第144話 悪趣味なアジトを見つけた

  *  *  *


 上空から、連続した爆発音が聞こえてきたかと思ったら、黒い人影が空から降ってきた。


「ただいまっと」


 それは慣れた様子でピッタリと地面に着地したラビィだった。


「どうだった?」


 俺はモモの肩に止まっている。数時間前にミノを認識できる様になったモモだが、かといってミノに興味を示して無かった。ミノも信者が増えたと喜んでいたが、だからと言って何らかの変化が有ったわけでも無いので今は森の中をキョロキョロと見渡している。


「テロワールの住処は、もう目の前だね。意外と高い外壁に囲まれた内側は、まるで隠された花園の様だったよ」


 モモから背負子を受け取ったラビィは歩き始めた。黙ったままラビィを追うモモアンズ


「どういう事だ?」

「壁の内側に菜園や花壇が広がってるのさ」

「……、なんでこんな森の奥で?」

「さあ分からないね。自給自足でもしてるんじゃないか? テロワールは隠遁生活をしているからね」

「人影は有ったのか?」

「上からは見えなかったなぁ。ただ石壁で囲まれたその内側には木製の小屋が一軒建ってて薄っすらと煙が上がってたよ。つまり誰か居るってことさ」


 ラビィの後を追って、疎らに木々が生える薄暗い森の中の獣道の様な道を歩いていく一行。すると、ちらりと枝からロープで吊られたボロ布の様な何かが見えた。


「うへぇ、趣味が悪いな……」


 目の良いラビィがそれが何かを見定めた様だ。


「あれは何だ?」

「人よけのつもりかな?」


 暫く歩いていくと、多くの場所で枝からロープでつられているボロ布が見え始めた。その形や大きさは様々で、球形の物体が付いていたり、棒状の物が一本から数本ぶら下がっていたり――


 人骨だ!


「おい! ラビィ、あれは人を吊ってるのか!?」

「ん? 人?」

「ああ、よく見てみろ!」

「ほわっ! 何じゃあれは!」


 ミノも気づいたらしい。


「あははは、親父ぃ。よく見てみろって、このボクに言ってるのかい?」


 視覚がずば抜けて良いラビィが笑う。


「ああそうだ。あれを見てお前は気持ち悪くならないのか?」

「う~ん。悪趣味だとは思うよ。まぁ、気持は良くない趣味だな、とは思うけどね」

「の、呑気だな」

「親父こそ何を気味悪がってるんだい? ただの木じゃないか」

「木? いやそうじゃない、その枝にぶら下がっているやつだ。人骨だろうが!」

「え?」

「え?」

「あははは……」


 突然笑い出すラビィ。


「ああ、あれね。じゃあ、ボクからも親父に言い返すよ。親父こそ、よ~く見るべきだね」

「なんだと?」


 歩くにつれ、近付いてくる、枝に釣らされている一塊の人骨をよく見てみた。


 頭骨もちょうど人間の頭部の大きさだし、他の骨も人間サイズの人骨だ。肉が削げ落ちてもかろうじて皮と腱で骨が繋がっているのだろう。緩やかに吹く風に揺られている。空虚な頭蓋骨の眼窩が此方を見ている気がした。


「ラビィ、やっぱり骨――」

「じゃないんだよ。よく見てご覧よ。骨に薄っすらと縞模様が見えないかい?」

「ん?」


 ……確かに、骨は真っ黒に染まっていて判別しにくいが、木の年輪の様な筋が見える。


「な? 木で作った彫刻さ。人骨っぽく色を塗ったりボロ着を纏わせたりしてるけどね」

「な、なんなんだ? この木製の人骨もどき群は」

「だから、悪趣味だって言ったんだよ。テロワールはこれで自分の住処に人が寄ってこないって思ったのかなぁ?」


 あ、悪趣味な……。


「まったく、テロワールはどんな変人なんだ?」

「それは、知らないよ。まぁ、それもすぐに分かるさ」


 その十数分後、俺たちは三方の壁の狭間から弓矢で狙われそうな外壁の凹みに居り、目の前の扉をノックした。


「すいませ~ん!」


 ラビィが大声で呼び出すこと三度目。その扉がゆっくりと開いた。


「はい。どちら様ですか?」


 そこには農村の村人が着ていそうな、動きやすそうな服装の女性が立っていた。


「ボクは泥沼の人形魔女団カブンのラビィって者なんだけど、総統のミナールの使いとして来たんだ。テロワールは居るかな?」


 爽やかな笑顔で答えるラビィ。


「少々お待ちいただけますか?」


 そう言うと、扉がそっと閉まった。


「ねぇ親父、なんだか今の女性、フールドの所に居たシンカに似てなかったかい?」

「ああ、俺もそう思った」


 再び扉が開かれると、俺たちは高い壁の内側に招かれた。

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