第43話 記憶の想起1
〇
父さんに言われたんだ。
「ハルトお兄ちゃんになるぞ!」
僕の反応を伺う父さんの後ろ、台所から母さんもこちらへ顔を向けている。
「本当に!僕がお兄ちゃん?弟?妹?」
リビングの椅子に立ち上がって尋ねた。
父さんも母さんもニコニコ笑っている。
「どっちだろうな、それはこれからのお楽しみ」
〇
ミルクの甘い香りがする。
タオル地の優しい手触りのおくるみの中で、サクラは眠そうに瞼をゆっくりと瞬いている。顔を覗き込むとジッとこちらを見つめてくる。
「サクラ、僕がお兄ちゃんだよ、何か欲しい者があればお兄ちゃんに言うんだぞ」
サクラに話しかけているのを皆に悟られるのが気恥ずかしく小声で語り掛けた。
もちろん返事なんて無い。感情を読もうとサクラの瞳を覗く。吸い込まれるように純粋な球体。何も発信することなく全てを吸い込んで行く。表層には阿保みたいに呆けた自分の顔だけが写っている。その自分が問いかけてくる。
「良いお兄ちゃんになれそうかい?」
なるよ。と問いに返すと、瞳の中の自分は嬉しそうに口元を緩めた。
〇
家族の事は大好きだ。それでも早く起き出して過ごす朝の一人の時間が好きだ。自由だ。元旦の朝は特に好きなんだ。皆遅くまで寝ている。その間にこっそりと家を抜け出して散歩に出かける。
へへへっ可愛いなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます