第107話 元の世界に戻ってきた
バグ女神のリシリスに呼び出された俺は、元居たこの世界に戻ってくることができたが五年もの歳月が経っていた。ただし、記憶を残して剣聖の能力を持ったままという条件だったが、人間なるという条件をバグ女神のリシリスに飲ませることはできなかった。
「で、親父はどこにいるんだい? 今すぐにでも迎えに行きたいんだ!」
ハーネスの胸にある、巻き貝の
「すまんラビィ、ここが何処だかさっぱり分からん」
眼下では巨大な樹々が絡み合い、葉の緑が一面に広がっている。まるで地上に広がる緑の絨毯のように見えた。俺はしばらく空を舞い、樹海の上空を探索していく。俺はその樹海の生命の息吹を感じながら風に乗っていた。
……、つまり人っ気が全然無いってことじゃないか!
「親父! なにか目立つ山頂の形とか、海岸線の形とか教えてくれよ!」
「分かってる! だがな! だだっ広い樹海が広がってる。それだけだ!」
「なにか手がかりがあったらすぐに教えてくれよ! ボクは一旦セカルドに戻って親父の連絡を待つからな! 五年も行方不明になってる親父が戻ってきたんだ。そもそも今まで音信不通で一体何があったんだよ?」
俺の居場所が分かれば、すぐにでもこっちに飛んで来る勢いのラビィ。
「すまんラビィ。俺もすぐにでもお前と合流したいんだが、今居る場所を知ることに集中したいんだ」
「わかったよ! でもこの回線は切ら無いぞ」
「いや、何が潜んでいるか分からないから、一旦切ってくれ! お前も知ってる通り、オウムの俺は無力だからな! シェルクローズ」
「……分かったよ。くれぐれもまた音信不通なんかにならないでくれよ。シェルクローズ」
同じ場所をぐるぐる回っても仕方ないので、俺は適当に水平線上の一点を定め飛び続けた。オウムってやつは長距離を飛ぶには相応しく無いって事を体感しながら疲労を我慢して飛んだ。
数時間飛んでも地表の様子に変化はなかった。変化があるとすればオウムの俺の体だけだ。疲労に加え空腹もじわじわと我慢の限界に迫ってくる。
なんか食い物は無いのか? 味はともかく、オウムの俺が食える果実などがあれば良いんだが……。そういや俺がバグ女神に拉致されている間の五年間、多分、この辺りでオウムの体は勝手に生き延びていたんだよな……。だったらなんか食い物ぐらいあるだろう。
俺は樹冠の隙間を見つけ、森の中に飛び込むことにした。
わずかに開けた場所に伸びる枝がある。その枝から一羽のカラフルな鳥が飛び立っていった。そこには多分食べられると思われるイチジクの様な果実が
お、ラッキー。
俺はその枝に飛び移り、眼の前のイチジクの様な実に嘴をそっと近づけ――
* * *
気が付くと鳥籠の底で横たわっていた。籠の蓋はきっちりと閉められている。
籠の格子の向こうには一人の男が居た。八の字眉だが、困った様子でもなく人を小馬鹿にしている様子でもないので元々そんな顔立ちなのだろう。長袖を捲し上げた薄緑色のシャツを着ており、その襟周りにはスカーフを巻いていた。その耳は尖って長い。
こいつはエルフ、……なのか?
「おや、起きたようだね。君は美味しいのかな? それともそんな服を着ているってことは、食べたら飼い主に怒られちゃうのかな?」
……。
「こんな所に居たってことは、飼い主からはぐれたのかな。とすると、食べても怒られないよな……」
舌なめずりをしながらそのエルフっぽい男は言った。
「すべての鳥は毒を持ってないから食べても問題ないとおもうんだけど、問題ないよね?」
「俺に聞くな!」
エルフ男の言い草に、ついつい反応してしまった。
「おや、人の言葉を喋る芸を教え込まれているんだ」
「いや、俺自らがしゃべってるぞ」
「ほほぅ、色々な言葉を教え込まれているね。これは面白い。まぁ、味には関係無いんだろうけど」
「お前、まだ俺を食おうとしてるのか?」
「見たところオウムの様なんだけど、どんな味なんだろね」
俺が普通のオウムじゃないことに気づいてない様子のエルフ男。
「おい!」
「素材の味を楽しむのなら、シンプルにハーブをまぶして焼くのが良いだろうね。いきなり味付けを濃くすると、次に食べるときにどんなアレンジをしたら良いか分からなくなってしまう――」
「おい! そこの腐れエルフ!! 人の話を聞け! てめぇのその長い耳は役立たずか!」
「おや?」
ほんの僅かに違和感を覚えた様子のエルフ男。
「まるで知性があるかの様な乱暴な言葉だね。そんな芸も教え込まれたのかな?」
「芸じゃねえって。一分で良いから人の話を聞いてくれよ」
「おやおや、どんな芸が始まるんだろう」
エルフ男はこれからの芸にちょっと興味があるかの様だ。
芸じゃないんだが、まぁいい。芸じゃないって話をしてやろうじゃないか。
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