月に手を伸ばす

女神なウサギ

第1話 帰郷

 八月中旬。気温は36℃越えの真夏日、セミの声がうるさい。

健一は実家がある紀島きしまに帰省していた。以前来たときは中学生だったか。

あれからもう5年も経つ。久しぶりに訪れた故郷は何も変わることなく穏やかな景色を見せている。

紀島の人口は50人程度、全方位を海に囲まれた島で漁業が盛ん。島内にはあぜ道や川も広がりカエルやザリガニが採れる。

 しばらく歩くと実家が見えてきた。家の縁側の腰かけていたおばあさんはこちらに気づくと笑顔で歩いてきた。

「おや、健ちゃんじゃないか。久しぶりだねえ」

ときさん、お久しぶりです」

時さんはこの島で牛乳配達の仕事をしている。

「また時さんが配った牛乳を飲みたいな」

「はははっ、つくるのは私じゃないけどね。まあ、ゆっくりしていったらええ」

「はい、羽を伸ばすつもりです」

時さんにお辞儀をして家に入る

 「ただいま」

母さんが昼食の準備をしていた

「健一おかえり」

「良い匂いだね。カレー?」

「そう。あんたの好きなこの島の牛肉を使ったカレーよ」

「やった!」

この島は牛肉もおいしいと評判で健一もこの島の牛肉が大好きだった。

「カレーが煮込み終わるまでもう少しかかるからそれまであの子のところに行って来たら」

「あの子?」

加奈かなちゃんよ。今日は打ち合わせで広場にいるわよ」

「打ち合わせ?何の?」

「この島で行うコンサート・・って、健一は知らないわよね。詳しいことは加奈ちゃんに訊くといいわよ。あの子、実行委員だから」

「ふーん」

とりあえず、広場に向かうことにした。

加奈は健一の幼馴染で最後にあったのは中学生の時。加奈ちゃんに会うのも久しぶりだな、と考えながら広場に向かうと一人の女性が島の人たちに説明をしているところだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る