第44話 記憶の想起2
〇
父さんが運転する車内。何処に向かっているのかは朝から教えてくれない。二時間は過ぎた。その間に何度も同じ質問をしている。
「父さん、何処に向かっているの?」
助手席の母さんがそろそろ教えても良いんじゃないと父さんに目配せするが、中々父さんは教えてくれない。サクラは飽きもせずに次々に変化する景色を楽しんでいる様子だ。
暫くすると、そろそろかなと父さんが後部座席へ向かって言った。
「ハルト、ヒント。外の匂いを嗅いでごらん」
言われるままに窓を開けて顔を出した。熱を含んだ風に気圧され嗅ぐ処か呼吸もままならない。
くしゃみ直前のラクダのような顔を車内に命からがら戻すと助手席の母さんが僕の様子を見て足をバタバタしながら笑っている。笑いごとじゃない。
今度は吹き込んでくる外気を嗅いでみる。湿った熱を持った風が鼻孔を抜ける。微かに潮の香がする。海?
車外を注意深く伺うが、海は見えない。住宅が続く坂道を登って行く。
坂を下る頃から住宅の間隔が徐々に広くなってくると次に松林が左右に広がる。
坂を下りきると磯の匂いが強くした。海だと確信したと同時に木々の間から海面に弾かれた光がパラパラと射した。
「サクラ、海だぁ!」
一番に海を見つけた者は海だと叫ぶのは、人間が持って産まれた本能に組み込まれているのだから僕がそう叫ぶのも仕方ないことだ。
サクラは初めて見る海を窓にかじりついて見入っている。
母さんもさっきまで僕の滑稽さを父さんに誇張して話していたが「わぁー」と言ってサクラと同じ首の角度で黙った。
二人の横顔似てる。思ってまた車窓に目をやる。もうすぐ海だ。
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