第23話 オーガー討伐依頼を請けた
* * *
ファングが
俺は旗竿の先に止まって前方を眺めていた。その先には立派な石壁で囲まれた街が見えた。壁の所々にある節の様な側防塔には、それぞれに青い旗がたなびいている。
「なぁモモ、なんでファングは人に戻ってるんだ?」
「あの街を出るときは、クエスト斡旋所から貰う予定の登録記章を利用して出門するつもりだからよ」
「分からん。登録記章がなくて入れるんだったら、出るときも使わなくてもいいだろ」
「あんた、分かってないわね」
「だから、分からんって言ってるだろ?」
「それはね、私達が冒険者一行だからよ」
「一行だから、なんだ?」
「だから――、って誰か来るわ」
モモが目を向けた前方から、冒険者風の男女二人がこっちに向かってきていた。二人の表情はこわばって見える。モモはやや警戒の色を見せながら二人を待った。
その間に俺は旗竿の先からモモの肩に移動した。
「君達は冒険者か?」
男がモモの正面まで来ると、ポーチから取り出したブローチをモモに見せながら尋ねた。十代後半と見られるその男は左の腰に剣を佩いている。俺はそいつを戦闘力がモモのやや下であると判定した。その男の隣の女冒険者も同様に十代後半。弓を左手に持ち、背には矢筒を背負っている。その戦闘力は、素早さこそ高いが総合的に隣の男には劣っていた。
「ええ、だったら何?」
ぶっきらぼうに答えるモモ。
クエスト募集中の幟をちらりと見ると、その男は話し始めた。
「緊急の依頼があるんだ。できれば君達が腕のいい冒険者だと良いんだが……」
「少なくともお前の方がこいつより戦闘力は上だ」
俺はモモの耳元でそっと囁いた。
「ふっ。腕の有る剣士は自他の度量を見極められるわ。少なくとも私はあなたより腕が良いわよ。何なら試してみる?」
ポーチからブローチを取り出して目の前の男に見せながら、勝ち気なセリフを吐くモモ。
「この人も冒険者なんだよな?」
男がファングを指して言った。
ファングはそれまで持っていた荷車の
人型のファングの戦闘力は以前見定めた事がある。ところどころに金属を仕込んだ手甲やブーツを武器にするのだが、モモと互角の戦闘力を持っているのだ。ギフト能力を使う分、俺が見定められないところでモモが僅かに上回っている。
「ええ、私と同じぐらい強いわよ」
それを聞いて目配せする冒険者風の二人。
「だったら! だったら私達を助けて!」
女冒険者が言った。
「どういう事?」
「私達の仲間が一人行方不明なの、一刻も早く捜索に戻りたいんだけど――」
「請けてくれるなら移動しながら説明したいんだが」
女冒険者の話を引き継いで、男冒険者が街道を外れたほうを指しながら言った。
「困ってるんでしょ!? もちろんよ行くわよ、みんな。さぁ、案内して!」
モモが即決する。
「良いのか?」
俺はモモに囁いた。
「あったり前でしょ。困ってるなら断る理由がないわ!」
正義感が暴走し始めたモモが言った。
* * *
街道を外れ、舗装されていない細い道を進んでいく一行。その間の男の話はこうだった。
男冒険者の名前はルーラル、女冒険者の名前はシム、そして行方不明の槍使いの男冒険者の名前はスーサスという。彼ら三人は幼馴染で二年前からこの街で冒険者をしているとのこと。主にゴブリン退治や害獣退治のクエストを請け負って生計を立てていた。今回もゴブリン退治を請け負って森に踏み込んでいたのだが、ゴブリンとの戦闘中にスーサスと
「そこにオーガーが居たんだ」
と、ルーラルが言った。
「オーガー!?」
驚くモモ。
「ってどんなヤツだ?」
俺はモモに聞いた。
「個体ごとに異なるギフト能力を使う人型のモンスターよ。身長は、人間の身長のおおよそ五割増し。身体能力も人間より優れている。武器を使う奴も居るし、使わない奴も居る。一対一で戦って勝てる冒険者はなかなか居ないわ。こいつは是非とも
「油断するなよ。オーガーは能力次第で戦闘力が大化けするからな」
ファングが荷車を引きながら言った。
「あら、犬はオーガーとやったことが有るとでも言うの?」
「ああ、修行中に偶然な。それと狼だ」
「それで? 勝敗は?」
「運良くそいつの能力との相性が良かったから勝てたぞ。そのオーガーの能力は
「それで、今回の奴はどんな能力なの?」
モモはルーラルに尋ねた。
「ああ、どうやら木を鉄に変える能力の様だ」
「あら! それはラッキーね」
ラッキーなのか!?
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