第77話 ラビィに飛んでもらう事にした

  *  *  *


「さてと、ぼちぼち出発するわよ」


 朝の訓練と朝食を済ませたモモが立ち上がりながら言った。


「今日中にはセカルドの街に着く予定なのです」


 お気に入りの小道具を丁寧に仕舞う手を止めずにシャルが言った。ファングは皆の寝具や焚き火の周りに置いていた道具を荷車に積んでいる。少し離れたところでラビィがマチェットガンに木の棒を詰めて試射している。マチェットガンとは、パイラからもらった変わった形の短刀に付けた名前だ。接近戦の腕に関してラビィは残念なレベルなので、マチェットとして使うことはほぼ無いだろう。


 離れて見える街道では、農民らしき男が妻と娘を乗せた荷車を引きセカルド方面に向かっている様子が見えた。運んでいる穀物のおこぼれを狙っているのだろうか、数羽の鳩がその周囲を飛び回っていた。


「ラビィ! そろそろ行くわよ!」


 モモにそう言われたラビィはマチェットガンを右腿に固定された鞘に戻しこちらに向かってきた。シャル製のその鞘はまるでガンホルスターの様だった。


 シャルが荷台に乗り込むと、それを確認したファングがその荷車を引き始めた。モモはファングに先行して歩き出している。


「聞こえるかい親父」


 俺の首から下がっている魔法装備アーティファクトの巻き貝からラビィの声が聞こえる。


「シェルオープン。ああ、聞こえる。こっちの声は聞こえるか?」


 ラビィが持っている巻き貝にこちらの声を飛ばすための合言葉を言ってから、ラビィに話しかけた。


「ああ、聞こえるぞ。こうやって使うんだって練習さ。すぐに追いつくよ。シェルクローズ」

「じゃあ切るぞ。シェルクローズ」


 俺は合言葉を言って遠隔通信を終わらせた。


「で、射撃の感覚は掴めたか?」


 すぐに荷車に追いついたラビィに言った。


「狙ったところに弾を飛ばすには、マチェットガンの切っ先のブレを抑えたいんだけど左手で支えるには刃が邪魔なんだよ」

「右手は柄を握って、刃の中腹を左手で下支えするって事か?」

「ああ、そうさ」

「ラビィはマチェットの刃で攻撃はしないんだろ? まぁ刃物の扱いは上手くない様だしな」


 俺は剣聖の能力でマチェットを刃物武器として戦うラビィを鑑定してみたが、かなり残念な結果だったのだ。


「マチェットガンの刃を覆ったまま弾を撃てる鞘を作るべきですかね?」


 シャルが荷車の上に工具を広げながら言った。荷車が街道に出る拍子に車体が揺れ、道具が一瞬宙に浮いたが、それらを素早い動きで抑えるシャル。


「それを作ってくれるなら、ありがたい」


 ラビィがシャルの案に喜んでいる。


「だったらその鞘に照準も付けてもらったらどうだ?」

「照準とはどんな物ですか?」


 シャルが尋ねてきた。


「狙いを定める目印さ。マチェットガンの筒の手前と先に付けて、弾が飛んでいく向きを合わせるんだ。目標と二つの目印を重ね合わせる様にして狙うんだ。そうすると筒の延長線上に飛んでいく弾は、目標に当たるって訳だ」

「ほう! なるほどなのです」


 関心した様子のシャル。


「でしたら革ではなく金属でがっちり止められる様にした方がいいのです。僅かな狙いのズレで弾が飛んでいく方向が変わるのですよね?」


 よく分かってるじゃないか。さすがシャルだ。


「そうだな」

「そうすると制作は街に着いてからなのです」

「ああ頼んだ」

「でもタダでは無いのですよ?」

「お金が必要なんだろ?」


 ラビィが応じる。


「お金でも良いのですけど、ラビィにもお願いがあるのです。モモにも頼んだことなのですけどね」

「なんだい?」

「変わった物や道具、古代の遺跡、そんなものをより多くアタシに見せて欲しいのですよ。たとえばそのマチェットガン。それを見せてもらった時には興奮しました」

魔法装備アーティファクトもかい?」

「魔法には興味が無いのです。技工を凝らしたモノと言った方が良いですね。そのものでも良いですし、秘密の製法でも良いです」

「ああ、もちろんだよ。モモの姉貴より多くの物を用意できる様にがんばるさ」

「交渉成立なのです。あ、弾の材料代は別ですよ? アタシが試してみたい弾はサービスですけど」


 ラビィが荷台に手を伸ばし、シャルを握手を交わした。


「ところでな、ラビィ」

「何だい? 親父」

「お前の能力なんだが、どの様に活用してたんだ?」

「ん? トンファーを使った格闘のときに爆破してたぐらいだぞ? トンファーを盾にして相手側に爆発させるんだ。まぁ、木製のトンファーが壊れない程度の威力しか使えないんだけどね」

「ふむ。ちょっと実験をしてみるか。なぁシャル、椀を一つ持ってきてくれるか?」

「何か面白そうな事を思いついたのですね?」


 シャルは素早く荷台の中を移動し、木製の椀を持ってきて元の位置に戻った。


「それを伏せて床に置いておいてくれ」


 その通りに椀を置くシャル。


「ラビィ、そこからでいいので小さな爆破物質を椀の中に作ってみてくれ」

「分かった。爆発させて良いんだな?」

「ああ」


 するとポンッと鳴った椀が少し持ち上がった。


「やったぞ?」

「もう一度だ。もう少しだけ強くできるか?」


 すると、ポンッと鳴った椀がさっきより少し高く跳んだ。


「じゃあ次だ。シャル、その椀を手で押さえておいてくれ。ラビィは同じ強さの爆破物質を作ってみてくれるか?」

「シャル、準備は良いかい? やるぞ?」


 ポンッと鳴った椀がシャルが押さえているにもかかわらずほんの少しだけ持ち上がった。


「シャル、ラビィは肌に近い距離であれば瞬時に爆発する威力が高い爆発物質を作れるだろ? それに同時に二つぐらいは作ることができ、更に爆破さえしてしまえば次の爆破物質をすぐに作り出せる」

「なるほど! 一気に高い威力だと衝撃が大きすぎるのですけど、中程度の威力を連続して爆発させるのですね!?」


 俺が何をしようとしているのかが少し理解できた様子のシャル。


「手軽にその機能を利用するんだったら、やっぱりブーツの底だと思うんだがどうだ?」

「またまた面白い試みなのです。ブーツの底を椀型に凹んだ金属で作るのですね。普段歩くのに邪魔にならない程度でかつ度重なる爆発に負けない頑丈さも必要なのです」

「ああ、できるか?」

「その言い方、アタシに対する挑戦なのですか? 勿論できるまで止めないのです」

「なぁ、ボクにも分かる様に説明してくれよ」


 一人会話に取り残されているラビィが言った。


「つまり、お前にも飛んでもらうのさ」

「な、なんだって!?」

「お前、俺と一緒に入れるなら何でも言うことを聞くって言ってただろ? そのとき俺が命令したら空も飛ぶって言ったじゃないか」

「あ、あれは言葉の綾――。ちょっと待て、街道の先で悲鳴が聞こえた! 誰かが襲われているぞ!」


 左右に所々に有る森と上下左右に緩やかにうねっているせいで先が見えない街道を指さして言った。


「シャルとラビィはファングの側にいろ! モモ!」

「分かった!」


 モモがすぐに駆けだし、俺もすぐに上空に舞った。


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