第140話 モモの復帰がほぼ出来た
モモは少し身を屈めながら木々の間をゆっくりと抜けていく。ラビィは抜いたマチェットガンを右手にし、銃口を天に向けたままモモに追従した。
暫く進むと木が無い小さな広場があり、その向こう側の木々の間に一体のオークがちらりと見えた。
「行くよ!」
そうモモが小さく言うと、そのオークに向けて駆け出した。
「ちぇっ、やっぱり木が邪魔だな」
ラビィもモモを追って走り出す。
モモに狙われているオークが、駆け寄ってくるモモに気づいた。一瞬驚き、仲間に敵襲を伝えるために声を発しようとしたが、その一瞬が手遅れとなってしまう。
標的となったオークの首に、一瞬にして抜刀されたモモのカタナが奥深く突き刺し込まれていた。
音を発すること無く屠られるオーク。モモはゆっくりとカタナをオークの首から抜いた。
「はわっ! 早い!」
ミノが俺の背中で感嘆の声を上げる。
モモから十メートル程離れた右手に別のオークが一匹見えた。運悪くそいつの視線はモモの襲撃の様子を捉えていた。怒りの咆哮を上げるオーク。
モモはそのオークに向かって駆け出した。接敵まで残り三メートルのところで、突然左手の木の陰から槍が突き出される。さらにもう一匹別のオークが潜んでいたのだ。
その槍の一撃を紙一重で躱すモモ。左腕は横から槍を突き出してきたオークの方に突き出されている。
オークの両目にクナイが一本ずつ刺さっていた。
「ふぉっ! よく躱し――」
ミノがその言葉を発する間に、モモは素早く火輪斬りを二度繰り出した。火輪斬りは斬撃を放った後、自身を移動させる技である。本来はカウンター技なのだが、それを故意に二度空打ちして素早く目の前のオークに近づいたのだ。そして三度目に繰り出した逆袈裟斬りでオークの体を斜めに分断してしまった。
「――よったの。ふぁっ?!」
モモは眼の前のオークが絶命したのを確認すると踵を返し、血払いをしたカタナを納刀しながら両目を潰され藻掻いているオークに向かって歩み寄り始めた。
「あと一匹かしら? ラビィ、まだ油断せずに周りを警戒しておいて」
「わかった。しっかし姉貴の剣技は凄まじいね。やっぱりボクでは敵わないな」
周囲を警戒しながらラビィが言った。
両手を顔に当てているオークの首を横切る一閃の直後に軽快な金属音がした。抜刀後に一瞬にして納刀したのだ。ゆっくりとオークの頭部と両手が地面に落ちて転がった。
モモは足元にある頭部から二本のクナイを引き抜き回収した。
「姉貴」
深い藪にマチェットガンの銃口を向け、ラビィが左手の指を二本の立てた。モモは頷き、カタナの柄に手を置きゆっくりとその藪に向かって行った。
モモが近づくとその藪がガサガサと揺れ、二体のオークが飛び出してきた。一匹は剣を上段から振り下ろしながら、もう一匹は槍を腰だめから突き出しながら――。
再び納刀の金属音がした。音がした場所には、歩みを止め、やや俯き気味のモモが居た。
――五、六ケ所で分断された槍の柄と穂がバラバラと地面に落ちる。手首から先しかない両手に握られた剣も、地面に落ちた。そして動きを止めた二匹のオークの体には無数の切り傷が現れ、そこから血が溢れ出し始めていた。
風輪斬りだ。一撃一撃は弱いが、攻撃圏内に入り込んできたあらゆる物を斬り落とす。
ふむ、今ので十六撃か。剣聖の俺の目はしっかりとモモの攻撃を見極めていた。
「ふぉぉっ! 今の攻撃は見えたか、ラビィ? ワシには全然見えなかったぞ」
ミノが驚愕の声がうるさい。まぁ、俺とラビィ以外には聞こえないのだが。
「ああ、あんな短時間に十五回、いや十六回も斬撃を放ってたね」
え?
「ラビィ、お前はアレが見えてたのか?」
「親父、ボクは目が良いって前から言ってるじゃないか」
「……」
ラビィのヤツ、遠見視力だけじゃなく動体視力も人並みを外れてるんだな……。
「見えてても、避けられるかどうかは別だけどね」
そんなやり取りをしている間に、モモはトントンと突きを二回繰り出して、二匹のオークの首を貫き終えていた。
それぞれ周囲の警戒を継続するモモとラビィ。俺も周囲を旋回しながら辺りを見渡した。
数分経ってもオークは現れなかった。
「姉貴、怪しい音は周囲からは聞こえないよ」
「ありがとう。じゃあ終わりね?」
そう言うとモモは仮面を取り外し、目を覆う様に前髪を落とした。それと同時にモモの周りの気が静まった。
「親父、姉貴のリハビリはどうだい? 今の姉貴は、ボクがこれまでの五年間で会ってきた誰よりも強いと思うんだけど」
「充分だな」
仮面を付けなければならないと言う点は目を瞑らなければならないが、仕方ない。
「よし! じゃあ、討伐の証拠を集めて、さっさと帰ろう! 宿に戻って、姉貴が復活した宴でもしようよ」
「ほわっ、それが良いぞ」
何もしていないミノが
「……も、……」
「うへぇ」
「何だって?」
「ボクは野菜を食べなきゃ駄目だってさ」
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