第31話 ラビィに好かれた
しゃがみ込んで俺を覗き込んでいる女の黒目は小さめで、白目の領域が大きかったがキラキラと輝いていた。
そんなに俺の事が気に入ったのか?
動きやすそうな服を着ており要所要所は革で補強されている。剣の類は帯びていない様だが冒険者の様だ。
「しかもこの子、喋れるんだろ? 遠くからこの子が喋っている様子が見えたぞ」
俺は止まっていたシャベルからファングの肩に飛び移った。
「あ、待ってよ」
手を伸ばして止めようとする女。
「なぁファング。俺は喋れることはできるが、人と対話することはできないって事にしてくれ」
頭頂部近いところに有る耳に向かってささやく必要があるが、俺はファングの耳元で囁いた。
「分かった」
とファング。
「エコー、喋る。エコー、喋る」
俺はわざとにバカっぽく喋ってやった。
「ほらほら! 喋ってる。 かっわいいなぁ!」
「エコー、カワイイ。エコー、カワイイ!」
「その子、エコーって名前なんだな? な? そうなんだろ?」
「ああ。そうだ」
ファングが再びツルハシを振るい始めたので、俺は再びシャベルの持ち手に飛び移った。
「ボクはラビィ。よろしくな、エコー」
俺は何も答えず黙って首をかしげてみせた。
「ラビィだ。ほら、言ってみなよ」
「ラディ」
面倒くさいからわざとに間違ってやった。
「ラ、ビ、イだよ。ラビィ」
「ラディ! ラディ!」
ふん、まいったか。
「……。ま、良いだろう。ねぇそこのきみ。この子を譲ってくれないか?」
ラビィは俺から視線を外し、ファングに向かって言った。
「無理だな」
水路を掘る作業を止めずにファングは言う。
「どうしてだ!?」
「俺は飼い主じゃない」
「え!? じゃあ、もらっても――」
ラビィは両手を俺に伸ばしながら言ったのだが、
「ここじゃないがちゃんと飼い主は居るぞ。飼い主と言うのが正しいかどうか分からんが」
とファングがラビィの台詞を遮った。もちろん俺は飛んでラビィの魔の手を避けている。そして再びシャベルの持ち手に止まった。
「じゃあじゃあ、その人はどこにいるんだい? 譲ってもらう様に交渉したいんだけど」
まだ食い下がる気かよ……。っと、もう一人、
つるりとした頭には一房の白髪が
「……まぁ、少なくともこの街じゃない」
ちらりとその老人を見たファングは、作業の手を止めずに言った。
「どこの街?」
「確か、魔法学園がある街だな」
「ラマジー? ラマジーだな!? ここの近くだと魔法学園と言えばラマジーじゃないか。な? そうなんだろ?」
「ラビィ」
俺たちの近くに来た老人が、ラビィの肩に触れながら言った。
「アーケロン」
ラビィは振り返ると同時に言った。俺に夢中になってて、その老人が近づいてきていたことに気づいていなかった様だ。
「何を油を売ってるんじゃ? 行きますぞ」
「あ、でも、この子――」
「行きますぞ」
肩をしっかりと握ってラビィを黙らせたアーケロンと呼ばれた老人。
「痛いたたたた! 分かった! 分かったから」
「よろしい。ラビィには果たさなければならない仕事があるんじゃろう? 油をいくら売っても強くはなれぬぞ」
「分かってるよ! でもちょっとぐらい――」
「ささ、行きますぞ」
「痛いたたたたたたた! 分かった! 分かったからって。あ、ちょっと、その子、貰えるかどうか飼い主に聞いておいてくれる?」
アーケロンに諭されて、いや強引に連れさられていくラビィの声が遠ざかっていった。
「何だったんだろうな……」
「さあな。エコーに夢中だったみたいだが?」
「俺みたいな鳥のどこが良いんだか……」
「人の好みは分からんからな」
「お前が言うと、妙に説得力があるな?」
「そうか? 俺は普通の人と同じ様に幼女に目が無いだけだが?」
「それは普通じゃないぞ。繰り返して言うが、それは普通じゃないぞ」
そう言いながら俺は、ファングを放っておいてパイラの様子を見に行くことを考えていた。
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