第48話 パイラが新たな使い魔を得た
パイラがシャーロットをちらりと見た。パイラもシャーロットも正座の様な格好で膝を突き合わせている。
『シャーロットが契約魔法を受けることに同意してくれるかどうかが問題だ。あと、この使い魔の契約魔法を解除する方法はあるのか?』
『分からないわ。せっかく使い魔にした動物を手放す魔法使いはそんなに居ない気がするわ』
『脱出した後に探すしか無いよな』
『そうね』
『だがしかし、まずは脱出する事が必要だ、その点をシャーロットに説明してくれ。お前に対する信用とかなりの覚悟が必要な筈だ』
『……、分かったわ』
パイラはシャーロットを正視した。
「シャー、話があるの」
外の監視に効かれないように、パイラはシャーロットに抱きつき耳元で囁く。
「あ! 何ですかお姉様?」
狼狽える様子のシャーロットもパイラの耳元で囁いた。
「私一人ならここから脱出できる方法があるの。でも、シャーと一緒にじゃなきゃ私は嫌なの。二人でこっそり脱出する方法も有るには有るのだけれども、それにはかなりのリスクが伴うのよ」
「どんなリスクなのかしら?」
「使い魔の契約魔法があるでしょ?」
「ええ」
「本当は人間に掛けることは禁忌だってことは知ってるわよね? それを私がシャーに掛けるの」
「そうすれば二人共助かるのかしら?」
「助かるかどうかはここを脱出した後の行動次第よ。でも、ここから二人で脱出しなければ何も始まらない」
「ええ」
「だから、シャーに選んで欲しいの。ここでじっとしておいて、いつ来るかも分からない助けを待つか、シャーにリスクが有るけど二人でここから脱出するかを」
「もちろん、契約魔法を掛けていいですわよ」
「でもそうするとあなたは使い魔の――」
シャロットはパイラを力強く抱きしめ、パイラのセリフを止めた。
「私は既にお姉様に助けられているわ。だからお姉様にだったらこの身を捧げても良いのです」
「ありがとう、シャー。学園に戻ったら契約魔法を解除する方法を探し出しましょ」
「ええ。でもお姉様も私も魔導書を取られてますわよ? どうやって魔法を掛けるのかしら?」
「それは大丈夫。ほら、私には秘技があるんじゃないかってあなた言ってたじゃない? それを使うの。詳しくは言えないけど魔導書がなくても使い魔の契約魔法を使えるわ。それにはまずあなたの同意が必要なの。どう? 気持ちは変わらない?」
「もちろんですわ」
「じゃあ、目を閉じて」
パイラはシャーロットから体を離した。
『エコー、掛けるわよ』
『ああ、やってくれ』
するとパイラの視界の端に
『これね』
そこには幾つかの
「リラックスしててね」
「ええ」
パイラが目を閉ているシャーロットの頭に右手を当てると、
暫く二人は微動だにしなかった。俺が魔法を掛けられた時は力強く奇妙な感じの奔流に抗ったのだが、その戦いが二人の間で行われているのだろうか。いや、シャーロットは受け入れる事を容認しているので戦いでは無いのだろう。
「……終わったわよ」
パイラがシャーロットに言った。シャーロットが目を開けてパイラを見つめると、少し涙目の様だった。
「気分はどう?」
「なんだかお姉様と繋がっている様な温かい感じ……」
「そ、そう」
大丈夫……、だよな?
『エコー、次はどうするの?』
『あ、ああ。まず
『ええ』
再びパイラの視界の端に
『これね。増えているわ』
『どれがどれか分からん』
『上から、火の精霊の聖刻、水の精霊の聖刻、土の精霊の聖刻、水の精霊の聖刻、名もなき精霊の聖刻、私の聖刻、エコーの聖刻、そしてシャーロットの聖刻よ』
『よし、上手くいったな! シャーロットの聖刻を
『覚えたわ』
『じゃあ、次だ。例の転移の魔法の複製を二つ作るんだ。「転移魔法その一」と「転移魔法その二」と呼ぶぞ。まずはそれらを作ってくれ』
『分かった』
パイラがそう言うと、
『複製したわよ』
『では、まず「その一」を編集するぞ。
すると
『以前、術者を示す聖刻があることを確認したよな。このスクリプトには二つあった筈だ』
『そうよ。これとこれ』
パイラは親指と人差指で聖刻の文字列を挟むように示した。その手の動きを不思議そうに目で追うシャーロット。
『「転移魔法その一」は最初の術者の聖刻をシャーロットの聖刻に置き換えて保存してくれ。そして「転移魔法その二」は二つ目の術者の聖刻をシャーロットの聖刻に置き換えて保存するんだ』
『それだけ?』
『ああ、それだけだ。このスクリプトの二つの術者の聖刻だが、どちらかが転移対象を指定するためのもので、残りのもう一方が転移先を指定するためのものだと思う。だから、今作った『その一』と『その二』の魔法の効果は、どちらかがシャーロットを術者であるパイラの後ろ1メートルに転移させ、もう一方が術者であるパイラをシャーロットの後ろ1メートルに転移させる筈だ』
『……、答えはイエスよ』
あ、そうだった! パイラの能力を使って確認すればよかったのだ!
『そ、そりゃそうだろ。お前わざわざ能力を使ったのか?』
『ええ』
『そうか、念には念を入れてってことだな。ありがとう』
『どういたしまして』
「お姉様?」
暫く俺との念話に集中していたパイラはずっと黙っていたので、シャーロットが心配そうな顔をしている。
「あら、シャー。ごめんなさい。もう少し待って。頭の中を整理しているから」
「ええ、もちろんですわ」
『すぐ使うの?』
『いいや、夜中だ。明け方に近すぎても駄目だ。脱出してから奴らに気づかれる時間が長ければ長いほど良い』
『じゃあ、それまでは体力温存ね』
『ああ、眠れるなら眠っておいてくれ。シャーロットにもそう言ってな』
「シャー、準備が出来たわ。夜中になるまで体力を温存するわ。眠っておいたほうが良いのだけど眠れる?」
パイラは再びシャーロットに抱きつき耳元で囁いた。
『俺も一旦戻って眠ってくる。何かあったら呼んでくれ』
「ところでお姉様、頭の中に直接響いてくるこれはお姉様なのかしら? 聖刻とか、保存とか……、あとエコーって
あっ! 契約魔法を使ったから、シャーロットもパイラと念話が使える様になったのか!
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