第5話 キラリと光る
「お友達って感じじゃなさそうだな」
赤色等を肩にトントンと当てながらシルエットは言った。
「やめてあげなよ、嫌がっているみたいだし」
逆光で顔は確認できないが、その声は
「江島さん!」
スタジャンの仲間が江島に詰め寄りながら言う。
「なんだテメーは?邪魔すんならテメーも袋にしてやろうか?」
言い終わる刹那地面に倒れこんだ。
江島の脚がゆっくりと地面へもどる。ハルトの位置からは見えなかったが、どうやら江島のハイキックが頭を捕らえたようだ。
スタジャンがハルトから乱暴に手を離すと、なにしてんだテメーと江島に走りより、右ストレートを放った。が、江島の鼻先で拳を掴まれ後手に捻り上げられた。
完全に腕が決まっている。スタジャンは暴れることもできない。
身動きの取れない状態で精一杯の虚勢を張っている。
「テメーこんなことしてタダで済むと思ってんなよ!おい、お前らもやっちまえよ!」
スタジャンの号令に仲間の一人は身構えた、さっき江島にハイキックを浴びた青年も起き上がり首元を押さえ睨みつけている。
その様子を一瞥し、江島のスタジャンを捻り上げている腕が素早く上がる、その速度に負けじとスタジャンの上半身が地面へと急速に落ちる。もはや顔は地面へ着いている。
江島はポケットから何かをスッと取り出し、スタジャンの首元に当てた。それは少ない光をも鋭く反射して光った。
「おーい、お前等まだやるって言うならこいつの頸動脈切り裂いて殺すぞ」
江島の目に嘘はない。
「時代劇で見たことあるだろ、悪代官が障子の前で首を掻っ切られて鮮血が障子を盛大に染めるヤツ。あれを見せてやる」
スタジャンの仲間達は足を止めたが臨戦態勢のままで江島を睨みつけている。
「やらないと思ってんなら考え直したほうがいいぞ、こいつ殺して豚箱に入ったって構わないんだからな、正月にこんなところでバイトしている奴なんて失う物のねぇ証拠だろーがよ、むしろ豚箱の中のほうが働かなくても君達の一生懸命働いて払った税金で飯が食える分ましかもしれねー」
江島は一旦青年達の表情を見た。
「それに比べりゃお前達にはやりたいこと色々あんだろ?女の家に行ってヤッタリ、ホテル行ってヤッタリ、家に連れ込んでヤッタリ・・・お前らそればっかりだな!節度のねぇスケベだなーやっぱ死んでおくか?」
勝手に決め付けて言っている。
「若いから仕方がねぇか、なんにせよ今夜死にたくはないよな?」
言って手の中の光物を更に強く首筋に当てる。
スタジャンが明らかに首筋に当たるヒヤリとする感覚に慌てている。
「わかった。もう何もしない、大人しく帰るから、帰るから簡便してくれよ」
江島は懇願を聞いて手を離すと、スタジャン達はさっきの俺がしたかったように、人通りに向けて一目散に逃げて行った。
尻餅を付いたままのハルトに江島がしなやかな手を差し出す。
「大丈夫か?」
やっぱり渋い声だ、もし自分がこの状況で女だったら、きっと今夜抱かれていただろうとハルトは頬を赤らめて頭を下げた。
「ありがとうございました。本当に助かりました」
「江島さんいつもナイフ持ち歩いているんですか?」興味本位から聞いてみる。
ナイフ?と心当たりが無いという顔のあとに、あぁと思い当たったようだ。
これか?とポケットをあさり、取り出したものを見せてくれた。それは俺にも見覚えのあるワンカップの蓋だった。
「こんなもので脅してたんですか?」
驚いた。きっとスタジャンの青年も首筋に押し当てられていたのは鋭利な刃物を想像していただろう。
「こんなもんでも首の皮切り裂くくらいなら容易いよ。あんな若いだけの連中にはこんなもんで充分さ」
へらへらと笑っている。
「若ければ良いってもんじゃない。若さに自惚れやがって」
背中を向けて言い、赤色灯を肩でとんとんしながら自分の持ち場に戻っていった。
いつのまにか夜に溶けるようだった鐘の音が白み始めた空へと吸い込まれ始めていた。
ハルトはポケットの中の油のボトルを握りしめ、砕けた赤色灯をみながら何かに使えなかったかなと、もみもみした。
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