第67話 モモがラビィと戦った

 パイラとシャーロットの茶会とその後の護符タリスマンの話を終えた俺は、オウムの本体に感覚を戻した。


 そこはもちろんファングが引く荷車の隅っこだったのだが、同乗しているはずのシャルが居ない。そう言えば荷車は動いていない様だ。


 俺は周囲が見える様に、荷物が落ちないようにしている荷車のふちの上に飛び乗った。


 荷車のすぐ横でシャルがクロスボウを構えて居た。シャルのそばにいつもいるファングの姿は見えない。そしてシャルが見ている先にはこちらに背を向けたモモが抜剣して立っていた。その向こうに誰か居る様だがモモの陰で見えない。


「どうした!? 屍食鬼グールか?」

「あ、エコー! モモが喧嘩を吹っかけられているのです」


 喧嘩? 相手は魔物じゃないってことか。


「ファングは?」

「もう一人と闘ってるのです」


 シャルが指さした先には木々が生い茂っていて、その先は見えなかった。その向こうで闘っているのだろう。


 俺は飛んでモモの方に向かった。高度を上げるとモモと対峙する人物が見えてきた。


 要所を革で補強した動きやすそうな服を着ている、白目の領域が多い特徴的な目をした女――、ラビィだ。


 まさか、このラビィがモモの妹弟子か!? ファングが水路を掘っていた時に俺に話しかけてきた女だ。


「……姉貴はいつもそうだ! こうなったら腕ずくで言うことを聞かせるぞ!」


 激高している様子のラビィが両手に変わった形のこん棒を構えた。


 あれは、トンファーか?! 完全な棒状ではなく取手の部分が盾の様に幅広になっている。


 俺がモモに近づくと、それに気づいたラビィが一瞬不思議そうに俺を見た。


「エコー、下がってて。このバカを黙らせるから」


 同じく俺に気づいたモモが言った。


 それを聞いたラビィの怒気が更に増した。


「いつも、いつも! いつも!! ボクの欲しい物を奪いやがって!」


 その瞬間、モモの目の前にビー玉の様なモノが三つ出現した。


 瞬時にラビィとの距離を取るモモ。トンファーの様な武器で上半身をガードするラビィ。


 僅かな間を開けて豪快に爆発したビー玉。


「能力を乱暴に使うのは止めなさい!」


 モモが大声で言った。


「うるさい! ボクに指示するな!」


 ラビィとは離れているモモの周囲に二十個程のビー玉が現れた。


 モモはそのうちの幾つかを斬り、ビー玉の群れから離れる。


「あんたの能力では私には勝てないのよ!」


 モモがそう言った後、二十個程のビー玉が一斉に爆発した。だがその威力はさっきのものよりかなり小さい。


 パイラが言っていた通り、身体から離れると爆発の威力が低くなるんだな。


 モモのその言葉を聞いてこれ以上無いほどの激高するラビィ。


「勝てないだと!! うおぉぉぉ!!」


 ラビィが雄叫びを上げた直後、数え切れないほどのビー玉がモモを囲む。


 モモは咄嗟に納剣し、カタナの柄に右手を置き僅かに身を低くした。


 一呼吸後――


 風切り音が響き渡った後、納刀の金属音がした。風輪斬りだ。


 モモの周囲のすべてのビー玉が斬られ、それぞれの玉がポンっと拍子抜けした音を立てて小さな煙となり消えてしまった。


「止めなさいラビィ!! 全力で能力を使うんじゃないわよ!」


 周囲の煙を払いながらモモが叫ぶ。それに対して不敵に微笑むラビィの額から、濃い紫色の煙の様なものが立ち上っていた。


 あっ! あれはチシャがオーガーになったときと同じやつじゃないか!


「叶わないなら、死なばもろともだ」


 ラビィがぼそりと言った。


 再び数え切れないほどのビー玉がモモを囲む。先程の倍以上の数だ!


 モモが風輪斬りですべてのビー玉を斬ったため、無数の小さな煙に囲まれた。


「モモ! 避けろ!」


 一気にモモとの間を詰めてきたラビィが煙の球の中に飛び込む――


 その直後爆音とともに煙が吹き飛び、モモとラビィがそれぞれ別方向に吹き飛ばされ、地面をごろごろと転がった。


 暫く動かない二人。


「モモ!」


 俺はモモの側に飛び寄った


 ゆっくりと力なく立ち上がるモモ。だらりと垂れ下がった左腕。右手に握った剣は柄以外が無くなっていた。


 ラビィもゆっくりと立ち上がる。だらりと耐れ下がった両腕はひどい火傷を負っており、トンファーは何処にも無かった。


 突然天を仰ぎ、人が発するとは思えないザラザラとした咆哮を上げるラビィ。


「まずい! オーガー化だ」

「あのバカをめてあげなきゃ……」

「お前、動けるのか!?」

「動けなくても止めないと!」


 涙目のモモが片膝を付いた。


 正気を失っているラビィはゆっくりとモモに近づいてくる。その額から立ち上る光の微粒子の量が増しており、根本が強く発光し始めていた。


 これはまずい!


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