第79話 二人と一羽で鍛冶屋に行った

  *  *  *


 シャルとラビィが横に並んでセカルドの街の外れを歩いていた。俺はラビィの肩に止まっている。ラビィに、どうしても自分の肩に止まって欲しいと何度も何度もお願いされたからだ。


 昨日、屍食鬼グールに襲われた農民の親子を埋葬した後、おおよそ半日後の夕方にセカルドの街に着いた。俺たちはまずセカルドの街の警備隊の基地に向かったのだ。その建物は街門からそんなに離れてはおらず、メインストリートに面していた。そこでモモはトリマー副官からの紹介状を渡し、街道で屍食鬼グールに襲われたことを報告した。紹介状は、セカルドに向かう際アエズから貰ったのだ。


 暫くセカルドに駐留するので、リーズナブルな宿を探し連泊するための部屋を押さえた。モモとシャルが一緒の部屋、そして俺とファングとラビィが同じ部屋に割り当てられた。ファングだけがシャルと一緒の部屋にするように不満を訴えていたが無駄だった。


「なぁラビィ。お前はクエスト斡旋所の登録記章って持ってるのか?」

「もちろんさ」

「どこの街の登録証なんだ?」

「ナタレの街だよ。なぜだい?」


 モモと同じナタレで発行したんだな。


「いや、それを貰うためにお前はどうやって信用を得たんだろうと思ってな。ファングは討伐クエストを何度か請けて、シャルは修理や工作のクエストを請けてデビュトの街で信用を積んでたんだがな」

「ああ、そう言うことか。ボクはアーケロンと組んで討伐クエストを何度も請けたよ」

「お前は戦闘が得意じゃないだろ?」

「もちろん、全部アーケロンが対処してくれたんだ。ボクは戦闘はからっきし駄目だからな」


 アーケロン任せの討伐か……。


「まぁ、個人でクエストを請けなきゃならない訳でもないからなぁ。派遣隊パーティ内の個人にはそれぞれ役割もあるし」

「そうさ。ボクは偵察や索敵が担当なのさ。それに人探しや猫探しは一人でもクエストを請けてたぞ?」


 ラビィは戦闘力が低いが、目と耳が物凄く良いらしいからな。


 一方で戦闘力の高いモモとファングは、今、別行動で魔物討伐のクエストを請けるべくこの街のクエスト斡旋所に行っている。宿に居続けるためには働かなければならないのだ。


「お前は今後、どうやって食い扶持を稼ぐつもりだ?」

「う~ん。この街で猫探しや人探しでも請けるさ」

「大丈夫なのか?」

「あ、ボクの事を心配してくれるんだ」

「おい! しれっと頬擦りしてくるんじゃない」

「ちぇ。でも大丈夫だよ。パイラ姉さんやモモの姉貴と違ってボクはちゃんと他人とコミュニケーションが取れるからね」


 まぁ確かに。復讐を誓って身を隠していたパイラや、あのモモに比べたら、な。


「じゃあ俺のために情報収集しちゃくれないか?」

「何だい?」

「俺は人間の体になりたいんだ――」

「却下」

「おい!」

「何でだよ! 親父はオウムだから可愛いんじゃないか。可愛いを自ら捨てるなんてどうかしているぞ?」

「おいラビィ、よく聞け? 俺がパイラに協力してモモの面倒を見ているのは人間になるためだ。そしてさらにパイラからの条件が、追加された。それがお前の面倒をみることだ。つまり――」


 あ、ラビィが俺に協力しようがしまいが、パイラの条件には何の影響もないのか。


「つまり、何だい?」

「つ、つまりお前がお前の能力を上手く使える様になったら嬉しいだろ? 俺はそれを手伝ってやるから、俺の為に人間になれるための情報を集めて欲しいってことだ」

「親父が求めている情報を集められたら、ギュってしても良いのかい?」


 むぅ、背に腹は変えられんか……


「有益な情報だったらな」

「よし! 契約成立だ! ボクは親父のために世界中を駆け回るよ」

「あ、ああ」

「そのための第一歩は、ここですよ」


 シャルが一軒の鍛冶屋を指さして言った。石造りの先細りした円柱形の煙突があり、その周りに木の板でいた屋根が囲んでいる。その屋根は柱で支えられており壁はなかった。煙突の下には炉がありその周囲には鉄床やヤットコなどの様々な金属製の工具が並んでいた。


「誰も居ない様だが?」

「こんにちわ~。何方か居ませんか~?」


 ラビィが大声を上げる。


 すると煙突の建物から少し離れた小屋から少年が出てきて、俺たちの所に駆け寄ってくる。


「どちら様ですか?」


 丈夫そうな布で作られた作業着を着ているその少年が言った。


「やぁ、こんにちわ。ボクはラビィ。そしてこっちはシャルだ」

「あ、こんにちわ。ミラナイって言います。制作のご注文ですか? でも、親方が怪我をして暫くは注文を請けられないのです」

「ああ、もちろん知っているさ。だからここに来たのさ」


 膝に手を当てミラナイに目線を合わせる様に、少ししゃがんで話すラビィ。


 ん? だからここに来たって、どういう事だ。


「どういう事ですか?」


 ミラナイも状況がよく分からないらしい。


「困っている鍛冶屋が居るって、ちょっと小耳に挟んでね。手を貸そうかと思ってるんだ。どうだろう?」

「手を貸す……?」

「ああ、勿論タダじゃないから心配は要らないよ。そうだなぁ、見返りに、ここの設備をちょっと借りたいんだ。親方さんの怪我は予想できなかっただろうから、注文を請けてるけどまだ手を付けてない作業があるんじゃないかい? そしてその作業を代行する合間にボク達は設備を使わせてもらうって寸法さ。君達に損はないだろ?」

「でも……」

「ああ、ボク達が信用できないんだろ? 分かるとも。放置している注文をちょっと教えてくれるかい? その一つの作業をしてみようじゃないか。そしてその作業結果を親方さんの所に持っていくんだ。それでボクらの提案を受けるかどうかを判断するって言うのはどうだい?」


 流暢に話すラビィ。


「……分かりました」


 そう言うとミラナイはさっき出てきた小屋に向かって駆けて行った。


「という事で良いかな? シャル」


 ラビィがシャルに尋ねる。


「勿論、問題無いのですよ。さて、アタシはここと宿屋を往復する生活が暫く続きそうですね」

「ボクもシャルを手伝うよ?」

「ラビィ用の装備も作るので、お願いするのです」

「なぁラビィ、いつの間にここの親方の怪我の情報を知ったんだ?」

「え? 昨晩の夕食の時だよ? 外を歩いていた人が話してたんだ。ああ、シャルには言ってたんだけど、親父には言ってなかったな?」

「そうか……」


 すごい地獄耳だな……。



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