第5話 ドックカフェ

 「というわけなんだよ。頼めるかい?」

中村は少し考え込んだ後で頷いた。

「分かった。全力を尽くすよ」

「ありがとう」

中村と別れて健一は加奈のところへ戻った。

加奈は広場のベンチで休んでいた

「加奈、今度まとまった休みがあるんだ。どこか行きたいところはある?」

加奈は少し空を仰いで

「私、本土に行ってみたいな」

「本土に?」

「うん。前に修学旅行で行ったきりでそのときはグループ行動でよく見れなかったから」

「なるほどね。じゃあ、今度の休みに行ってみようか」

「うん」

「あっ、健一、このお饅頭まんじゅうたべる?さっき近所の人にもらったんだけど」

「食べる」

 こうして迎えた休日。健一と加奈は船で渡って都心にいた。

「わー、すごい人だね」

「すごいね。俺もあまり都心には来ないからびっくりしているよ」

「ねっ、行こう」

「うん」

 加奈に手を引っ張られて観光が始まった。

健一にとっても目に映るものは珍しいものばかりでいちいち感動してしまう。

「健一、はしゃぎすぎだって」

「加奈も人のこと言えないだろ」

「ねっ、あそこ入ってみようよ」

加奈が指さした先にはドックカフェがあった

「へえ、ドックカフェか。いいね」

中に入るといろいろな種類の犬がいて犬用のおもちゃがたくさん置いてあった

「ワンちゃんがいっぱいだー」

「加奈、犬好き?」

「好きだよ。でも、あまり種類には詳しくないかな」

「ふーん」

「あっ、この犬はなに?」

加奈が触っている子はミニチュアダックスフンドだった

「その子はミニチュアダックスフンドだよ」

「へえ、胴長短足で耳が垂れていてかわいいね」

「ええっと、この子の名前は」

店内の写真を確認するとこの子の名前はココアだった

「ココアちゃんだね」

「ココアちゃんか」

「かわいいよね。こうやってさわってあげるとー」

健一がココアの脇腹の辺りをなでるとごろんとお腹を見せた

「あっ、お腹を見せた。かわいい!」

「ねっ、おもちゃで遊んであげようよ」

「うん」

 思う存分満喫してドックカフェを後にした。

「あー楽しかった」

「喜んでくれてうれしいよ」

「また来ようね」

「うん、また来よう」

  健一と加奈が遊びに行ってから数日後。コンサート開催の5日前となり二人は当日の流れが書かれたノートを見ながら最終の打ち合わせを行っていた。

「よーし、打ち合わせは完璧だね」

「そうだね。本番が楽しみだ。あっ、セットリストが書いてある紙を置いてきちゃった」

「当日配るやつだよね?忘れないうちに用意しておいたほうがいいから私、取ってくるよ。今日が最後の打ち合わせだし」

「ありがとう」

 ところが加奈は取りに行ったきりなかなか戻ってこなかった。

「おかしいな、隣の部屋なのに」

不審に思って様子を見に行くことにした。

ドアをノックする

「加奈、入るよ」

ドアを開けて数秒、健一は思考が停止した。

加奈は床に倒れこんでいた。慌てて駆け寄る

「加奈、大丈夫か!しっかりしろ、加奈!」













 


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