第27話 魔法の構造を深掘りした
『それでね、ちょっと見てほしいものがあるの』
パイラが念話でそう切り出した。俺は今、宿屋の二階の一室にいる。ファングとモモとシャルはこの宿を押さえ、俺の食事用の小皿をこの部屋に残し夕食に行った。
パイラは自室の机の前に座っている。俺はすでにパイラの感覚を共有していた。
『で? 何を見せてくれるんだ?』
『スクリプトをずっと眺めてて気づいたことが幾つか有るの。それをエコーに聞いてもらいたいのよ。あなただったら前世の知識で何か教えてくれるかも知れないでしょ?』
『そうかもな。まぁ期待はしてくれるな』
『じゃあ、感覚を共有するわね』
既に見せてもらっているが、
『頼む』
『はい、どうぞ』
『で、何だ?』
『魔法の呪文を構成する文字のことなの』
『ほほう?』
『意味を考えるより前に、数に注目してみたのよ』
そう言うとパイラは視野内に
『なるほど』
『まずこのスクリプトを見てみて。左右対象の形の記号が有るのが分かる? これとこれよ』
パイラは半透明の
確かに一つ目の記号と二つ目の記号は左右対称だった。
『確かに左右対称だな』
『そしてね、左右対称の記号の数が、どのスクリプトでも必ずそれぞれ一緒の数なの。つまりどちらかの記号が九個あったらその左右対象の記号は必ず九個あるの』
なるほど、その記号は括弧の開始と終了を意味していると言う訳だ! ところどころ空白があるものの、ウィンドウの左端から右端までみっちり詰まった行が何行もあるスクリプトでそれに気付くとは、
『お前、すごいな』
『え? そうなの?』
『じゃあ、それらの左右対称の記号の対のうち、必ずスクリプトで先に現れる方を開始ブラケット、そうじゃ無い方を終了ブラケットと呼ぶぞ』
『開始ブラケットと終了ブラケットね。分かったわ』
そして開始ブラケットと終了ブラケットの間には区切り記号が現れる事があるはずだ。
『パイラ、お前のギフト技能で確かめてくれ、「スクリプトで現れる開始ブラケットと終了ブラケットの間に二つ以上の意味要素を分け隔てるときに使う記号が有る」という問が正しいかどうかを』
『分かったわ。……答えは、ノーよ』
あ、あれ? カンマの様な記号をセパレータで使うんじゃないのか?
……まさか空白がセパレータ?
『じゃあ、これはどうだ? 「スクリプトで現れる開始ブラケットと終了ブラケットの間に二つ以上の意味要素を分け隔てるときには空白を使う」』
『えっと……。イエスね』
よっし! 魔法のスクリプトは明示的なセパレータを使わない文法なんだな。……使いづらい。
『お前が気づいた事はそれだけか?』
『いいえ、もう一つあるの』
そう言うと、パイラは
『
『ええ。
『
『ええ、作った
『なんだ?』
『今表示されているところから
『ああ』
まぁ、そうだな。
『それでね。気づいたというのはもっと上層にも移動できるってことよ』
『そうなのか?』
『ええ。じゃあ今表示されているところから上層に移動するとね』
パイラがそう言うと
『これが一つ上層の内容だな?』
『ええ』
『どっちがさっきまで表示していた
『下の方よ。上の
『なるほど』
『じゃあ、さらにもう一つ上層に移動するわね』
パイラがそう言うと
『これは何か分かるのか?』
『ええ、一番上が火の精霊の聖刻。次が水の精霊、そして土の精霊、水の精霊の聖刻と同じ記号よ。つまり私が知っている聖刻のリストなの』
『残り二つは?』
『下から二番目を表示すると、さっきまで表示していた所に戻るの。そして一番下は表示することができないの』
『ふむ。下から二番目はパイラ、お前の
『……答えはイエス。……私にも聖刻があるのね』
『じゃあ、最後の一つは何の聖刻だ? お前が知っているはずの精霊の聖刻じゃないんだな?』
『ええ』
『お前と魔法的な繋がりがあるもので、他に何か思い浮かぶものは無いのか?』
『そうね……。エコーぐらいかしら』
『え? 俺?』
『ええ、使い魔の契約で繋がっているでしょう?』
『ま、まあ、そうだな』
とするとパイラが参照できない用にプロテクトをかけているのは俺ってことか? 感覚の共有を許可するみたいに
俺はパイラに俺の
『じゃあもう一度、一番下の
すると、
『二行目の
案の定、何も表示されなかった。
ふむ。じゃあ、一行目の
そうか! ギフト能力か!
『パイラ、もう一度上層に戻ってくれ』
『はい』
ウィンドウには再度、先程の二行が表示されていた。
『パイラのギフト能力で確認だ。「表示されている一行目は俺のギフト能力の聖刻である」だ』
『待ってね。……イエス。ってことは、私の方もギフト能力ということね』
『だな。ところで、精霊とパイラと俺の聖刻が表示されていた
『ええ、これよ。ここより上層には行けないわ』
ウィンドウには、二行の記号が表示されていた。
『上の
ウィンドウの表示が切り替わると、十数行のリストが表示されていた。
『なんだこれ?』
『手がかりは全く無いわ』
『そうだな。今日はそろそろ終わるか……』
『そうね。今日は人にも聖刻があるということと、その人の聖刻
『ああ。じゃあ感覚の共有を解除していいぞ』
本当は解除は出来ないのだが俺はパイラにそう言った。
『じゃあ、念話も終わるわね』
『ああ、おやすみ』
『おやすみなさい』
俺はパイラの感覚を切らずに暫くパイラの様子を覗いていた。
「この魔法の力で、復讐もきっと上手くいく……」
そんな物騒な独り言を漏らして、パイラは就寝の準備をし始めたのだった。
もしかしたらパイラの事をちょくちょく監視しなければならないかも知れない。俺はそう心に留めてパイラとの感覚共有を切った。
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