第26話 斡旋所で請負人登録した

  *  *  *


 モモ一行はオーガーを討伐した後、デビュトの街に入り、まずクエスト斡旋所を探し出してそこに向かった。木の板でできた塀に囲まれた敷地の奥にあるその二階建ての建物は、直方体の箱の上に屋根を被せただけのシンプルな外見だった。


 荷車を敷地の隅に停めて、俺たちはモモを先頭にしてその建物に入った。俺はモモの肩に止まり、ファングはシャルを守るようにその斜め後ろに付いている。


 一階のロビーに入ると、奥一面がカウンターになっていた。その手前の空間には家具などは置かれていなかった。両サイドの壁には、紙が貼り付けられている掲示板が並んでいる。


 職人らしき男性がカウンターを離れ出口に向かって歩いていった。入れ替わる様にモモはカウンターに向かっていく。シャルとファングは掲示板に見に行った。


「いらっしゃい、何か御用?」


 カウンターの中年女性がモモに尋ねた。


「クエスト請負人登録をしたいのだけれど、良いかしら? 登録したいのは二人で、紹介者は私」


 そう言ってモモはポーチから取り出した銀細工のブローチと紙をカウンターに置く。


「分かったわ。ナタレのモモちゃんね。ちょっと待ってて」


 ブローチを手に取りその裏側を見た受付の女性は、そう言った後カウンターから離れて奥の扉に消えた。


「今出したのは何だ? そう言えばルーラルと初めて合ったときにも見せてたな?」


 俺はこっそりとモモの耳元で囁いた。


「フフ、くすぐったいってばエコー。今のって記章のこと? あれはクエスト請け負い登録者の証よ。ナタレの街のクエスト斡旋所に作ってもらったの」

「登録者は皆、あんな装飾品を貰えるのか? 結構高そうな気がするが?」

「記章は他の街で活動しようとする冒険者が買うの。その街で培った信用を他の街でも通用させたい人がね。街を移り渡く冒険者や、街から遠く離れた場所で活動する冒険者が作ってもらうことが多いわよ。でも値段が高いのが難点」

「なるほどな」


 そんな会話をしていると、受付が戻ってきた。


「モモちゃんの信用は問題なさそうね。はい、これは返すわ」


 モモが渡したブローチと紙をカウンター上に置く受付。


「それじゃあ、登録したい人を連れてきて」

「シャル、こっちに来て。犬もよ!」


 モモが二人を呼んだ。


 そしてその後二人の登録のための質疑応答がカウンター越しに交わされた。


  *  *  *


「はい、これがちっちゃいシャルちゃんの証書、こっちはたくましいファングちゃん用ね」


 名前がタタであると言った受付の女性が、カンター上に紙を二枚置いた。それを受け取るシャルとファング。


「あ、そうそう。ルーラルってここに登録されている冒険者よね?」


 モモがタタに尋ねた。


「あらまあ、ルーラルちゃんと知り合い?」

「さっき街の外で組んだのよ。私とファング、ルーラルとシムとでオーガーを討伐したわ。これが証拠」


 そう言うとモモはオーガーの角をカウンターに置いた。


「オーガー!?」


 目をまたたいて暫く喋らなかったタタ。


「ルーラルちゃん達はゴブリン退治に行った筈よ?」

「ええ、そこにオーガーが現れたのよ。それで私達が支援したの。それから、これもルーラルに渡しておいて貰えるかしら」


 モモから合図されたファングが、折れたスーサスの槍の穂とポーチをカウンターに置いた。


「え? これは? ……スーサスちゃんの?」

「ええ、オーガーを討伐した後、ルーラル達と別れた私達が見つけたの。ルーラルが戻ってきたら渡していて頂戴」

「……そう。分かったわ」


 ある程度の状況を察した様子のタタがそっと言った。


「じゃあ私達は宿を探さなきゃならないから今日はこれで退散するわ」


 モモはタタにそう告げると出口に向かって歩き出し、シャルとファングがその後に続いた。


『エコー、ちょっと良いかしら?』


 とその時、パイラから念話が届いた。


『ああ』

『今晩、お話がしたいんだけど』

『分かった。これから宿を探すから後で連絡する』

『今日は街に泊まるの?』

『暫くこの街に駐留する様だ。それじゃあ後で』

『また後で』


 そしてモモたちはクエスト斡旋所を後にした。

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