第66話 護符の使い方を考えた
シャーロットが自室に帰っても俺はパイラの意識を共有し続けていた。パイラは机に向かって座っており、その机の上には遺跡で手に入れた変わった形の短刀が置かれていた。
まぁ、モモの方に戻っても街道を移動しているだけだしな。
俺のオウムの体は、ファングが引いてシャルが工作をしている荷車の隅っこに寝っ転がっている。
『学園から配布されたその
『私もよ』
パイラは首紐にぶら下がっているコイン状の
『商売神の神聖魔法でこいつの位置が分かるらしいな』
『ええ、位置を探索する度に、お布施として対価を支払うらしいわ』
『うまい商売だな』
『この
『俺はそこには興味はないがな。それよりも裏に書かれている文字は、シャーロットが持っている
『ええ』
『それ、
『……、イエスね』
パイラが能力で確認した様だ。
『
『ええ、それは確認するまでもなくそうね。
『
『ちょっと待ってね』
パイラがそう言うと暫く沈黙が続いた。
『神聖魔法で作り出す事が多いわ。
『……、今シャーロットに聞いただろ?』
『ええ、私より社会の常識を知っているみたいだから』
まぁ、パイラもモモも社会とは離れて暮らしてきた魔女だからな。
『この
『……、ノーね』
『つまり、この
『……、イエスね』
パイラの様にシャーロットや俺の聖刻を知っていればそれを魔法で利用できるが、他人の聖刻を知らない場合はその位置情報などのパラメータを魔法で使うことはできない。だから
表面に両腕を広げた人の絵が描かれているのが意味深だな……。待てよ?
『なぁ、パイラ。以前覚えた攻撃魔法があるだろ?』
『ええ、シャーと二人で「ニードルバレット」って呼ぶ事にしたわ』
『そのニードルバレットの射出方向は右腕を差し出した方向だよな?』
『ええ。正確には右腕の肘と手首を結んだ延長線上の様よ』
俺の知らないうちに試したのか? まぁ良い。ただ腕の可動域が限られて扱いづらい気もするが、今はそれが論点じゃない。
『1メートル転移する魔法があるだろ? あれも対象の背後の1メートルに転移するよな?』
『ええ』
『人間の体の向きを利用して術を発動させている、とすると人間と言うクラスの属性かメソッドを利用していると思うんだ』
『クラス? 属性?』
『詳しい話はいずれするが、取り敢えず今から言う様なものだとまるごと覚えておいてくれ。クラスは、オブジェクトクラスとも言うんだが、あるグループで共通の概念を集めたものだ。パイラもモモもシャーロットも鼻とか右手とか正面や背後などが共通に通じるだろ?』
『……ええ』
『そう言ったパイラやモモを人間と呼んでいる。その人間の様なモノを人間オブジェクトクラスと呼ぶ。……だが、オウムの俺は人間クラスでは通用しない……』
『エコー、そこで落ち込まないで』
『あ、ああ。いや、だが動物と言うさらに抽象的なクラスでは目や心臓、正面や背後などは同じ概念が通用する、はずだ……』
『そうね。エコーも私も同じ動物よ。それにお陰でオブジェクトクラス、略してクラスの意味が分かってきたわ。属性はそれに共通して付随しているもので、魔法の対象や方向などを指定するために使われるのね?』
『ああ。飲み込みが早くて助かる』
魔法に関する質問に正否の回答を得ることができるパイラの能力を発揮するには、パイラ自身がその質問の意味を知っておく必要があるみたいだしな。
『もう一つある。クラスの実物がオブジェクトインスタンスだと言うことだ。人間がオブジェクトクラスなら、パイラやモモはオブジェクトインスタンスになる』
『個人ってこと?』
『ああ、具体的に個として認識できるものをオブジェクトインスタンスと呼んでるんだ』
『その個々のオブジェクトインスタンスは、クラスの属性を持ってるのね?』
『そうだ。オブジェクトインスタンスの共通情報を集めたのがクラスだからな。ちなみにオブジェクトインスタンスはオブジェクトとも略される』
『インスタンスじゃないのね』
『そうだな。オブジェクトクラスの略称がクラスなら、オブジェクトインスタンスの略称はインスタンスでも良いが、オブジェクトとも呼んでいたな……』
『それもまるごと覚えておいたら良いのね』
『ああ、頼む。じゃあ、パイラの能力で質問だ』
『こっちの世界の魔法は、オブジェクトインスタンスを識別するために聖刻を使う。これはどうだ?』
『……、イエスね』
まぁ、これは聞くまでも無いな。
『つまりシャーロットの右腕の位置とパイラの右腕の位置は、シャーロットの聖刻が示しているシャーロットのインスタンスと、パイラの聖刻が示しているパイラのインスタンスからそれぞれ求めることができる』
『二人とも同じ人間と言うクラスだけど、シャーロットと私は別人、つまりインスタンスが異なるからそれぞれのインスタンスの属性から右腕の位置を求めるってことね?』
『その通り! じゃあ、次だ。この
『……、イエス』
『よし』
『それを知って良いことがあるの?』
『もちろん良いことがあるさ。人間を使わずに呪文の実験ができる様になる。パイラやシャーロットの代わりに
『あ! そうね。
『あとは位置を検知する魔法を覚えられれば良いのだが……』
『それは、商売神の神聖魔法なのよね……。聖刻の取得と魔法の習得が難しそうね』
『まぁ、ダメ元で可能性を探ってくれ』
『ええ分かった。シャーと探ってみる』
『あ、それから、この
『ちょっと待ってね』
パイラがそう言うと暫く沈黙が続いた。また、シャーロットに尋ねているのだろう。……ちょっとさっきより時間がかかってるな。
『シャーが手配してくれるって』
貴族の娘だから何とかなるのかもな。
『時間がかかってたな。シャーロットは何か条件を出してきたのか?』
『いいえ、ずっとこのままの関係で居てって……』
……どえらい要求を放り込んで来た気がする。
『パイラの妹分ってことか?』
『そう、かしらね?』
なんか違う気もするが……。
『あ、そうそう妹と言えば話は変わるが、パイラとモモにも妹弟子が居るのか?』
『え? ええ。ラビィの事ね』
ラビィ? どこかで聞いた事が有るぞ。
『どんなやつだ?』
『
モモと同じぐらい世話がかかるだと!?
『俺がお前たちに初めて会った時、ラビィはモモと同居していなかったよな?』
『ええ、私が学園に来たのと同じ頃に、バーバラ師匠の元を離れて泥沼の人形
『どんな能力なんだ?』
『えっと、爆発する物質を呼び出す事ができる能力よ』
『凄いな』
『でも物凄く使いづらいの。本人はそれをいつも気にしてたわ』
『威力が弱いのか?』
『威力を上げると、自身にもダメージを与えてしまうのよ』
『自分にもダメージを与える?』
『そうよ。威力を上げるには身近で爆発させる必要があるの』
『……そりゃ使いづらいな』
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