第50話 遺跡を見つけた
* * *
パイラとシャーロットは逃げてきた集落から離れるべく、かれこれ四、五時間歩き続けていた。足跡が残っていないかを確認したり、時折現れた小川があればその小石が敷き詰められた川原を歩いたりした。街道に出ればそこを通る旅人に援助を求める事もできそうなのだが、まず街道に行き当たらなかった。
空が暗黒色から青紫色に変化し終わっている。そろそろ夜明けだ。地平線は見えないが木々の間からオレンジ色の雲がちらほらと見え始めた。
『休まなくて大丈夫か?』
『ええ、なるべく遠くまで行きたいわ。でも、安全なところがあれば小休止したいわね』
危険な野生動物や魔物には今のところ遭遇していない。だが、その危険もあるのだ。役に立つか不安はあるが、念のため手頃な細かい枝をはらっただけの木の棒をパイラもシャーロットも持っている。杖代わりにしたり足元を探ったりで便利ではあった。
森の中に突然、ずいぶんと長い間放置されたままの低い石垣が現れる。蔦や木の根があちこちに絡まっている。
『人が作った物だな』
『ずいぶんと古いわね』
『身を守るのにちょうどいい場所があれば良いんだがな』
『ええ』
暫く歩いていると、巨木の根が絡まった釣鐘型の石造りの建造物が現れた。その表面の九割以上は木の根で覆われている。建造物を構成する石は欠けていたり苔が生えていたりしているが建物自体はしっかりとその形を維持していた。その建物に近づくパイラとシャーロット。その建物の後方は小高い丘に接しており、土や木々で覆われていて全容を伺うことは出来なかった。
まるでこの建物は丘の下に入るための玄関の様だな……。
その予想通り、建物に絡む蔦の隙間から鉄製の扉が顔を覗かせていた。長年の風雨にされされているにも関わらずその鉄製の扉は赤錆は浮いていない。かと言って光沢が有るわけではない。これは黒錆と言うのか? 侵入を阻む機能を損なっていないその扉に近づくパイラとシャーロット。
パイラがその扉を調べ始めた。
『入るのか?』
『どうかしら?』
扉には、パイラの胸の高さあたりに幅十センチメートル程の横長の穴が空いていた。それを覗き込むパイラ。
『真っ暗で何も見えないわね』
すると視界の端に
『火の精霊の魔法か?』
『ええ』
パイラは覗き込んでいる視界を邪魔しないように、真正面方向からずらして炎を発生させた様だ。その穴の向こうには十メートルほどの石造りの通路が伸びていた。壁や床は人が手入れをしている様子は無いが意外な程に綺麗だ。通路の先は広い空間が有る様だが詳しい様子は見えない。
『この中なら休めそうなんだけど』
『何なら、お前の能力で確認してみるか? この建物の中はパイラたちに危害を加える何かがある、とかな』
『……、ノーよ』
「シャー、この中に入ろうと思うのだけど、私が様子を見ている間待っててくれる?」
「嫌よ。私もお姉様と一緒に行きますわ」
「そうね、分かったわ。じゃあ、呼び寄せるまで待っててね」
「ええ」
そう言うとパイラは自分の背中を扉にピタリと寄せ、
「お姉様」
後ろからシャーロットの声が聞こえ、すぐにパイラの左手が握られる感覚が伝わってきた。転移したシャーロットがパイラに身を寄せてきたのだ。
「何かあったら、扉に向かって走って。そして扉に背中を付けて待機しておいてね」
「分かりましたわ」
右手の指の先に小さな炎を出してゆっくりと前に進むパイラ。
通路の奥の空間の様子が少しずつ見えてきた。その床はこの通路から幾分か下がっていた。空間の中央には石で作られた土俵の様な台座が有り、その周囲には四本の石柱が天井を支えている。空間は正方形で松明を差す金具がいくつか備えられていた。その床には幾つかの木の棒や、壺が置かれている。木の棒は松明に使えそうだ。栓が付けられていない壺には何も入っていなかったが、しっかりと栓が閉まっていた壺には油が入っていた。
『取り敢えず休みたいわ。沢山魔法を使ったから眠くなってきたわ』
『ここで休むのか?』
『ええ』
「シャー、ここで休むわ。魔法を沢山つかったから少し眠りたいの」
「もちろんですわ、お姉様。私は全然眠くないから見張りをしますわ」
「ありがとう、何かあったら起こしてね」
パイラが油に浸した松明に火を点け、シャーロットに手渡しながら言った。そして空の壺の内側を手で綺麗にした後、水を発生させ壺を満たした。さらにその壺に人差し指を浸して魔法を唱えた。
『今の魔法は何だ?』
『水を生成する魔法と、水を綺麗にする魔法よ。もちろん水の精霊魔法ね』
『色々覚えてるな』
『すべてが非攻撃系の魔法だけどね。学園で好きに読める魔導書はそれぐらいだったから。でも、
パイラは壺の水を手ですくい飲んだ。
「うん。大丈夫みたい。シャー、ちょっと休むわ。水は好きに飲んでおいてね」
「何かあったら起こしますから、安心して眠ってくださいませ、お姉様」
「ええ、おやすみ」
パイラは壁に寄り、床に仰向けに寝転び目を閉じた。
『目が覚めたら呼んでくれ』
『ええ、また後で』
『じゃあな』
俺は自分のオウムの体に戻った。朝日が横から差し込み、荷車の荷台に居る俺も照らされている。シャルは荷台には居らず焚き火の周辺で朝食を用意していた。モモも起きて大きく伸びをしていた。俺は荷台の縁に飛び移った。
「あらエコー、おはよう。姉さんはどうなったの?」
俺を見つけたモモが言った。
「ああ、脱出は上手くいった。今、ひとまず安全な場所で休んでいる」
「まだ完全に助かった訳じゃないの?」
「ああ、簡単には入れなさそうな遺跡に潜んで魔力の回復をしているな」
「遺跡なのですか?」
根菜を切る手を止め問うてきたシャル。
「あ、ああ」
「どんなお宝が眠っていましたか? ここからすぐに行けそうですか? どうですか?」
包丁を手に俺に迫ってくるシャル。おい、怖いぞ。
「落ち着けよシャル。場所は分からん。パイラが落ち着いたらその場所が何処だったかを確認しておいてやるよ。だが、そこはちょっと広い空間で中央に台座が有っただけで他に目ぼしいのは何もなかったぞ?」
「甘いですエコー。そういう何も無さそうなところこそ、何かが隠されているのですよ」
シャルは焚き火に戻る際、包丁を振り回しながら言った。
「ああ、せいぜい気をつけるよ」
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