第71話 謎の金属を知った
「さてと、これからどうするんだ?」
食事を堪能した俺はモモに問うた。
「もちろん、セカルドの街を目指すわよ。あんたこそ、姉さんはどうするのよ? まぁ、私は暫くあんたに稽古を付けてもらえるから姉さんにはずっと一緒に同行してもらっても良いんだけど」
それは困る。時々はもちろん誰かの体を借りても良いが、いつまでも誰かの体を借りるって訳には行かない。俺は俺の人間の体を手に入れたいんだ。だから、パイラには俺を人間する手段を探ってもらわうために学園に戻ってもらう必要がある。
「魔力が戻ったら意識も戻るさ。そうしたら学園に帰ってもらう。もちろん帰る方法はあるから心配するな」
シャーロットの近くに転送すれば良いからな。パイラとシャーロットなら念話もできるし。
「別に心配はしてないわ。あんたがちゃんと考えてるんでしょ? って、姉さんに向かって話してると調子が狂うわね」
「我慢しろよ」
「それにその髪、姉さんが大事にしていた長い髪が短くなってしまってるわ。一体どうしたのよ」
「何かを吹っ切っるみたいに自分で切ってしまったぞ。詳しくは本人に聞いてみたらどうだ。それよりお前、ラビィとの戦いで剣を折ってしまったよな」
「ええ、シャルが修理できるらしいけど……」
「今は無理なのです。鍛冶屋の炉や設備を借りなければ無理なのです」
シャルがモモの言葉を引き継いで言った。
「それよりもですよ……」
シャルがじっとこっちを見ながら言った。いや、視線は俺が憑依しているパイラの顔じゃなく下の方……。右腰のあたりだ。
あ!
「これか?」
俺はパイラが遺跡で手に入れた形の変わった短刀を持ち上げた。
「そうです!」
シャルが目を輝かせて言った。
「これはパイラが遺跡で手に入れたものだ。変な形をしているだろ?」
俺はくるりと短刀を回し、柄をシャルに向けて差し出した。それを受け取るシャル。
シャルはポーチから小さいハンマーを取り出し、その短刀の各所を叩いていった。その度に低い金属音が響く。その後、人差し指で短刀を撫で回し、匂いを嗅ぎ、そして舐めた。
「お、おい、シャル?」
「……」
周囲のことには気を向けず、更にポーチから棒状のヤスリの様なものを取り出したシャル。そして短刀の切っ先に近い峰にヤスリをあて少し擦った。ヤスリと短刀を交互に見、ヤスリの匂いを嗅ぎ、短刀のヤスリで擦った場所を舐める。
「「シャル?」」
モモと俺が発した声が偶然重なる。
シャルは更に、その短刀の峰に備えられている筒状の穴を覗き込む。そして、中央に穴が空いた小さな銀色の円盤をポーチから取り出し、自分の右目の前にあてた。再びその穴から筒状の穴を覗き込んだ。焚き火の光を反射させて穴を覗いているのだろう。
小さな銀色の円盤をポーチに戻したシャルは短刀をその場に置き、ものすごい勢いで荷車まで走って行き何かを物色し始めた。すぐに後を追うファング。しかしシャルはそのファングを振り切って、行きと同じぐらいの速さで戻ってきた。
「……」
発する言葉を失っている俺とモモ。
シャルは座って短刀を手に取り、荷車から持ってきた長い棒で短刀の筒穴をほじった。そして短刀の切っ先を地面に向け、峰をトントンと叩く。筒穴からは何も出てこなかった。
その後、焚き火から小さな赤々と燃える炭をヤットコで取り出して短刀の筒穴に滑り込ませ、筒穴を覗き込んだ。再度長い棒を筒に突っ込んだ後すぐに抜き、峰にその棒を当てた。筒の穴の深さを調べている様だ。
そして短刀を顔の高さまで持ち上げると、柄と峰の境界の
「おい、シャル。大丈夫か?」
「もちろんなのです」
目を瞑ったまま応えるシャル。
「何をしているんだ?」
「調べているのですよ」
「パイラの能力で確認したんだが、それには魔法の様なものは掛かっていないらしいぞ」
「そうですか」
シャルは目を開け、短刀の切っ先を地面に軽く打ち付けながら、筒の中に入れた炭を取り出した。左手で柄を地面に置き短刀の切っ先を上に向けながら、再度、赤々と勢いの有る別の小さな炭をヤットコで筒に入れた。そして荷車から持ってきた小さな木箱をそっと開け、中からちょうど単三電池ぐらいの大きさのと形状の紙包を取り出す。
「取り出したその小さいのは何だ?」
こっちを見ずにそれを筒に入れ様としているシャル。
「これは――」
と同時に大きな爆音と同時に短刀の切っ先から炎が吹き出し、シャルの言葉をかき消す。
「――なのです」
何かよく聞こえなかったが火薬かなんかなんだろう。
「変な形の短刀だろ? まるで刀と銃を引っ付けた様だ」
「物凄く小さくした大砲と刀を合わせた様だと思いましたが、銃とは何なのですか?」
こっちの世界には銃は無いのか? いや、シャルが知らないだけかもしれない。
モモにも疑問の視線を向けてみたが、肩を竦めているので知らない様だ。
「シャルの言う通り、小さな大砲と思ってくれ」
「ただこれ、大砲――、銃だとしても点火口が無いのです。ですからこの筒の用途はよく分からないのですよ。そんな事よりこれが何か分かってますか?」
シャルは短刀を俺に返しながら言った。
「魔法の類は掛かっていない、変わった形の短刀だろ?」
「その材料ですよ」
「鉄だろ?」
「違うのです。オリュポナイトなのです」
「オリュ……、何だそれは?」
「ごく一部の
「それが古代の遺跡に奉納されていた、と」
「不思議ですね。ぜひその遺跡に行ってみたいのです。それ以外は特に興味は無いのです」
本当に興味を無くしたのか、シャルは短刀を俺に返し、荷馬車から持ってきた小物を仕舞う作業に入った。
「ちょっとそれを貸して」
モモが手を伸ばしてきたので、柄を向けて短刀を渡した。
モモはそれを握り、そして握った手を広げる。当たり前の様にその短刀は地面に落ちた。それを見て眉をひそめるモモ。
「こんなの要らない」
モモが言った。
いや、そもそもこれはパイラの物だし。
「さてはお前、鉄じゃないからそれを操れないんだろ」
「ふん!」
鼻息荒く、そう応えたモモだった。
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