第72話 ラビィとパイラが目覚めた

  *  *  *


 モモとラビィが死闘を繰り広げた二日後、モモ一行はセカルドの街を目指して街道を進んでいる。ファングは人の姿で荷車を引いており、その隣でシャルが歩いている。パイラの体に憑依した俺とモモは荷車の直後を歩いていた。荷車の荷台では気を失ったままのラビィが寝かされており、その頭近くの荷台の隅の方には白いオウム、つまり俺の本体が横たわっていた。


「オーガー化を阻止するために角を折った訳だが、ラビィはどのくらい経ったら気が付くんだ?」


 俺はモモに尋ねた。


「それって、昔私がオーガー化を防がれたとき、どのぐらい気を失ってたかって聞いてるの?」

「ああ」

「気を失ってたから、知ってる訳ないじゃない」

「そりゃそうか」

「それより姉さんはまだ眠ってるの?」

「ああ」

「あとどのくらい眠ってるのよ?」

「魔力が回復するまでだな」

「それはいつなのよ?」

「俺は魔法使いじゃないからな、分からん」

「役に立たないのね」

「互いにな」


 そんな話をしていると、荷台のラビィがもぞもぞと動き始めた。


「お! 気が付いたか?」

「おー、やだやだ。面倒だから私はシャルのところに行ってるわ。後はよろしく!」


 俺の肩を軽く叩いてそう言うと、モモはシャルに駆け寄り、二人してファングの十メートルぐらい先に行ってしまった。


「う……、ん」


 ラビィが意識を取り戻そうとしている。俺が荷車の横に移動してその様子を見ていると、ラビィの目が開き暫く焦点が定まらなかった様だが俺の、いやパイラの顔に気づいた。


「パイラ姉さん?」


 ラビィは体を起こして、進行方向に背を向け胡座あぐらをかいた姿勢になると、周囲をキョロキョロと見渡した。


「あれ? ……ボクは何をやって……」


 自分の置かれている状況を確かめようとしているが、まだ混乱しているらしい。


「よぉ、ラビィ、起きたか?」


 俺がそう言うと、ラビィはこちらに目を向け不思議そうな表情を浮かべて、


「ここは何処で、なんで姉さんがここにいるんだい?」


 と言った。


 今ここで俺がパイラじゃないって説明しても混乱するだけか……。


「なぁラビィ、気を失う前のことを覚えていないのか?」

「何をだい?」

「モモと喧嘩してただろ?」

「姉貴と?」


 何かを思い出そうとしているラビィ。


「そうだっけ?」


 おい! あれだけの騒動を起こしたくせに覚えていないのか!?


「ああ。まぁ、取り敢えずそこに有る水筒から水でも飲んだらどうだ?」

「そう言われれば、物凄く喉が渇いている。ありがとう、姉さん」


 そう言うとラビィは荷台に幾つか並んでいる水筒の内の一つを取り上げ、水を飲み始めた。そして水筒一本分の水を飲み干してしまう。


「なんだか生き返ったようだよ」


 そう言うと、現在の状況を確認する様にゆっくりと周囲を確認し始めるラビィ。


 この二日は飲まず食わずで眠ってたからな。それにオーガーになってしまっていたら殺されていただろう。生き返ったと言うより、生き延びたという事だ。


「あっ! もしかしてあれはモモの姉貴かい?」


 ラビィは体を捻って、前方を歩くモモの後ろ姿を見て指さしながら言った。


「そうだ」

「へぇ。じゃあお袋とアーケロンは何処に居るんだい?」


 ん? バーバラとは一緒に旅をしてなかっただろうに。記憶が混濁してるのか?


「バーバラは何処に居るか知らん。アーケロンはお前を置いて修行の旅に出たぞ?」

「まぁアーケロンは修行が好きだからね」


 アーケロンが離れていった事に対して驚く様子が無いラビィ。


「そうそう、アーケロンと言えばこれを残して行ったぞ」


 シャルがアーケロンから受け取っていた巻き貝をアーケロンに渡した。シャルが調べたがその魔法装備アーティファクトの効果が分からなかったので、取り敢えずパイラに憑依している俺が預かっていたのだ。


「え? 本当に? 本当にアーケロンは行ってしまったんだ」


 その貝殻を受け取ると、今度は驚いた様子でラビィは言った。


「どうして……」

「なぁ、ラビィ、その貝は何だ?」

「ん? あ、ああ。遠くにいても会話ができる魔法装備アーティファクトさ。アーケロンがそれを手放したって事はボクと一緒に行動する気が無くなったってことなんだ……」


 急に落ち込むように俯き気味になるラビィ。


「みんなボクから離れて――。 あ! エコーだ!!」


 ラビィは荷台の隅に横たわっている俺のオウムの体に気づくと、急に明るく言った。


 切り替え早いな!


「……、ってあれ? どうしてボクはこの子の名前を知っているんだっけ?」


 記憶もまだ混乱している様だ。角を折られた影響か?


「でもでも、かっわいいな~」


 四つん這いになって寝ているオウムに近づくラビィ。


「おーい。あれ? 動かないぞ。寝ているのかな?」


 オウムの俺の体をそっと突っつくラビィ。


「今は寝てるからな。暫くは起きないぞ」


 俺がパイラの体を動かしている間はな。


 ラビィはオウムの体を胸に抱え、愛おしそうに撫でている。


「姉さん、この子……。欲しいなぁ。誰が飼っているんだい?」

「それはパイラの使い魔だ」

「姉さんの!? だったら――」

「駄目だ」

「え~っ!! 何も言っていないだろ」

「いや、想像がつく」

「だったら――」

「駄目だ。あら? ここは何処かしら?」


 パイラの口から俺が発していない言葉が紡ぎ出された。つまり、パイラが目覚めたのだ。


 今かよ!









◇ ◇ ◇

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