第2話 宴会
女性はこちらに気づくとにこりと笑った。
「もしかして健一?久しぶりだね」
「加奈ちゃん?久しぶり」
「健一は変わらないねえ」
「加奈ちゃんはすごくきれいになったね」
加奈はすらりとしていて背が高く、ロングヘアー。
白地に胸元だけ黄緑色のワンピースがよく似合っている。
「そうだ、健一も説明を聞いていきなよ。今から説明した内容の確認をするからさ」
そういって加奈は向き直り、説明を再開する
「では、説明した内容のおさらいをします。当日それぞれが担当する楽器と当日の流れについてですがー」
一通りの説明が終わり解散となった。
「本格的なコンサートなんだね」
「まあね。島おこしの意味も兼ねているのよ」
「たくさんの人が来てくれるといいね」
「そのために私も頑張らなくちゃ。そうだ今夜、集会所で宴会があるから健一もおいでよ。私も行くからさ」
「宴会かあ。いいね、行くよ」
「じゃあ、また今夜ね」
「うん」
加奈と別れて昼食を食べに自宅で戻るとカレーは出来上がっていた。
「手を洗って食べなさい」
「うんーいただきます」
久しぶりに食べた家庭の味は格別だった」
「そういえば、健一は聞いた?今夜、宴会があるって」
「加奈ちゃんから聞いたよ、行こうと思う」
「そう。私は用事で行けないけど楽しんで来てねーってあら?」
「どうしたの」
「やだ、宴会で出す料理に使うネギを切らしていたわ。担当の人に渡さないといけないのに」
「ごちそうさま。じゃあ、俺が買ってくるよ」
「そう、悪いわね」
「良いよ。自転車で行けばすぐだから」
食器を片付けて早速買いに行く
「行ってきます」
「気をつけてね」
玄関先にとめてあった自転車で風を切るととても心地いい。
広がる田んぼを見ながら、明日は近所の子供たちを誘ってカエル採りでもしようかなと考えた。しばらく走ると八百屋が見えた。
前掛けをつけた八百屋の店主、前田さんは椅子に腰かけて物思いにふけっていた。
50歳くらいの男性で体つきががっしりしている。
「こんにちは」
「こんにちは。おお、健一か元気そうだな」
「元気ですよ。ネギを一本ください」
「ネギね、あいよ」
「この島は本当に空気がおいしいですね」
「そうだな。おかげで野菜もよく育つ。健一はまたすぐ向こうに帰るのか?」
「はい」
「そうか。寂しくなるな。帰るときはうちの野菜を持っていけよ」
「ありがとうございます」
こうして夜になった。集会所ではすでに島の人達が集まっていた。
島の代表、滝さんが音頭を取る。
「皆様今宵はよくぞお越しいただきました。思う存分楽しんでください」
健一は皆の計らいで加奈の前の席に腰を下ろした
「それでは皆様、乾杯」
「乾杯!」
この島で採れた牛肉を使った焼肉とネギが入った味噌汁、その他の料理を囲んで宴会が始まった。
「いやー、今年も作物や生き物がよく育っていいねえ」
「本当だね。今年の夏も豊作だ」
「このまま島が活気づいてくれるといいのだが」
「大丈夫さ。コンサートもやるし」
「ああ、頑張ろう」
「健一は今、何の仕事をしているの?」
加奈が芋のてんぷらをつまみながら訊いてきた
「俺は普通の営業マンだよ。お皿とかの陶器の販売をやってる。加奈ちゃんは?」
「私はお母さんの仕事手伝っている」
「喫茶店だっけ」
「そう」
加奈のお母さんが営業している喫茶店はオムライスがおいしいと評判だ。
「コンサートの運営頑張らないとな」
加奈は味噌汁を見つめたまま考え込むような表情になった
「ねえ、それ、俺も手伝うよ」
加奈は少しの間きょとんとしてそれから笑顔になった
「手伝ってくれるの?」
「うん。俺は楽器苦手で演奏はできないけど、できることなら」
「ありがとう、うれしいよ」
また元気に料理を食べ始めた
「ところでさ、明日、田んぼに行かない?」
「田んぼ?」
「うん、近所の子もさそってみんなでカエル採りなんてどうかなって。
加奈ちゃんが忙しいのはわかっているけど、ほら、息抜きも必要だし・・」
「カエル採りかー小さいころよくやったよね。いいよ、何時に集合?」
「10時に広場に集合でどう?」
「オッケー。10時に広場ね」
こうして宴会は盛況のうちに終幕となった。
「お帰り。宴会はどうだった?」
「楽しかったよ」
「よかったわ。お風呂、湧いているからね」
「ありがとう」
湯船につかりながら明日のことについて考えた。
明日は加奈や子供たちとカエル採りだ。楽しみだな。
湯船から上がり、自室のベッドへ行くと久しぶりの実家のベッドがとても心地よくてすぐに眠気に襲われた。すぐにまた向こうへ帰るけど、めいっぱい思い出をつくって帰ろう。そんなことを考えながら眠りに落ちていった。
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