第113話 マチェットガンを取り戻した
* * *
ガベートの街の大通りのやや奥まった所にある武具屋に、ラビィと俺は入った。ラビィが背負っていた荷物は店に入ってすぐ脇に置いてある。
「やあ、こんにちわ。ご主人は居るかい? 預けていた物を買い戻しに来たんだ」
俺を肩に乗せて入ったラビィはカウンターに歩み寄りながら、向こう側に居る少年に言った。そこに近づくとカウンターの上に一枚の証書を広げるラビィ。それを受け取ろうとする少年から証書を引き戻すラビィ。
「おっと、ダメだよ。これは小さな家なら一軒買えてしまう程の価値があるからね。中身は見てもらっても良いよ。確認したらご主人を呼んでくれるかい?」
店番をしていた少年は店の奥に引っ込んでいった。直ぐに浅黒い中年の男を伴って戻ってきた。
「おう、あんたか。思ったより早かったな。金は用意できたのか?」
「十日以内に戻るって言っただろ? さ、これが借りてた金と利息分だ。確かめてくれるかい?」
ラビィは小さな巾着袋を取り出し、そっとカウンターの上に置いた。
「ああ」
店主は袋を開き、カウンターの上に十数枚のコインを広げ、種類別に分けていった。そして再び巾着袋にそれらのコインを戻していく。
「確かに、ちょっと待ってな」
そいうと再び店の奥に戻っていき、しばらくするとマチェットガンを手に戻ってきた。
「こういう珍しいモンは、ホイホイ預けるんじゃねえよ」
そう言うと、店主はドカッとマチェットガンをカウンターに置き、ラビィの方に押し出した。
「ははは。店主が商売っ気しかなかったから信用に足ると思ったのさ。そっちの証書も出しておくれ」
「ほら、これだ」
店主はもう一方の手に持っていた証書をカウンターの上に広げ、それもラビィの方に押し出した。
「契約を解除するよ」
店主が持ってきた証書の右下にある何らかのシンボルの上にラビィが手をかざしながら言った。店主もラビィが持ってきた証書に手を当てた。
すると証書は真っ黒に染まり、書いていた文字が何も見えなくなった。
確かこの証書のしくみも、商売神の教会が提供していると言ってたな。どうやら使い捨てらしい。目ざとい商売をしている。いや教会だから寄付とか言ってるのかも知れないな。
「なぁあんた、そいつを何処で鍛錬したんだ? オリュポナイトは
「ん? 心当たりは有るけど正直知らないんだ。これは親父から貰ったものなんだ。そして親父も貰ったらしい」
「加工が難しくて固くて軽い。オリュポナイトの形を自在に変えられるなら価値は上がるんだが、加工が難しいそいつは槍の穂にしか加工できていない。どうしても形が歪になっちまうからだ。こいつの様にな」
そう言うと店主はカウンターの下から鉄の塊の様な物を取り出し天面に置いた。
それは確かに槍の穂の様だ。ただし見習いの鍛冶が初めて鍛えたのかと思う様な歪みがある。しかも柄を取り付ける筒状部位が無い。
「これはオリュポナイトかい?」
「ああ、倉庫の奥にいくつか転がってた。俺の爺さんが仕入れた様なんだがまったく売れなくてな。あんたが俺にオリュポナイトのそれを質に金を貸してくれって言ったから思い出したのさ」
「確かにこれだと鉄製の穂の方がマシだね」
「だろ? 他の武器にするとしても鉄の重さで叩きつけたほうが良い。オリュポナイトである必要は全くない」
主人の口調が真剣味を帯びてきた様に感じられた。
「で? どうしてこれを?」
「そこいらの人間にとっては価値がないものだ。だが、どうだろう、お前さんにとってはそうでは無いんじゃないか?」
「触っても良いかい?」
ラビィの問いに、主人は黙ってうなずく。
「まぁね。確かにボクは鍛錬できる人に心当たりがあった様な言い方をしたさ。でも、本当に可能かどうかは分からない」
歪な穂の裏表を見たり、指で弾いてみたりしながらラビィは言った。
「それに主人もさっき言ったろ? 武器にするなら鉄の方が良いって」
「そうだ。じゃあなんであんたはその形の変わった武器を身に着けているんだ? そんなに軽いナタは使いにくいだろ」
「まぁこの武器は使いようさ。で、主人はこの場所ばっかりとって何の価値もない鉄くずをボクにくれるって言うのかい? だったら一応貰っておくけれど?」
「おい、なんでタダなんだ!」
カウンターに乗り出し気味に声を張る店主。
「ははは、そうだね。廃棄する手間賃を忘れてたよ。鉄くず一つにつき銅貨一枚で引き取ってあげるよ」
さも仕方なしの表情を浮かべ答えるラビィ。
「おいおいおいおい! なんで俺がさらに金をあんたに払わなきゃならないんだ!」
さっきよりもさらに大声の店主。
「あはははははははははは」
その様子をみて大笑いをするラビィ。
「な、なんだよ」
「ふふふ、冗談だよ。まぁ正直価値なんで分からないさ。だからどうだろう、鉄製のものと同じ値段で買い取るよ? どうだい?」
「……。断ったら?」
「それでも構わないさ、ボクは此処から帰るだけだからね。だってさ、価格交渉しようとしても互いに価値を知らないんだから無意味だよね?」
「ま、まぁな」
「それにオリュポナイトは市場に出回っていないからね。今後も出回らないなら今日取引した損得の結果なんで分からないだろ?」
「……。分かった。ちょっと待ってろ」
店主はそう言うと店の奥に姿を消した。カウンターの側には入店したときに話しかけた少年がじっとラビィの方を見ていた。
それに気づいたラビィは、少年に向かって両肩を軽く
暫くすると店主が、幾つかの鉄塊を両の手の平に挟んで持ってきた。それらをカウンターの上にばら撒くと、金属にしては軽い音をたてた。
そこには、さっきのものも合わせて、長さも形もばらばらで歪な穂が合計五つあった。
「ほら、これで全部だ。払えるか?」
「手持ちが足りればね。足らなかったら買い取る個数は減らすさ」
そうしてラビィと店主は買い取りの手続きを進めていった。
そう言えば、ラビィはフールドから多めの駄賃を貰ったと言ってたな……。
買い物を済ませた俺たちはその武具屋を後にした。
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