第96話 カジャが運び出された
『なぁパイラ、シャーロットにカジャが何者であるのか尋ねてくれ』
俺は悶絶しているカジャを見ているパイラに言った。
『分かったわ』「シャー、この子はあなたと行動を共にしてたでしょ? 何者なの?」
「確かに私が学園に入学してから、カジャとニピシと頻繁に一緒に居ましたわ」
パイラの問にカジャを見ながら応えるシャーロット。
「入学してからなの?」
「ええ、そうですわ。きっかけは……、私がカジャの落とし物を届けたのだったと思いますわ。そして二人で居る所にニピシが混ざってきたのです。この学園は生徒の出自を問わないですけど、やはり貴族は孤立しがちなのです。ですが二人は私と一緒に勉強や食事をしてくれてましたの。そして二人とも商家の娘ですわ。ニピシの実家の商売は好調らしく、カジャの実家は大変だと言ってましたわ」
そしてパイラを三人でいじめてたのか? いや、いじめの対象はパイラだけだったのだろうか……。
「最近二人は、シャーの周りに居なかったわよね?」
「ええ、ニピシは実家の都合で暫く休学ですわ。カジャは……、そういえばお姉様と一緒に帰還した頃から私を誘いに来なくなりましたわね」
シャーロットがパイラに夢中になってたからじゃないか? あるいは目的が変わった……、とか。
『目的を持って学園に潜入してきたのであれば、カジャは隠すべき情報をシャーロットに知られない様にしてただろう。まぁ、これ以上カジャの事をシャーロットから聞き出すことは不可能だろうな』
『そうね』「ありがとう、シャー」
「お姉様の役になるのでしたら……」
パイラがシャーロットの頭を撫でたので語尾が曖昧になる。
『この状況、どうする? 誰か来るかもしれないぞ?』
剣と右手首が二、三個ずつ地面に転がっている。何人かの覆面の男たちは自分の持ち物を残して逃げ去った様だ。
『隠すわ。ちょっと待って』
パイラの視界に半透明の
パイラは近くの木の根下に歩み寄り、呪文を発動させると地面に穴が開いた。
『穴を掘る土の精霊の魔法か?』
『正解よ』
その穴に剣と右手を運び放り込むパイラとシャーロット。再びパイラの視界の
『これも土の精霊の魔法か?』
『そうよ。どうかしら? 何かを埋めた様には見えないでしょ?』
『ああ。あっちはどうする?』
うつ伏せになって両手両足をだらしなく伸ばしているカジャは既に動きが止まっていた。時々ビクッと動いているので死んだ訳では無い様だ。
――と、そこに女教官が一人、助手らしき二人の男子学生を連れて来た。
『どうする?』
『覆面の男たちは伏せて、使い魔の蛇を使って襲われたことを正直に話すわ』
シャーロットが頷きながら、パイラの近くに寄って来た。パイラがシャーロットに念話で今の話を伝えたのだろう。
「許可なく使い魔を外に持ち出しているのを検知してこちらに来たのですけれど。あら!? これは――、あなた達、彼女を介抱してくださいな」
教官はカジャが倒れているのを認めると、連れてきた二人の学生に指示した。教官と一緒に来た二人の学生はカジャの側でしゃがみ込み介抱を始めた。
「無断で持ち出されている使い魔の識別反応が無くなったので、おおよその事は分かるのですけど……。あの蛇ですね?」
周囲を見渡した教官は首と胴が離れた蛇を見つけた後、パイラに視線を向けてきた。
「どう言う状況なのか、詳しいことを教えてもらえますか?」
「ええ、私達は彼女の使い魔の蛇に突然襲われたのです。それを止めさせようとして蛇を殺したらこんなことになってしまって」
パイラが言った。
「危険な蛇を使い魔にして、さらにその位置を監視する魔法を拒んでいたので気にしていたのですけれど、噛まれてませんか? あの蛇は猛毒を持つ種ですよ。その牙がちょっとでも肌に触れている可能性を考えて療法士に診て頂いた方が良いですね。まさか毒蛇を使い魔にして本当に人を襲わせるなんて……」
「襲われたのは私では無くこの子です。シャー、すぐ行ってらっしゃい」
「……、分かりましたわ」
シャーロットが直ぐに答えなかったのは、パイラと念話でやり取りをしたからだろうか。そう言うとシャーロットは教官が現れた方に歩き始めた。
「ところで襲われた理由は何か教えてもらえますか?」
助手の一人がカジャを背負い、もう一人がそれを補助している様子を見ながら教官が言った。
「『真の夜明け衆』という組織を知ってますか?」
「真の夜明け衆……、聞かない名前ですね」
「カジャは、私達を襲ってきたその生徒は、真の夜明け衆を名乗ってました。目的は現王や一部貴族の失墜とのことです」
パイラが教官に説明した。
そういえば以前はパイラも、家族を惨殺された王家に対する復讐に取り憑かれていたな。それは勘違いだったと判明して、シャーロットが実の姪だと言うことも判明している。
「……、そうですか。あなたも彼女もダーシュ教官との学園外活動の時に誘拐されてますよね。これは……、二つの意味で学園長に緊急案件として報告する必要がありそうです」
そう言うと、教官は考える様子を見せた。
『シャーロットがダーシュと一緒に野外演習に言った情報も、お前たちを襲った連中にカジャが連絡したのかもしれないな。つまり奴らはシャーロットの誘拐を真の夜明け衆から指示されたのかも知れない』
『私もそう思うわ』「ところで教官、使い魔を殺されると、魔法使いは気を失うほどに苦悶するのですか?」
パイラは俺との念話から、教官への質問に切り替えた。教官がこの場を離れようとしていたからだろう。
「それは状況に依りますね。魔法使いが使い魔に憑依しているときにその使い魔が殺されると、魔法使いは死の感覚を共有することになりますから表現しようの無い苦しみを味わいます。ですから気を失うことも有るでしょう。さらに意識が戻っても数日はベッドから離れることはできないでしょうね」
「魔法使いが使い魔に憑依してない場合はどうなりますか?」
「自分の精神の半分を持っていかれた様な喪失感に襲われます。数週間から数ヶ月かけて徐々に癒されるのですけど、それは人それぞれですね。もちろん憑依した時に使い魔が殺された場合、意識が戻ってからは同様の憂き目に遭います」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「教習で説明した筈なのですけれどね……」
少し困った表情を浮かべる女教官は踵を返し、カジャを抱えて運ぶ二人の学生の後を追った。
『エコー、真の夜明け衆の事をそっちでも調べてもらえるかしら? クロスコン家の断絶だなんて許せないわ』
木々が周りを囲んでいる広場に一人取り残されたパイラは、話題を元に戻して俺に言ってきた。
『ああ、分かった。お前もそれを狙ってた時期もあっただろ? その筋の情報に触れてたってことは無いのか?』
『真の夜明け衆の情報は無いわ。私が持っている一番近い情報はパイザームの名前ぐらいね』
クロスコン家の元執務長だな。かつてクロスコン家がお取り潰しになった時のどさくさに紛れて、パイラを誘拐して育てた人物か……。
『また、真の夜明け衆が襲ってくるかも知れないから気をつけておけよ』
『分かったわ。じゃあ私もシャーを追って診療所に行くわね』
『ああ』
俺はパイラの知覚共有を切って、自分のオウムの体に戻ったが、周囲が真夜中の様に真っ暗だった。
「おい!! ラビィ! 俺の頭を咥えるな!」
真っ暗な視界の中で、俺のくぐもった声が聞こえた。
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