第131話 モモの情報を得た
* * *
「これがエルヴンディルだよ」
フールドが丸くて大きめの葉に包んだ植物をテーブルの上に置いた。その植物は細く細かい葉が先になるほど多い、人参の葉の様な植物だった。
シンカはテーブルから離れたところで先程狩ったギーニア虎の皮を剥いでいる。
「ありがとう。金貨八枚が入っているから確かめてくれよ」
ラビィが小袋をポーチから取り出しテーブルの上に置いた。その後、目の前のやや深い皿のギーニアフルーツコウモリの煮物に手をつけた。フォークに刺した肉を皿の横に居るミノに食べさせてから自分の口に運んでいる。
「何処にでも生えてそうな植物だな」
「実際、何処にでも生えているんだ」
俺の問いに答えたフールド。
「そうなのか!? じゃあ何で金貨八枚もするんだ?」
「ああ、それはね、採取方法が特殊なのさ。普通に採取するとあっという間に枯れてしまうんだ」
「お前はその特殊な方法でこのエルヴンディルを採取したんだな?」
「そうだよ。知りたい?」
「ああ、聞いてみたいな。しかしその特殊な方法を教えても良いのか? 儲ける機会を失うんじゃないか?」
「それは大丈夫さ。
「なるほどな。それでその方法とは?」
「木の精霊の魔法を使いながら採取するんだ」
「つまり、その木の精霊の魔法は
「そう言うことだね」
ラビィが差し出した小袋の中身を確認したフールドは、それを自分のポケットに仕舞った。
「あのギーニア虎の素材はどうする? 仕留めたのはラビィだから好きにして良いよ」
フールドがてきぱきと働くシンカを見ながら言った。
「良いのかい? じゃあ遠慮せずに毛皮をもらうよ。あとはフールド達が好きにすれば良いさ」
「分かった」
頷くフールド。
「なぁラビィ、あの肉は旨いのか?」
ミノが指を咥えながら言った。
「以前食べた煮込み料理は美味しかったね。そうだ、フールド、ギーニア虎の肉を一切れ程分けてくれないか? 帰る途中で焼いて食べるからさ」
「いいよ。ただし二日後に焼くんだよ。ギーニア虎の肉は癖があるから、香草と薬味で味付けしておいてあげよう。葉で包んでおくから焼くまでは決して開封しては駄目だからね」
「ありがとう、楽しみだよ」「楽しみじゃのぉ」
ラビィとミノの声が重なった。
ミノが毛皮の下処理を、フールドが切り出した肉の味付けを終わらせた後、俺たちはその場を後にした。
* * *
三日後の夜が明ける前、広がる静けさが星々とともに俺を包み込んでいる。東の空がオレンジ色に染まりつつあった。オウムの俺でも焚き火の番が出来るように、ラビィが用意してくれた細い薪を焚き火に
昨晩はフールドが味付けしてくれてたギーニア虎を焼いて食ったのだ。俺も一欠片もらったが、やはりオウムの舌では美味しく感じる事ができなかった。やはり人として味わうには、パイラの体に憑依して共有した、人間の舌の感覚でなければならないようだ。
……早く、人間になりたい。
そんな事を考えていると、目覚めたラビィが焚き火に近づいてきた。
「よく寝れたか?」
「う~ん、親父が添い寝をしてくれなかったからよく寝れなかったよ」
「そりゃ良かった」
頬を膨らませるラビィ。
「ところで親父、これが枕元に有ったんだが何だと思う?」
ラビィが差し出した右手には紙片が摘まれていた。
「なんだそれ?」
「親父が書いたんじゃないのかい?」
「あのな、俺はまだ文字を沢山覚えちゃいないんだ」
「う~ん、不思議だ……」
「お前が寝ぼけて書いたんじゃないのか? で、なんて書いてあるんだ?」
「モモ、ジンクの街、うみねこ亭」
「なんだと!?」
「な? 変だろ?」
いや、これは恐らくバーバラからのメッセージだ。ラビィはバーバラと使い魔の契約を結ばされている。バーバラが言うにはあくまでも同意の上だと言っていた。バーバラはモモとも契約していたが、俺と同行する様になって徐々に解消されたと言っていた。だが、ラビィとはまだ繋がっていると言うことか……。
ラビィが寝ている間に憑依してその文字を書いたのだろう。使い魔の契約魔法が有効ならそれが出来る。
……モモはジンクの街に居るんだな。
ミナールは、自分が出した条件、つまりテロワールを力づくで説得するには、モモぐらいの武力が必要だと言っていた。ミナールはバーバラの弟子で、泥沼の人形
バーバラは俺が行方不明の状態から戻ってきたのを知って、パイラの石化を治したり、モモを探すのを助けてくれているのか?
あるいは、バーバラの目的のために利用されているだけなのか……。ラビィが眠っている間に憑依しているなら、直接俺としゃべっても良い筈だが……。
「どうしたんだい、親父?」
「お前はバーバラの事をどう思ってるんだ?」
「ん? お袋はお袋だよ? 魔女であるボクの師匠で、両親から見向きもされなくなったボクを引き取って育て上げてくれた恩人さ」
「俺の事はどうだ?」
「親父は親父だろ。ボクの能力の使い方を教えてくれた恩人だよ。何だい? お袋と親父とどっちが好きかを知りたいのかい? もちろん親父はかわいいよ。あっそうか! 親父はボクが親父が好きなことを具体的に知りたい、つまりキスをして欲しいんだな!?」
ラビィがしゃがんで俺に向かって近づいてきた。しかも口を突き出して目をつぶっている。
「おい! やめろ!」
俺はその場から飛び立った。しかしラビィもジャンプし、しかも能力を使って加速し俺を捕まえた。
「なんだよぉ、照れなくても良いじゃないか」
ラビィは俺をしっかりと両手で掴むと、足の裏で爆発を発生させてゆっくりと着地した。
「おい、ラビィ、そんな事よりジンクって街を知ってるか?」
「知らないよ」
顔を近づけるラビィにそれを避ける俺。その攻防の中で俺の問いにラビィが応える。
「そうか……。だが、出発の準備ができたらジンクに向かうぞ」
「分かった。キスの後でだね」
事が進みそうにないので、俺はしばらく無心になってラビィに身を委ねた。
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