第146話 テロワールに挑んだ
飛んでくる土を、目に掛からないように左手で払うテロワール。
モモは一瞬視界がなくなるその隙を狙い、顔を狙った突きを繰り出したが、テロワールは首を右に傾けてそれを躱す。
突き出した十手を引くと同時に左足を脇腹目掛けて蹴り上げるモモ。その脛を右肘で迎え撃とうとしたテロワールだったが、モモは振り上げた足を縮めてくるりと躱した後、距離を取った。
「随分と、荒々しい剣技だな」
テロワールが手に持った棒を肩に軽く打ちながら言った。その直後、突然その棒を構え、モモから僅かに外れた先に視線を向ける。
その視線の先の壁の上には、欄干にマチェットガンを据え置きテロワールを狙っているラビィが居た。
「あの距離から何ができるんだ?」
テロワールは警戒しながら独白した。
「あんたの相手は私よ!」
モモがテロワールに突っ込む。何度も十手をテロワールに打ち込むが身を躱され、あるいは棒でいなされた。
「くぉ! 小癪なやつじゃの」
背後でミノが悔しがっている。
「モモ! ラビィとは反対側に回れ! テロワールの視界にラビィが入らない位置から攻撃しろ!」
「もう一人居るのかよ」
俺の声に気づいたテロワールは、飛んでいる俺をちらりと見た。
モモはそれを見逃さず、クナイを二本に投げ、火輪斬りを空打ちしてテロワールの背後に移動する。
キン。
火輪斬りに使ったカタナを納刀すると同時に左手に持っていた十手をテロワールに繰り出した。
「ふぉ! あの攻撃も凌ぐのか!」
テロワールの背中に回した棒がモモの攻撃が直撃するのを防いでいたのだ。
立て続けに足払いをするモモ。それを身を捩りながらジャンプして避けるテロワール。
「今だ!」
俺の声よりも早く、空中で回避が出来ないテロワールに向けモモが渾身の突きを繰り出す。
「そうくるよな」
テロワールはその突きを踵で受けた。いや、受けただけではない。それを利用して上空に更にジャンプ――
俺の目の前に迫ってきたテロワールは、俺を鷲掴みにし畑に降り立った。
そしてすぐにテロワールは畑に育っている蔦条の植物で俺をぐるぐる巻きにして動けなくした。
「お前に何ができるか知らんが、此処でじっとしてろ」
「くそっ!」
テロワールは畑の区画の間を駆けてモモに向かって行った。畑の植物が邪魔をして戦いの様子が見えない。テロワールが俺を鷲掴みにした際に振り落とされたミノは近くの地面に倒れて動いていない。
「ミノ! おい! ミノ!!」
返事がない。
「シェルオープン。シャーロット、緊急事態だ。すぐにラビィの前に俺を転送してくれ」
「承知しましたわ。合図をくださいな」
「合図は要らん、今だ!」
視界が一瞬暗転して俺は空中に転移された。片膝でマチェットガンを構えているラビィの前方の空間だ。
「お、親父!? 怪我は無――」
「ラビィ、テロワールの所には何秒で着弾する?!」
「何秒って言われても! バンタンって感じだよ。バンって撃ってタンって着弾する早ささ」
コンマ二秒以下か……。
「よし、俺が頭の冠羽を垂直に立てた瞬間に俺の右羽を撃て!」
俺は冠羽を立てながら言った。
「え!? でも」
「良いから言うことを聞け。心配しなくても俺は避ける」
そう言うと、俺はテロワールとモモが戦っている場所に向かって飛んだ。
西の空の夕日は、山稜にほぼ隠れていた。
「まずいな……」
「何がまずいのですの?」
まだ巻き貝の
「すまんシャーロット。今立て込んでるから後でだ! シェルクローズ」
「シェルクローズ」
急行する俺の目の前では何度もモモが攻撃を繰り返し、それを捌いているテロワールが居た。俺はラビィとテロワールの間の射線に重なるように接近する。
「モモ!! 俺の攻撃に合わせて全力で攻撃しろ! 三、ニ、一、今!」
テロワールとの距離が残り二、三メートルの位置で、俺は冠羽を立てると同時に、両の羽根を広げ半時計回りに回転した。
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