第82話 護符で魔法の実験をした
「お姉様、これなんですけど」
魔法学園のダーシュの研究室でアッシュの本から
それらは三つのコイン状の
「あら、もう手に入れてくれたのね。ありがとうシャー」
「もちろんですわ。お姉様の頼み事ですもの。もっと難しいことを言ってもらっても構わないですわよ?」
「ふふ、いずれお願いするかも知れないわ」
それを聞いて満面の笑みを浮かべるシャーロット。
『エコー、頼まれていた
『よし! じゃあ、ちょっとした実験に付き合ってくれるか?』
『ええ』
『まず、
女性の名前の頭文字をアルファベット順に並べると覚えやすいのだ。
『師匠の名前を使うの?』
『あ、そうか! じゃあ、二番目のバーバラは使わずに、アリシア、シンシア、ダイアナだ』
「シャー、今から実験するわよ。この
パイラはそう言うと
「そして、これはシンシアで、こっちがダイアナ」
残りの
『パイラ、術者の正面に小さな火を発生させる
『ちょっと待ってね』
そう言うと
『出来たわよ』
『じゃあ、アリシアを持って人の絵をお前たちが居ない方に向けてくれ。それからその呪文を発動させるんだ』
「今からアリシアの前に小さな火を発生させる魔法を使えるかどうかを実験してみるわね」
「行くわよ」
緑色の文字列が淡く光ったと同時に、
「できたわね」
『ああ、次はアリシアの表面を上にして机に置いてから、同じ魔法を使ってみてくれ』
「同じ魔法を、
パイラがシャーに説明しながら、アリシアを机の上に置いた。
すると、
「ねぇ、お姉様。
シャーロットは分かってないな。
「実はね、シャー。今、魔法を編集しながら確認しているのよ。さらに
「そうですの……。私にはお姉様の様に
しょんぼりするシャーロット。
その代わりと言っちゃあ何だが、シャーロットはパイラを大幅に上回る魔力量を持ってる。
「後でまた一緒に私の
「ええ、お姉様!」
シャーロットの表情がきらきらと輝く。
『あ~、次の実験をしてもいいか?』
『もちろんよ』
『次は転移魔法を改造してくれ。アリシアの後ろ10センチにシンシアを転移させる魔法だ』
『待ってね……』
『……出来たわ』
『じゃあ、シンシアはそのままでいいが、アリシアを裏にして魔法を発動させてくれ』
「今から、アリシアの後ろにシンシアを転移させるわよ」
机の上の
『アリシアを指で抑えて立たせたら、上じゃなく横にシンシアは転移するんだろうなぁ』
『やってみる?』
『まぁ、念のため頼む』
「アリシアを立たせて同じ魔法を使うわよ」
パイラが左手でアリシアを立たせ同じ
『まぁ、これはいずれ対処するとして、次だ』
『注文をどうぞ』
『転移魔法は装備品も一緒に転移させただろ?』
『ええ、牢から脱出したときも、モモのところに跳んだときも真っ裸にはならなかったわね』
『さっきのシンシアの転移の時、机は一緒に転移しなかったよな』
『……そうね。つまり机に触れているだけでは机は
『ああ。シンシアの上にシャーロットがいつも持ち歩いている槍を乗せてみてくれ。そうして裏にして置いたアリシアの上に転移させてみてくれるか?』
「ねえ、シャー。あなたの槍を借りるわよ」
「ええ、もちろんですわ」
柄を短くし矛先に装飾されたカバーを付けたその槍は、まるで魔法使いが持つ杖の様に見える。それを机上のシンシアの上に置くパイラ。そしてアリシアをその少し横に裏側にして置いた。
「この状態でさっきと同じ転移魔法を使うわよ」
パイラが転移魔法を起動させると、シンシアと槍が消えアリシアの上に現れた。そして槍が割と大きめの音を出しながら机の上に落ちた。
何だこりゃ! 魔法がモノを判断してるのか? 机は装備品じゃなく槍は装備品であると……。そして触れている装備品は一緒に転移させ、装備品じゃないモノは触れていようとも転移させない。そういや、モモの所にパイラが転移したときは、直接触れていないモノも一緒に転移させてたな。ポーチとかその中身とか。その辺の魔法の仕組みは定義されているのだろうか……。
『槍は装備品だものね、エコーの思ったとおりに動作したんじゃない?』
『パイラ、お前はそれで納得してるかも知れんが、俺は納得が行かないんだがな』
『そうなの? エコーは机を冒険に持っていくの?』
『……。そうじゃないが、今は良い。今日はこの辺にしておくか。あ、そうそうもう一つだけ。転移距離を10センチじゃなくマイナス10センチにしてみてくれ』
『そう言えば、さっきのアッシュの本にマイナスを意味する記号が有ったわね』
アッシュの一覧表を説明したときにマイナスの概念を俺から説明を受けたパイラは、それをちゃんと理解している様だ。
『ああ、そしてアリシアを今度は表を上にしてシンシアを転移させてみるんだ』
パイラが
これで背後じゃなく、正面に転移させることができる。
『じゃあ、今日は戻るぞ。シンシアとダイアナを貰っても良いか?』
『ええ』
『じゃあ、俺が合図したらシンシアとダイアナを俺の10センチ前に転移させてくれ。いや、30センチ前が良いな。体幹からの距離かも知れないからあまり近すぎると失敗するかも知れない。そのための
『ええ』
『いずれ、シンシアとダイアナの聖刻を利用した魔法を発動してもらうと思うが、二つの聖刻は覚えてるか?』
『ええ、覚えているけど、念のためすぐ後で記録しておくわ』
『じゃあ、戻るぞ』
パイラの感覚共有を切ってオウムの体に感覚を戻すと、辺りに金属を叩く音が辺りで響いていた。
オウムの体はラビィに優しく抱えられていたが、頭頂部の冠羽が引っ張られる感じがする。俺はとっさに上を見ると、口を尖らせているラビィと目が合った。
「ぅあ! も、戻ってきたんだ、親父」
「何やってんだ? お前」
「べ、別に何もしてないぞ」
「いや、俺の冠羽をひっぱってたろ?」
「そ、そんなことは無いさ」
しかしラビィの両手は俺を抱きしめている。だとしたらどうやって冠羽を引っ張ってたんだ?
「……。まさかお前、口で冠羽を引っ張ってたんじゃないだろうな?」
「べ、べつに変な事じゃないから良いだろ?」
「いや、十分に変だ。自分で言うのも何だが、俺の冠羽は清潔って訳じゃないから口に含まない方が良いと思うぞ?」
「可愛い親父が汚い訳ないじゃないか!」
少し不貞腐れる様に言うラビィ。
「そろそろ俺を解放してくれ。それから俺がパイラと話している間、体を預かってくれてありがとな」
「次もボクにその身を預けてくれるんだろ?」
抱擁から開放された俺は、ラビィの肩に飛び移った。辺りを見ると鍛冶屋の弟子のミラナイとシャルが力を合わせて赤くなった鉄を打っていた。
「俺を口に含まないって約束できるならな」
「も、もちろんだよ」
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