第150話 バルバロッサに装飾品を貰った
* * *
テロワールの隠れ家を出発して一週間後、テロワールとリンカを伴ってラビィとモモはミナールが待つスワンプ村に着いた。ホワイトドラゴンの姿に戻ったクレインの背に乗って空を飛んで移動したのだ。ただし、ラビィは自力で飛行していた。
スワンプ村のミナールの家に着くと、そこにはバーバラとレヒツとリンクスが居た。五年ぶりに会ったチビでとんがり頭のレヒツと、寡黙で糸目のリンクスにはそれ相応に成長していた。バーバラと共にいくつかの死線を乗り越えてきたのだろうか、やや精悍な面構えになっている。
俺たち一行に遭うやいなや、レヒツはモモに喧嘩を売ろうとしたが、前髪を降ろしている
ミナールは久しぶりに会ったモモとテロワール、ラビィとリンカを自宅に招き入れた。俺も一緒に入っていこうとしたが、バーバラに村の端にある眺望台に連れ出された。そして今、人間に戻ったクレインにしっかりと右腕を抱き寄せられているバーバラの左肩に止まって、地平線まで続く山々のうねりを眺めていた。ミノはラビィに預けさせられているし、レヒツとリンクスも別行動をさせられている。
「五年ぶりだな」
バルバロッサに戻ったバーバラが言った。
「ああ」
俺にとっては数ヶ月ぶりだがな。
「モモを無事連れ戻したんだな。感謝する」
「完全じゃない気もするが……」
性格が変わってしまっているし、仮面を付けなければ戦闘も普通の会話もできない。
「それでもさ。俺もいくつか手を打ったが、あいつを心の闇から引き上げることはできなかったんだ」
「そうか」
「ラビィも自分に自信が持てる様になっているし、お前は俺が出来なかった事をやってくれる不思議な力がある気がしているんだ」
いや、実際俺は彼女らに支援の手を差し伸べようとは思っていなかった。むしろ、利用してきただけだ。そう、利用してきただけ……。
「……」
「どうした? エコー」
「……、買いかぶり過ぎだろ」
「いや、俺はそうは思わん。だからパイラも頼んだぞ。俺にとってあいつが三人の中で一番掴めない子だからな」
復讐を誓っていたパイラは誰にも心を開かなかったからな、無理もない。
「もちろんそのつもりだ。俺が人間に戻るための近道だと思っているからな。ところで俺がバグ女神に拉致されて五年ぶりに戻って来たって事は、さっき言っただろ」
「ああ」
「それから今までの出来事は、全てお前の思う様に動かされていると思うんだが、違うか?」
「それこそ買いかぶりすぎだ。それに、豊穣神を捕獲するなんぞ、俺が考え出したり策を練ったりできる訳がないだろ」
「そうか?」
「俺はただの人間だぞ?」
化け物みたいに強く、信じられないほど長生きしているだろうが。
「……」
「俺が想像できないその成果のお陰で、クレインを人間にする手段の一つとして神の力が使えるかも知れないんだ。その可能性も調査してくれるとありがたい」
さすが、自然災害を象徴するドラゴンが身近に居て、さらにそのドラゴンから慕われている奴の言うことはスケールがでかいな。
「それにはミノの信者を多数集める必要が有りそうだがな。ところで今、信者が多い神は誰だ?」
「維持神リスシスだな」
「バグ女神!! くそっ、あいつが維持神か!」
リスシスの名を聞いた時に何か引っかかっていたんだが、そう言えば維持神の名だったか! 今ようやく繋がった。
「おい、どうしたエコー?」
「俺を鳥の体に転生させた張本人のバグ女神だ。五年前に拉致られた時にそいつの名前を聞いたんだ。その名前がリスシスだ!」
「ふむ、なるほどな」
「おいバルバロッサ、落ち着いている場合か。クレインをドラゴンに転生させたのも恐らくリスシスだぞ?」
「だからと言って、今すぐ何かをできる訳では無いだろ」
バルバロッサはやけに落ち着いているな……。そもそもクレインがドラゴンに転生させられてなかったら、今の状況になっていなかったから恨んでいないと言うことか?
クレインは相変わらずバルバロッサの右腕を両手で抱え込んで、傾けた頭を寄せて両目をつぶっている。
「た、確かに……。だが、何か手掛かりを得るために、ヤツの神殿や教会を調査してみる手は有るだろ?」
「そうだな。鉄床に言っておこう」
鉄床とは、バルバロッサが率いる
「頼んだ」
「ああ、それからもう一つ。俺は野暮用があるんで暫く身を隠す」
「野暮用? 何だそれは?」
「それは言えない。国家機密だ」
国家機密であると吐露している時点で、駄目な気もするが……。それに身を隠すと言っても、これまで連絡を取り合っている訳では無かったから影響は無い気がする。
「……、まぁ、俺には関係ないんだろ?」
「多分な」
きっぱりと否定しろよ。フラグを立ててるのか?
「その間、俺はドラゴンや鳥が人間になる手を探しておくさ」
「ああそうだ、エコー、クレインの肩に止まってくれるか?」
バルバロッサは優しくクレインを自分の右腕から引き剥がし、自分に向けて立たせた。俺はそのクレインの肩に飛び移る。
小さな何かをポーチから取り出し俺に見せるバルバロッサ。
「俺からのプレゼントだ。常に身につけておいてくれ、きっと役に立つ」
それは、小さな銀製の雪の結晶とも六枚花弁の花とも見て取れるブローチだった。バルバロッサはそれを俺のハーネスの左胸に取り付け一歩下がる。
「あっらぁ~!! とってもお似合いだわ!」
突然オカマ言葉で体をくねらせるバーバラ。
「……、急にそれはやめろ。これは
「ただのアクセサリーよぉ。目覚めたパイラちゃんに能力を使って確かめて貰ったらどう? 本当に
「……」
「俺からはそれだけだ。じゃあ、戻るか」
急に男に戻ったバルバロッサが言った。
……、こいつも相変わらずだな。
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