第132話 ジンクに飛ぶ準備をした

  *  *  *


「シェルオープン。シャーロット、もう起きてるか?」


 ミノを起こし、ラビィが軽い朝食をすませた頃を見計らって俺はシャーロットを呼び出した。


「早いですわね。ええ、今起こされましたわ」

「そうか。それはすまん。早速だがジンクって街が何処にあるか知ってるか?」

「調べてみますわ。恐らく東方の街だと思うのですけれど、ジンクがどうかしたのかしら?」

「ああ、モモが居るらしい。石化を解除するにはあいつの身柄を確保する必要がありそうだからな」


 エルヴンディルを入手したその日、その事をシャーロットに連絡済みである。シャーロットの方でもコカトリスの血を飲んで石化した人間をもとに戻す方法を探ってもらっているが、まだ見つかっていない。とすると石化を解除する方法を持っているミナールのクエストを達成した方が手っ取り早そうだ。


「俺たちはセカルドの街には戻らず、ジンクに向かうことにする。護符タリスマンのダイアナとエルヴンディルを持った俺をそっちに転送してくれるか?」

「分かりましたわ。タイミングはいつですの?」

「親父、ちょっと待って」


 荷造りをしているラビィが割って入ってきた。


「なんだ?」

「これなんだけど、ジンクに持って行かない方が良いと思う。途中で売るか、シャルの元に届けるかした方が良さそうなんだけどね」


 折りたたんだギーニア虎の毛皮を指さしながらラビィは言った。


「それもシャルのところに送ってもらおう。ラビィ、俺がシャーロットのところに転送してもらった五分後に、こっちに転送してもらう様にするから、お前の前方の空間を開けておいてくれ。シャーロット、聞こえてたか? あと数分後に呼びかける。その時にそっちに転送してくれ」

「分かりましたわ。こちらはいつでも転送させられますわよ」


 その後、ラビィにハーネスの間にダイアナを突っ込んでもらった。さらにギーニア虎の毛皮の上にエルヴンディルを括り付けてもらい、その紐の端を咥えさせてもらった。これで、俺がこれらの品々を持っていると、転送の魔法の呪文スクリプトで認識される筈だ。駄目だったら俺の上にギーニア虎の毛皮を乗せて、再チャレンジだ。


「シャーロット、こっちの準備が出来た。そっちはどうだ?」

「良いですわよ。カウントダウンは此方からしましょうか?」

「頼む」


 俺は落としてしまった紐の端を、改めて咥えた。


「ではエコーを此方のアリシアの前に転送しますわ。三、二、一、今」


 その瞬間、俺は空中に居たので羽ばたいた。一緒に転送されたギーニア虎の毛皮は真下のテーブルの上に落下している。エルヴンディルを包んだ布も無事だ。シャーロットは、俺が荷物を持って転送されるので護符タリスマンのアリシアの前方にテーブルが来るようにしていた様だ。


 俺が転送されたその部屋には、大きな天蓋付きのベッドや石造りの暖炉にソファ、本が詰められた本棚、大小のテーブルとクッション付きの椅子などがしつらえられていた。


「無事、転送できましたわね」


 寝巻き姿のシャーロットが言った。金色の髪の毛はボサボサだった。


「ギーニア虎の毛皮はシャルに転送しておいてくれるか? あとダイアナが俺のハーネスに差し込んであるから、抜きとってくれ」


 テーブルに降り立った俺とシャーロットが互いに近寄る。


「……、有りましたわ」


 ハーネスと俺の体の間に指を突っ込んだシャーロットは、ダイアナをつまんで取り出した。


「五分後に、俺をラビィの前に転送してくれ」

「分かりましたわ。……お姉様に会っていきます?」


 シャーロットは寄って行った窓辺から外を見ながら言った。窓からは庭園が見え、その先にパイラが眠る霊廟が見える。


「いや、いい。状態は変わらずなんだろ?」

「ええ、相変わらず綺麗な微笑みを浮かべてますわ」

「そうか……」


 そして五分後、俺はラビィが待っている周囲が見渡せる平原に設営した野営地に戻った。


「ラビィ、とりあえず東に向かって飛ぶぞ!」

「うん」


  *  *  *


「ジンクは東方の国との交易航路の途中に有る街の一つですわ」


 巻き貝の魔法装備アーティファクトからシャーロットの声が聞こえる。俺たちはラビィの飛行凧に乗って東に向かって飛んでいた。


「私達が居るのは、東西に伸びた形をしたゴンドワナ大陸の西端ですわ。その大陸の西側半分の南側に位置するのが新大陸のバールバラ大陸で、バールバラ大陸の北西端にはゴンドワナ大陸とがつながる陸橋がありますの。当然その陸橋はゴンドワナ大陸の南側のあるのですけど、東西方向では、大陸の約半分ぐらいに位置しますわ。そしてその陸橋の東側にサルファという街が有りますの。陸橋で分断されたゴンドワナ大陸の西側の海と、東側の海を結ぶ中継地ですわね。そのサルファから海路で半ヶ月ほど東に行くとジンクが有りますわ。ですからサルファで情報を集めればジンクの事を詳しく聞けると思います」


 モモは自分の出生地である東方を目指していたのか? モモが乳飲み子の時、旅商の老いた夫婦にはるか東方の国で拾われたと言っていた。そしてその老夫婦から貰った、モモが持っていたカタナやクナイは東方の国の武器であるらしい。


「まずはサルファを目指せば良いな」

「ですわね」

「分かった、ありがとう。シェルクローズ」

「シェルクローズ」


 ジンクの情報をシャーロットから得ることが出来た。


「ラビィ、聞こえてたか?」

「うん。まずは街道沿いに飛んで目ぼしい街に入ろう。そこでサルファへの行き方を聞いたら良さそうだね」

「ああ、そうだな」

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