第19話 ヒカルとミズキ、ハルトの元へ 4
ハルトの家に到着し、車を降りると外はすっかりと夜気で満たされていた。
玄関口へ立ちチャイムを鳴らす。反応を待っていると家の屋根上から黄金に輝く月がこちらを覗いた。その視線は眩しい程に私達を照らしている。月明かりで気が付いたが、ソウゴの車も少し離れた所に停められている。
「ソウゴも居るのか・・・だとするとレイちゃんも居るなぁ」
心配そうに重箱にヒカルが目を落とした。
私はもう一度チャイムを鳴らす。
ソウゴが居ようが、レイちゃんが居ようが問題にならない充分な量に見えるが、ヒカルにはどうしても気懸りなようだ、私が心配して進言することにはまったく気にもかけないのに、私には大した問題には感じられない御節の量などを気にしている。
ヒカルは打開策を思いついたようで重箱からアッと大袈裟な声を発して頭を上げた。
玄関口の上方には電燈が灯っている。今日は月明かりで充分だ。ヒカルの琥珀色の横顔に尋ねた。
「どうしたの?何か名案でも?」
ヒカルは斜め上を向いて笑った。
「思いついた!大丈夫!足りなそうなら私が食べないから」
そう言って長い睫毛をふぁさりと瞬いてウィンクを投げた。
なるほど、単純だが確実な方法だ。人数が増えたなら、食べる量を減らせばいいわけだ。
「そうだね。私も協力する」
私もヒカルを真似て不器用なウィンクをガチン返した。
「いいよぅ、おばぁちゃんと一生懸命作ったんだからみっちゃんには、食べて欲しいから我慢しないで好きなだけ食べてよ。私は味見をしながら摘んでたから、そんなにお腹空いてないし」
「ヒカルだけ我慢するのは可哀想じゃん。二人で少しずつ、一人分を食べればいいじゃない」
ヒカルは目をパチパチさせて技とらしく感慨だという表情をした。
「みっちゃんは優しいね、ありがとう。けどね、そんなこと我慢するくらいなら出来もしないウィンクをするのを我慢しよっか!」
自然にやり過ごしたつもりでいた自分が急に恥ずかしくなった。ウィンクが自分にどれ程似合わない行為であるのかは自負していた。いただけに、それを指摘されたことが恥ずかしかった。人は恥を隠す為には怒るのだ。私も御多分に漏れず激昂した。
「なっ、なんなのよあんたは!私はヒカルだけが我慢したりしなくて良いようにって、思っただけなのに。それに、ウィンクだってヒカルに合わせたでけで、あんたがしなければ私だってしてなかったわよ!判ったわよ!ヒカルになんて一切御節食べさせないからね!自分で言ったんだから後で食べたいとか言わないでよ!皆が残しても全部私が食べるからね!」
まるで子供みたいに、その場で地団駄を踏んで言い放った。
ヒカルは何も言わず、微笑を浮かべてその様子を見ていた。
家の中から人の気配が玄関口へ近づいてきた。
「やっぱり居たでしょ!」
ヒカルが自分の手柄のように歓喜した。
扉が開く。
「お前たち五月蠅い!喧嘩なら終わらせてから来い!」
顔を覗かせたハルトに開口一番叱られた。
「喧嘩なんかしてませーん。みっちゃんの声がデカいだけでーす」
ヒカルは挨拶代わりにそう言うと、扉を支えるハルトの脇を摺り抜けてサッサと家の中に上がり込んだ。
「そうなの?」
一人玄関口に残されたミズキにハルトが聞いた。
「うるさい!」
ハルトを一言で一蹴し、ミズキも上がり込む。ドシドシと家の奥へ進む二人の後ろで首をすくめたハルトのため息が響く。
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