第3話 カエル採り
翌日。集合場所の広場に行くと子供たちが集まっていたが加奈の姿はなかった。
「加奈ちゃんはまだ来てないの?」
加奈ちゃんが遅刻することなんて無いのに・・
「うん、まだ来てないね。そのうち来ると思うよ」
「そう」
それからしばらくして加奈がやってきた。
「ごめん、お待たせ」
「遅いよ
加奈は近所の子供たちから加奈姉と呼ばれている。
「加奈ちゃんが遅刻するなんて珍しいね。大丈夫?」
「うん、ちょっと急用がはいっただけ。もう終わったから」
「それならよかった。じゃあ、早速行く?」
「うん」
広場から西に少し行ったところにある田んぼに向かう。
「この辺は変わらないねえ」
「そうだね」
「田んぼが広がっている景色ってのどかでいいなあ。俺が今住んでいるところじゃ田んぼもないから」
「うーん、のどかなのは良いけど、今の時期はカエルで大変なんだよ。この間も夜道を歩いていたらカエルが飛び出してきて悲鳴をあげちゃった」
「そういえば俺も昔、そんなことがあったなあ」
「近所の店の人なんて昼間だったのに、飛び出してきたカエルに大騒ぎ!落ち着かせるのが大変だったよ」
「ははっ、それは大変だったねえ」
そんなことを話しているうちに田んぼについた。
「よーし、到着!」
この田んぼは人が12人程度入れる広さがある。今いる人数は6人なので余裕だった
「じゃあ、始めようか」
「うん」
加奈ちゃんは首にかけていたホイッスルをくわえると勢いよく吹いた。
ピーッ。開始の合図だ。
カエル採りのルールは簡単。制限時間内に一番大きいカエルを採った人が優勝だ。大前提のルールとして田んぼの作物を荒らしてはいけない決まりがある。
「よーし、でかいのいたぞ。うわっ」
男の子が捕まえようとしたカエルが勢いよく跳ねた
「ははっ、そんな簡単には捕まえられないよな。よし、俺も」
童心に帰って懸命にカエルを捕まえようとするがすばしっこくてなかなか捕まえられない。少し離れたところにいるアマガエルに後ろからそっと近づいていく。あと少しで捕まえられそうなその時
「きゃっ」
加奈ちゃんが悲鳴をあげて俺の方に後ろから倒れてきた。俺は背中を押される形になって顔面からダイブ。
「ぐっー」
「ごめん健一、大丈夫?」
「うん、平気・・」
「あっ、顔が泥だらけだね。ハンカチ貸すから使って」
薄いピンク色のポーチから白いハンカチを渡して俺に貸してくれた。
「ありがとう」
「ごめんね。いやー、でも、これはカエルが悪いんだよ。完璧に擬態していてさ。いきなり顔に向かって飛んでくるんだもの。うん、カエルのせい」
ガッツポーズを決めながら必死に弁解をする加奈ちゃんが何だか可愛くて笑ってしまった
「気にしてないから大丈夫だよ。それよりもそろそろ時間じゃない?」
「あっ、本当だ」
ピーッ。終了の合図が鳴った。
「俺全然採れなかったよ」
「僕も」
優勝したのは近所の男の子だった。びっくりするくらい大きくてまたみんなで悲鳴をあげた。
こうしてカエル採りは無事に終了した。次の日。ハンカチを洗い終えて返すために加奈ちゃんの家に向かった。インターホンを押すと中から加奈ちゃんのお母さんが出てきた。
「すみません、これ、加奈ちゃんから借りたハンカチです」
「あら、どうもね。返しておくわ」
「ありがとうございます。加奈ちゃんはコンサートの実行委員の仕事を頑張っていて偉いですね」
「ありがとう。あの子、頑張りすぎよね。体調もあるのに・・・」
「えっ、どういうことですか?」
お母さんは、はっとした顔になってそれから「ありがとうね」とだけ言ってドアを閉めてしまった。体調もあるーその言葉の意味を俺が知るのはそれから数日後、コンサートについての話し合いの時だった。
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