第139話 オーク狩りをすることにした

  *  *  *


 サルファの街を出発して街道沿いを進むこと一ヶ月半程が過ぎようとしていた。モモと俺は、立派な外壁で囲まれた街や、木製の防護柵を要所だけ設置している小さな宿場町をいくつも通過してきた。まさに寝る間も惜しんでルーシャ国を目指している。


ラビィは街が近づくと一人で先行して街に入り、俺たちがそこを通過した後に合流してきた。行商をしているのだ。食料は、船旅の時と同じ様にシャーロットに俺ごと転送してもらう事によって、貴族が食べる贅沢な物を日々取ることが出来ている。調理時間がほぼゼロなので、その分モモの訓練に費やすことが出来た。


「ここら辺だね」


 飛行用の真っ黒な革鎧を装備しているラビィは周辺を見渡している。マチェットガンを右太腿のホルスターに納め、予備弾を詰め込んでいる細長いケースを腰に装着しており、ポーチもいくつか腰に下げている。飛行凧を折りたたんだ背負子は宿に置いてある。


「モモの腕試しだからな、ラビィは積極的に狩るんじゃないぞ」


 モモの肩に止まっている俺は横に並んでいるラビィに言った。


 今日は立ち寄った街のクエスト案内所で、オークの討伐クエストを請けているのだ。こっちの世界のオークは丸耳族ホミニを同じぐらいの背丈らしい。知能のほどはゴブリン並みで武装もするらしい。


「どきどきじゃの。討伐を見るのは初めてじゃ」


 と、ミノが俺の背中で言った。


「エコー、索敵して貰ってもいい?」


 要所を鉄で補強している動きやすさを重視した革鎧姿のモモアンズが小さな声で言った。モモの肩に止まっているからその声を聞くことが出来ているし、この旅で幾分かアンズモードのモモでも俺たちであれば流暢に話せる様になってきている。


「ああ、此処で待ってろ」


 周囲を見渡す為に、俺は上空に舞い上がった。


「ワシも探すぞ、どれどれ?」


 背中のミノが周囲を見渡す。


 眼下には小さな森とその間を結ぶ様に木々が生えている土地が広がっている。上空からの索敵には向いていないのだが……。


「お!」


 一瞬、木々の間に何かが動く影が見えた。


「ふぇっ!? どうした? 居たのか?!」

「ミノ、見えるか? 今向かっている方向をよく見てみろ」


 俺は高度をやや落としながら影が見えた方に向かって飛んでしばらくすると、幹と幹の隙間に見える人型の生物が何匹か見えた。


 そいつらは不揃いの古びた革鎧を着込んで、抜き身の剣を手にしていた。何かを探しているかの様に周囲を見渡しながらウロウロとしている。ゴブリンに比べて明らかに背が高い。細長いゴブリンの顔つきに比べ、顎ががっしりとしているそいつらは、恐らくオークなんだろう。


「あやつらは何をしておるんじゃ?」

「分からん」


 俺は暫くその場で旋回して、その様子を見てみた。オークの数は見えるだけで四体だ。一匹を剣聖の能力で鑑定してみる。


 錆びた剣とボロい革鎧を装備している一匹のオーク。

  攻撃 4

  技  2

  速度 2

  防御 3

  回避 1


 大体ゴブリン三匹を寄せ集めたら同じぐらいだろう。とすると、見えているオークだけでゴブリン十二匹ぐらいか……。


「モモ達の所にもどるぞ」


 俺はミノにそう告げ、モモとラビィが待っている場所に引き返した。


「居たかい? 親父」

「ああ、四体見つけたが他にも居るかも知れない。木々が多い所に居るぞ。着いてこい」


 ラビィの問いに応えると、俺はモモたちを先導した。


「木が邪魔だなぁ。弾道の邪魔になってしまうよ」


 飛び道具であるマチェットガンを操るラビィにとってはこの森は戦いにくいのは仕方が無い。今日はモモの復活を確認するためのクエストなのだ。


「……、……よ」

「木を利用すれば、オークを各個に討伐できるから姉貴にとっては有利に運ぶんだってさ」


 モモアンズの聞き取りにくい発言を代弁するラビィ。


 俺は暫く二人を誘導した。


「そろそろだ。この先に居るから身を潜めろ。モモ、準備しろ」


 モモアンズは頷くと、腰に留めている仮面を取り外し顔に装着した。


「変身」


 モモがそう言うと、周囲の気の質が一瞬にして変化した。モモの性格を元に戻すためにでっち上げた変身の技と、戦闘モードに移行して戦闘力を僅かだが上げる発気の技を同時に発動させたのだ。


「モモ、いけるか?」

「当たり前じゃない。私は師匠の一番弟子よ! ラビィ、あんたは私の後ろで控えておいて」


 顔の上半分を仮面で隠したモモが軽く舌なめずりをし、腰のカタナの柄に右手を添えて前進しながら言った。



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