第99話 バーバラに協力することにした
セカルドの街壁の内側に流れ込んでいる川のほとりの木の根元に、バーバラが立っている。その視線の先には対岸の街明かりが見える。
「何を見てるんだ?」
俺はバーバラの肩鎧に止まろうと一度寄ったが、やっぱり止めた。ごつい鉄製のその肩鎧は止まりにくそうだからだ。代わりに近くの木の枝に止まることにする。
「別に何も見てないわよ」
バーバラが低い声で応えた。
「で、大事な話とは何だ?」
「エコーちゃん、あなた転生者なんでしょ?」
「そうだ。そしてなぜそれを知っているんだ?」
「私は色々な『目』を持ってるのよ。あなたを見てた目はもう潰れちゃったけれど。まぁそれはそれで良かったのだけれどねぇ」
バーバラには間者が居たり千里眼の術が使えたりするのか?
「どういう意味だ?」
「小鳥たちが巣立ったってことよ」
間者が居たと言うことか? そしてそいつらが去って行った?
「ますます分からん」
「私にも色々秘密があるのよ。その一部を少し教えるから協力して欲しいのだけれど」
「協力するかどうかは今のところ判断できないが?」
「あなた人間になりたいのでしょ?」
「ああ、もちろんだ」
「私もその方法を探しているの」
「お前は人間だろ?」
「もちろん私の為じゃないわよ。私の相棒のためよ」
「お前の相棒ってのは人間じゃないのか?」
「ええ、ドラゴンよ」
ドラゴンだと!?
「そのドラゴンってのは……」
「転生者よ」
転生者! 俺が鳥に転生させられたのと同じ様にドラゴンに転生させたってことだろ。あのバグ女神、また適当に転生させやがったのか?
「そのドラゴンが人間になれれば良いのか?」
「人間には変身できるよの。私の望みは、完全な人間になることよ」
「好きな時に人間になれるのか? 俺は完全に人間になれなくてもそれで十分なんだが。むしろその方法を教えてくれ」
「完全な人間になれなきゃ駄目なのよぉ。私は不死のドラゴンの体に閉じ込められてるクレインを救い出したいの」
え? 不死? クレイン? 救い出す?
「幾つもの疑問が同時に沸き起こってるんだが……」
「いきなりだとキツいかしらぁ。じゃぁ、ゆっくり
「その怪しい手付きは止めろ」
「あら、初々しい反応ね」
「……。クレインってのはファングの師匠と同じ名前だが同一人物なのか? それにドラゴンだと? そしてそのドラゴンは不死で、クレインは何処に居るんだ? お前の相棒ってのはどういう事だ?」
「あん、エコーちゃんたらせっかちね」
……ちっ、腹が立つ。
「じゃあな!」
俺はバーバラを置いて宿に飛び立とうとしたが、その瞬間跳躍してきたバーバラに身体をそっと掴まれ拘束された。
速い!
「悪かった!
急にオネエ言葉をやめるバーバラ。
「普通に喋れるんじゃねえか! 何でオネエ言葉なんか使ってるんだよ。それと俺を解放してくれ」
「ああ、クレインが嫉妬深くてな。クレイン以外の人間に惚れられない様に女を演じてるのさ。ずいぶん長いこと演じてるからどっちが本当の俺かも忘れてしまうくらいさ」
俺を解放してくれたバーバラは真面目な口調で話した。確かに顔も整っているので多くの女性に惚れられそうだ。
「お前の本当の名前は何だ? バーバラは女性に付ける名前だと思うんだが?」
「バルバロッサだ。この名前を名乗るのもずいぶんと久しぶりだがな。皆には内緒にしておいて欲しい」
俺にいきなり本名を名乗って信頼を得ようとしているのか?
「分かった。それで? 俺の質問は他にもあるぞ?」
「クレインはドラゴンに転生した女性だ。詳しいことは省略するが、かつて彼女を助けた時に、使い魔の契約魔法を交わしたんだ。俺とはそれ以来の間柄なんだが、その時よりずっと前から彼女は一人で生きてきた。だから最後に二人で余生を過ごしてからこの世を後にしたいのさ」
「なぁバルバロッサ、お前も不死なのか?」
「俺は不死じゃない。ただしクレインとの使い魔の契約魔法のお陰で不老だ。ああ、使い魔の契約魔法は寿命が短い方が長い方に引っ張られるんだ」
「……」
なんだよ、その効能は。……そう言えば以前パイラが言ってたな。使い魔が長生きする場合は魔法使い側の寿命が長くなると。
「短命の動物と契約した魔法使いの為の仕掛けなんだろうが、逆にも影響するらしい。ついでに言っておくと、使い魔の契約魔法は双方の合意がなければいつでも解除できるんだ」
「そうなのか!?」
「ああ。だから、俺の『目』との契約が切れたのさ」
目? 間者ってことか? ……待てよ。
「それは、モモのことか? それに人間に使い魔の契約魔法を使ったのか?」
「隠しても仕方ないが、そうだ。ただし同意の上だ。だから君のことはモモを通して知っている。だが、モモがナタレの街を離れてから次第に契約が途切れ途切れになっていった。最後は完全に解除されてしまった。だから君の事は途中までのことしか知らない」
バーバラとの契約が解除されたのは、モモの心境の変化なのか?
「それまではお前がモモに指示を出していたのか?」
「いいや、彼女らが心配だったから観察していただけだ。可愛い弟子達だからな」
「パイラやラビィとも契約しているのか?」
「パイラは自分の殻に籠もってたから、契約の同意は得られなかった。だがラビィとはまだ繋がっている」
パイラが魔女であるバーバラに師事したのも復讐の為だったからな。しかしラビィとの契約魔法は継続しているのか……。
「お前の事情はだいたい分かった。それで?」
「ああ、人間になる手段を手分けして探して欲しい。もちろんこちらの情報も君に伝えよう。どうだろう? 協力しないか?」
「まずは情報共有だけだ。それでいいか?」
「……分かった、良いぞ」
「クレインはどうやって人間への変身の技を得たんだ? 俺はそれをまず聞きたかったんだが」
「俺のギフト能力のことは聞いているよな?」
「他人の能力を知る能力だろ?」
「そうだ。他人の能力は大体知ることができる。それに本人から解析の許可を得られれば詳しい情報も得ることができるんだ」
「なるほど。それで?」
「二人の能力者の能力を入れ替えられる能力者を見つけた。それに人化の能力者も見つけたんだ」
ファングがなんちゃらウルフに変身できる能力者だから、それの人間版か。ん? 待てよ?
「人化の能力者は人間だったのか?」
「そうだ、無意味な能力だな。だから能力の交換に同意を得るには簡単だった」
「クレインの能力は何だったんだ?」
「槍マスターだ」
鳥に剣術、ドラゴンに槍術の能力かよ。やっぱりあのバグ女神には一発お見舞しないと気が済まない。
「……ドラゴンにとっても、無駄な能力だな」
「そうだな」
クレインはその人化の能力者と自分の槍マスターの能力を交換できたという訳だ。
「クレインと能力を交換したその人間はどうなった?」
「小国の王にまで成り上がって、寿命で死んだ」
クレインと出会って、都合が良い能力者を探し出して、能力を交換した人間の死に様まで知っているとは……。
「なぁ、お前一体幾つだ?」
「あらぁ、乙女に歳を訊くなんて、デリカシーが無いわねぇ」
クネクネと恥じらう、さっきまでバルバロッサだったバーバラ。
バーバラの変身の時間が切れたとでも言うのかよ!
「もう良い! 帰るぞ!」
俺のその言葉を聞いたバーバラは、口元に右手の甲を持っていき微笑んでいた。
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