第147話 テロワールの正体を知った
* * *
「まったく。二人同時にかかって来いとは言ったが、三人同時とは言ってないぞ」
左肩を擦りながらテロワールが言った。僅かに裂けたその左袖には血痕が付いている。
モモとテロワールが試合を繰り広げ、至る所の土が
「親父の言う通りに撃ったのに、避けてくれなかったじゃないか。こんなに可愛い親父をボクが撃っただなんて、親父はこの責任をどうしてくれるんだい?」
魔法の羊皮紙を俺の右の翼に宛てているラビィが言った。仮面を外したモモは黙って俺を両手でそっと掴み、ラビィに向かって差し出してくれていた。
治癒の効果が現れたお陰で、俺の翼の痛みが引いていった。ラビィが撃った弾丸は風切羽根を貫通させるのが俺の狙いだったのだが、予想よりその弾速が早かったらしい。いや、俺の体の動きが予想より遅かったのか……。鳥の体じゃなければこんな事にはならなかったはずだ。
俺の合図と同時にテロワールに連撃を加えたモモ。その攻撃はすべて弾かれたが、ラビィが放った弾丸はテロワールの左腕をぎりぎり掠めることが出来たのだ。
結局モモはテロワールの体に一度も攻撃を当てる事が出来なかった。その事に対する無念の言葉を撒き散らした後、モモは仮面を外したのだった。
「……ラビィ、それは後で謝る」
「分かった、じゃあその羽根の血の汚れが無くなるまで一緒にお風呂に入るって事で良いよ」
「おい、ラビィ!」
「そんな事よりテロワール、約束は守ってくれるんだよね? 鳥である親父は、一人とは数えないだろ?」
俺との話を勝手に切り上げたラビィが言った。
「……まぁ、ぎりぎり合格って事にしておこう。ミナールの爺さんの所に行けば良いんだろ?」
両肩をすくめたテロワールの後ろにはリンカが控えていた。
「よし! これでミナールの兄貴のミッションは完了だね!」
治療が終わったラビィは、ポンポンと俺を軽く叩いて言った。
「いや、テロワールをミナールの所まで届けるまでだろ。それにテロワールの出発の準備もある筈だ。そうだろ?」
「そうだろって、人の様に話すお前は何者なんだ? まずその事を説明してくれ」
紹介されていない俺の事を知りたがるテロワール。太陽が山稜にその姿を隠し辺りが闇に包まれた中でその両目が赤く光り始めていた。
その目はなんだ!?
「ところで親父、ミノは何処だい?」
「あ!! ミノが向こうで倒れているんだ。あいつを回収するぞ」
テロワールに掴み落とされ、蔦でぐるぐる巻にされた場所に向かって俺は飛び立った。
* * *
「ほえぇ、まったく酷い目に遭ったのう」
テーブルの上でミノがぼやきながら半分透明になった木の実に齧り付いている。普通に動けるようだから、多分大丈夫なんだろう。
小さなダイニングルームにモモとラビィ、そしてテロワールがテーブルを囲んでいた。夕食の準備をしているリンカが置いていった木の実の入った小皿の他に、茶が入ったカップがそれぞれの前に置かれていた。丁寧に、俺用にも用意されている。
ラビィと俺はテロワールにこれまでの事を掻い摘んで説明した。
その中で、俺が転生者であることは伏せようとしたのだが、話の途中でテロワールの方からその事を指摘してきたのだ。どうやらドラゴンの体に転生したクレインの事を知っているらしく、俺も似たようなものだと気づいたのだ。
現在俺たちが、パイラが石化しておりそれを治そうと躍起になっている事を説明した。
俺たちは、元々『泥の人形』
テロワールが言っている事が本当のことだとしておこう。
「で、お前のその赤い目は何なんだ?」
「ああ、転生者だからこっちの世界の事は知らんのか。俺は少しだけノスフェルの血を引いているんだ」
「ノスフェル? ラビィは知ってるか?」
「話は聞いたことが有るよ。別名、夜人族。
「ああ、遥か昔から
テロワールはラビィと
「
「……そうか」
「それで? 出発準備にどのくらい時間がかかるんだい?」
種族間問題に興味がなさそうなラビィが言った。
「まぁ、リンカの準備次第かな。俺はリンカより準備を早くできるぞ」
「此処はどうするんだい?」
「放棄するさ。ミナールの所に行ったら、長い期間戻って来れないだろうからな」
ラビィがミナールから預かっていた手紙には、そんな事が書かれていたのか?
「だったらワシが此処をもらうぞ! ワシの神殿としては狭いが、まぁ仕方ない」
ミノが一人で
「テロワール、ボクが此処を譲り受けても良いかい?」
「ん? こんな
「ボクだったらいつでも気軽に来れるからね。でも、使い始めるのはパイラ姉さんを元に戻してからだ。それで、幾らぐらいで譲ってくれるんだい?」
「ただで良いぞ」
その言葉を聞いてジト目でテロワールを見るラビィ。
「どうした?」
「いや、ただでって言うのが気に入らないのさ。何か裏があるんじゃないかって思うんだよ」
「そうか? ここの塀を維持して、誰も侵入させないことが条件なんだが――」
その瞬間、小屋の外で重量物が地面に落ちる様な音と振動がした。
「「なんだ!?」」
皆が外に通じる扉を見ると、その扉がゆっくりと開いた。
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