい名前だね。よーしおにいちゃん頑張るよ!」


 僕は意気込んだ。


「おにいちゃん!そんなおっきい声出したらダメだよ。しー」


 女の子は指を口元に持っていきながら言った。


「あっそうだねごめんごめん」


 僕は慌てて声量を落とした。


 その様子を見ていた彼女が


「ふふふ、葵君お父さんなのに怒られてる」


と笑って言った。


 女の子もくすくすと笑った。


 僕たちは時間を忘れて女の子と遊んだ。


 この子の中で楽しい思い出になるようにと。


 突然女の子は口を開いた。


「ほんとはねおとうさんとおかあさんが来ないの分かってるんだ。でもあとちょっとだけあとちょっとだけって思ってたら、ここから動けなくなっちゃったの。おにいちゃんが気付いてくれなかったら私はずっと独りぼっちだった」


 悲しげな顔をする女の子の色は薄くなっていく。


「あーあ、おにいちゃんとおねえちゃんが、ほんとのおとうさんとおかあさんだったらよかったのにな」


 女の子は笑顔だったが目には涙を浮かべていた。


 女の子の涙が頬を伝い、地面に一粒落ちると女の子の体はだんだんと透けて消えてしまいそうだった。


「あっ…」


 彼女は手を伸ばし女の子に触れようとしたがその手は届かなかった。


 山の木々が風に揺られ音を出す中、女の子の声が聞こえた。


「バイバイおにいちゃんおねえちゃん。一緒に遊んでくれてありがとう。」


 あの子から最後に視えた色はたまらなく悲しい色をしていた。


 あの子の悲しみを受け止めることは僕には出来ない。


 けど見えた色の中に少しだけ輝く美しい春の色が視えた。


 あの子の名前のように儚くきれいな色だった。


 その色が僕たちと遊んで生まれた色ならいいなと僕は思った。


 彼女は僕の隣で涙を流していた。


 頬を伝う一筋の涙には、彼女のやさしさが詰まっているように見えた。

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