第4話 秘密

 カエル採りから数日後。健一と加奈は再びコンサートについての話し合いをしていた。

「じゃあ、当日までの準備は今日話した内容で決定ね」

「うん。絶対成功させようね」

「もちろんよ。あっ、もうお昼だね。休憩にしようか」

「加奈ちゃんは先に休憩に入っていいよ。俺はこのメモをもう少しまとめてから行くから」

「ありがとう、助かるよ。じゃあ、お先に」

「うん」

加奈ちゃんが頑張っているんだから俺も頑張らなきゃ。そう思いながら資料に抜けている内容を書き足してホッチキスで止めていた時。コンコンッとドアをノックする音が聞こえた。

「入っていい?」

弁当屋のおじさんの声だった

「どうぞ」

ゆっくりとドアが開き、70歳くらいの弁当屋の店主、今井さんが入ってきた。手にお弁当を二つ持っている

「加奈ちゃんは?」

「先に休憩に入ってもらいました」

「そうか。これ、弁当。お昼に食べて」

「ありがとうございます」

お弁当を二つ受け取って一つを加奈のところへ持っていく。

ノックをしても返事がない。いないのかな?

「加奈ちゃん、入るよ」

ドアを開けて思わず固まってしまった。加奈が薬を飲もうとしているところだったから。

加奈もこちらに気づくと錠剤を持って目を合わせたまま固まってしまった。

「具合、悪いの?」

加奈はばれちゃったなというようなばつの悪そうな顔をして目を閉じた。

健一は机に弁当をおいて加奈の横に腰を下ろした。加奈は持っていた薬を飲むと話し始めた。

「健一、私ね、もうすぐ死ぬんだ」

「何を言ってー」

「信じられないだろうけど本当の話。ウイルスでもない原因不明の奇病でね。この病気になるとそれまで元気でも急に死んじゃうんだって。亡くなる前に兆候はあるってお医者さんは言っていたけど」

にわかには信じられなかった

「今出してもらっている薬で死を遅らせることはできるけど、限界はあるの。余命宣告も受けている。カエル採りの日、私が遅刻したこと憶えている?あの時はこの薬をもらいに行っていたんだ。もうすぐ死ぬならそのまえに何かしようと思ってそれでコンサートの実行委員に立候補したんだ」

「そんなことってー」

「信じられないよね」

とても信じられる話ではなかったが、加奈の様子を見れば本当だと分かった。

「だったらさー」

「なに?」

「一緒に病気のことを忘れるくらいの思い出を二人でつくっていこうよ」

加奈は目を丸くしてそれから笑顔で頷いた。

 そして健一と加奈はコンサートの準備をしながら恋人同士として付き合うことになった。

  休憩時間には手をつないで二人でだんごを買いに行き、コンサートの準備で配るチラシのイラストを加奈が得意げに書いて健一がその絵に拍手をした。休みの日には海に行って二人で貝を拾ったり、腰まで海に浸かって水の掛け合いをしたりした。こうして幸せな思い出をつくっていたある日。

 健一は加奈に内緒で中学時代の友人を訪ねた。

家のインターホンを押すと中から細身の男性が出てきた

「やあ、中村。久しぶり」

「健一か、久しぶりだな」

「突然ごめんな」

「良いよ。暇していたところさ。まあ、あがってよ」

「お邪魔します」

家には立派なピアノがあった

「これ、まだ使っているの」

「使っているよ。趣味だからね。よく弾いているよ」

近所迷惑にならないようにするのがたいへんだけど、っと付け加えて笑った。

それから二人は中学時代の思い出を語り合い談笑した

「中村、実は今日はお願いがあるんだ」

「なんだい急に改まって。俺にできることなら協力するよ」

「ありがとう。お願いというのはねー」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る