第83話 ラビィに護符を渡した
「で、シャルの腕は、怪我をした鍛冶屋の親方とやらの
シャルがヤットコで掴んでいる赤く熱した鉄を鉄床から持ち上げ、側に置いてある液体の中に沈めた。鍛冶や見習いのミラナイはその様子をじっと見ている。
「問題なく腕を認めてもらった様だよ。今は溜まっていた注文の作業をやってのさ」
ラビィは鍛冶屋の作業場の前の広場で腰に手を当てて立っていた。
「そうか」
俺はラビィの肩に止まっている。
「シャルの見積もりでは明日中には終わるらしいよ。その後にモモの姉貴の折れた剣を修理するんだってさ」
「お前がモモと対戦して、折ったやつだろ?」
「ボクはそれを覚えちゃいないけどね。いやぁ、姉貴の剣を折る程の爆破能力を発動させて、良くボクは生きてたな」
「影も形も無くなっていたお前のトンファーのおかげじゃないのか? トンファーを犠牲にして爆圧を防いでも、両腕は使い物にならない程に負傷していたぞ」
もしかしたらオーガー化の途中でも、ある程度は身体が強化されるのかも知れない。だから、ラビィの腕は跡形もなく吹き飛ぶことは無かったのだと……。
「それも覚えていないや……」
「お前の装備はどうなんだ?」
「ああ、姉貴の剣の修理が終わったら、ボクのマチェットガンのカバーやブーツを作ってくれるんだ。あ、それと弾丸も色々作ってくれるんだってさ」
「射撃の練習はちゃんとしておけよ?」
「勿論だとも」
『エコー、シンシアとダイアナの転送の準備ができたわよ。今回はシャーに発動してもらうわ』
魔法学園に居るパイラから念話で連絡が来た。
『ああ、こっちから合図するまでもう少し待ってくれ』
シンシアとダイアナと名付けた二つの
「ラビィ、そこから動かずにちょっと待っててくれ。ちょっとした魔法をパイラに掛けてもらうからな」
「分かった。パイラ姉さんが魔法を使いこなせてるなんてのも凄いよと思うよ……」
俺は感心しているラビィの肩から飛び、地面に降り立った。正面に障害物などは一切ない。
『パイラ、まずはシンシアだけを転送させてくれ。ダイアナは合図するまで待機だ』
『分かったわ。じゃあ、五カウント後に転移させるわよ』
『ああ』
『五、四、三、二、一、転送』
突然目の前にコイン状の
「うわ、何か現れたぞ?」
ラビィが言った。
『成功だ。そっちに何か異常は有るか?』
『無いわ』
『分かった。シンシアの転送魔法はもう使わないと思うからシャーロットの
『ええ問題ないわ。それじゃあね』
『ああ、じゃあな』
「それは何だい?」
「ああ、もう動いていいぞ。これは
「え! ボクにくれるのかい!?」
ラビィはしゃがみ込んで
「ああ。両腕を広げた人の絵がラビィの体と同じ正面に向く様にして、ズレない様に身に着けてほしいんだが……」
俺はラビィの肩に飛び移りながら言った。
「
「まあな」
「どんな魔法なんだろう?」
「いずれ役に立つと思うが、今は具体的に何に使うかは考えていない」
「なんだそれ。まぁ、親父が何か考えてくれるなら良いか。ところで、身につける部位はどこでも良いのかい?」
「体の正面が良いと思う」
「ベルトのバックル……、はちょっと違うかな。ああ、そうだネックレスじゃなくチョーカーみたいに首に固定して止めておくのはどうだい?」
「ああ、それは任せる。シャルと相談して作ってもらってくれ」
「分かったよ。ついでに親父のその巻き貝の
「そうだな。ぶらぶらするより固定してもらったほうが飛びやすいな……」
「だろ? そうだ! シャルに頼んでボクのチョーカーと同じデザインにしてもらおう!」
「却下」
「分かったよ。親父が居ない間にちゃんとシャルに言っておくから心配はしなくて良いよ」
「……」
そしてその後、鍛冶場のシャルの工作の様子を感心して見ていると、あっと言う間に日が暮れた。
「今日の作業はこれで終わりなので、そろそろ宿に帰るのです」
工具類を片付けたシャルが言った。
「じゃあボクはこれから別の宿に行くよ」
火事場に居た俺たち三人が引き上げようとした矢先、ラビィが言った。
「俺たちと同じ宿に泊まってるだろ?」
「シャルに考えがあるんだってさ。本当はボクも一緒の宿に泊まりたいんだけど我慢するさ。代わりと言っちゃあなんだけど巻き貝の
「いや、どう言う事だ? シャル」
「ちょっと考えがあるのです。まぁ黙って見ててください」
ふむ、シャルの事だから変な事にはならないだろうが、不安ではある。
いや、本当にそうか? シャルは信頼できる……、よな?
「ラビィと一緒の部屋で泊まれないのが不満なのですか?」
ラビィの肩に止まっている俺に、上目遣いで見上げてくるシャル。
「そんな訳ある筈ないだろ!」
「親父ぃ、そんなに強く否定しなくても良いだろ」
ラビィが不貞腐れた様子で言った。
「ああ、すまん」
「宿は別ですけど、此処では合流しますよ」
シャルが踵を返し、宿に向かって歩き始めながら言った。
「そうなのか?」
俺は、ラビィの耳元で尋ねた
「ああ。ボクは鍛冶屋に足繁く通う客みたいに振る舞えば良いんだってさ」
「そうか。おっと、じゃあな」
俺はラビィの肩から離れ、シャルに向かって飛んだ。後ろではラビィが手を振って俺達を送り出していた。
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