第68話 三姉妹弟子が集まった

『パイラ! モモが危ない。力を貸してくれ!』


 俺は咄嗟にパイラに念話で言った。


『もちろんよ、どうしたら良いの?』

『俺の後ろにお前が転送する魔法を作ってくれ。そして俺の合図と同時に発動させてくれ』

『そんなに遠くまで跳んだら――』

『すまん! それしか手がない! 後のことは俺がなんとかするから、頼む!』


 俺は一瞬だけパイラの体を乗っ取って机の上の短剣を右手に取った。


『これを持っておいてくれ』


 そして、飛んでいる最中にコントロールを失い自由落下していたオウムの体を立て直し、俺は再びモモの周囲を飛んだ。


「モモ! お前はあいつとの距離を取るんだ」

「でもラビィが……」

「俺に任せろ」

「エコーに何ができるのよ!」

「策がある! 今は俺に任せてくれ!」

「ラビィのオーガー化を止められるの?」

「ああ」

「……お願い」


 弱々しくそう応えると、ラビィから離れ始めるモモ。その足取りは危うい。


 モモに近づこうとするラビィ。両腕のダメージは大きいが両脚は健在だ。


 モモの近くを飛ぶ俺をちらりと見たラビィだが、すぐにモモに目を移した。


『準備できたわよ。いつでも発動できるわ』


 すぐにパイラからの連絡が来た。


『無理を言ってすまん。短刀は持ってるよな?』

『ええ』


 ラビィの歩みが早まる。その額の角が強く発光し、個体化がほぼ終わろうとしていた。


 あの発光が消えてしまう前に、角を折る! 行くぞ!


 俺はラビィに向かって、視界に入らないように高さを稼ぎながら飛んだ。そしてラビィの未来予想位置の直前に来るように急降下する。


 ラビィにぶつかる直前、俺は体を起こすように姿勢を変えた――


『パイラ、今だ!』


 そう言った直後、俺はパイラの体に憑依した。


 一瞬だけ空間認知が混乱したが、目の前でラビィの体に白いオウムがぶち当たっている様子が見える。転移してきたパイラの体は地面から僅かに浮いた位置に出現していた。


 パイラの足が地面に接触すると同時に、ラビィとすれ違うように右前方に踏み出し短刀を切り上げた。


 ギン!


 ラビィの額から角が回転しながら宙に舞う。


 ぼとり。


 白いオオムが地面に落ちる。


「ああああぁぁぁぁぁ」


 僅かな間を開けて、ラビィの怒りとも悲しとも取れる嗚咽が響き渡った。


 そして両膝を付いたラビィは、ゆっくりとその場に崩れ仰向けになって倒れた。火傷がひどい両腕を広げた状態でまったく動く様子がない。


 気を失っているだけだよな? 死んでないよな?


 ラビィに近づくと、胸が僅かに上下していた。ひとまずは安心だ。


 その近くの地面に横たわっている白いオウムの様子をみた。もちろんその鳥はぐったりとして動かない。


 こっちももちろん、死んでないよな? 怪我はしてないよな?


「どうして、どうして姉さんがここに居るの?」


 振り返ると、そこには驚いた様子のモモが居た。右手で左腕をおさえている。その後方では、シャルがものすごい勢いで駆け寄ってきているのが見えた。


「ああ、俺だ。エコーだよ」

「え?」


 パイラの声色だが、俺口調の言い回しに驚くモモ。


「パイラの体を借りているんだ」

『パイラ? 居るか?』


 パイラに念話で呼びかけてみたが返事がない……。


 どれだけの距離を飛んだか分からないが魔力切れだろう。これは、当分の間は起きないはずだ。


「パイラは今、寝てる」

「寝てる? どういう事?」

「魔力の使いすぎさ。詳しい話は後だ。それよりラビィはどうだ?」

「角を斬ったのよね。多分、大丈夫だと思うわ。……ありがとう、エコー」


 右腕だけでパイラの体に抱きつくモモ。暫くそのままの体勢で、鼻水をすする音がパイラの右耳を通して聞こえてきた。


 モモがパイラから離れると、シャルがその場に到着していた。パイラの体に憑依している俺は、俺本体のオウムの体に近づきそっと持ち上げた。ぐったりと寝ている様だ。外傷は無い様だが……。


 シャルはポーチから羊皮紙を何枚か取り出し、そのうちの一枚をモモの左腕を巻く様にあてた。シャルがブツブツと何か呟くと羊皮紙は緑色に淡く光りだした。


「それはなんだ?」

「治療用の魔法羊皮紙なのです。パイラさんは知らないのですか?」

「シャル、姉さんの体の中身は、無知のエコーなのよ。だからそんな質問をしたの」

「無知って、お前……」


 いつものモモに戻っている様だ。


「そう……、なのですか?」

「ああ俺だ、エコーだ。ところで、俺の本体も診てくれるか? それとラビィも怪我をしている」


 不思議そうにこっちを見てくるシャルに、抱えたオウムを差し出しながら俺は応えた。


「ラビィは私が診るわ」


 ラビィが横たわるそばに跪くと、モモはポーチから羊皮紙を取り出しラビィの両腕を治し始めた。


「ホント、バカなんだから……」


 モモが誰にも聞こえないぐらいの声で呟いた。


 いや、俺はラビィのオーガ化を止めたが、そもそも一体どういった状況なんだ? モモとラビィが殺し合ってたんだぞ……。

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